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0月0日-ドラゴンズソウル-  作者: 渡辺ころも
第一章第1説 「異世界」
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《007》

《007》


「それでは説明の続きを致します」

「あぁ苦しゅうない。続けてくれたまへ」

「この世界においての魔法と言うのは、どれだけ正確にイメージ出来るかが一つの鍵になります」


 俺は首をかしげて悩んだ。


 魔法と言うのはテレビゲームに登場するようなもので、使いたい魔法を言葉で唱えれば勝手に発動するものとばかり思っていたのだが……どうやらこの世界では少し違うようだな。

 さて、イメージとはどう言う事なのだろうか……。


「イメージ……? イメージってのは想像ってこと?」

「ええ、そのイメージであっていますよ。魔法を使う手順としては先ず始めに、『存在の認識』と呼ばれる作業を行うのですが、例えば『風なら風』『水なら水』、使いたい魔法の存在をイメージするのです」


『存在の認識? 風や水の存在イメージ?』

 普段の生活でそんな存在なんて考えた事……ある分けない。と言うか、水や風の存在なんて在り来たりすぎてないがしろにしてた節があるのだが……。


「そのイメージができましたら次に、それを何処にどんな形でどんな効果を持たせどれだけ発生させるかをイメージします。そして最後に魔法を発動させる。と言った様な一連の流れになっています」


 ふむ、その辺のイメージは何となくわかる。この世界の魔法と言うのは、応用力次第で色々出来そうだな。

 んー思考は現実化するってか……?


 俺はマリーの説明に促されてか、風のイメージが頭をよぎった。


「魔法と言うのは想像力が豊かじゃないと上手く扱えない感じだな」

「うーんそうですねぇ。想像力が乏しいと魔法を使うのには不向きな部分もあるかと思います。魔法が上手く扱えない人は、大概最初の存在のイメージで躓いている可能性が高いと推測されています」


 ふん。俺の想像力をなめるなよ?

 犯罪者と言う言葉は、時にそれを自覚しない者たちの事を指す。


「魔法と言うのは使用者のイメージ次第で様々な形を模る事だって可能となっています。ようするに、同じ系統の魔法であっても、●や▲、■と言った感じで常にオリジナルの魔法を創りだす事が可能と言うこと。それと、術者がイメージできるできないかは別として、この世にある全ての物体を魔法によって創り出すことも可能ですよん」


 その言葉にニヤつく俺。

 犯罪者と言うのは時に間違った正義を振りかざす者たちの事を言う。

 そして犯罪者は決まってこう言う。

『俺の想像力を必要としている奴が居るんだよ!』

 良いだろう諸君。君たちの欲望、この私が叶えてしんぜよう!

『いざ巻き上がれスカート!』


「領太様……何を想像なさっているのかは解りかねますが、お忘れですか? 嶺太様には魔法を扱うことは事は出来ませんよ」

「は、はぁ? な、何言ってんだよ! そ、想像だと!? お、俺がそんなことするわけ無いだろう! はは、ははは……」


 俺は慌てて体裁を保つために嘘をつく。しかしその声は裏返っており、マリーの前ではばれていただろう。

 頭を抱え、肩を落とし、血の涙を流す。

 俺は何度このやり取りをすれば気が済むんだ――。

 学べ、学ぶんだ! そして考えろ!

 こうなったら魔法でスカートを捲るんじゃなく、手で捲し上げるしかないな……どんなに世界が変わろうとも、やはり最後は物理的干渉が一番有効な手段となるわけか……。


「領太様ってほんと魔法が好きなんですね――。んーしょうがないですねぇ。これはまだ秘密なのですが、実は嶺太様でも魔法を使える方法は存在していますよ」

「なん……だと? まじでか? 俺でも魔法が使える方法があるって言うのか!? なあなあなあ、もったいぶらずに教えてくれ! 俺だって魔法を使ってみたいんや!」


 気付いたら俺は目を血走らせながらマリーに食いついていた。

 先ほど流した血の涙が、いかがわしい感じで誤解を招く。

『狂気の沙汰』

 この際そんな体裁は気にしていられない。形振り構ってなんかもいられない。例え警察に通報されようとも、今は生き延びる為の手段は一つでも多く知識として収集すべきだ。

 俺は常々そう思いながら生きている。


「あはっ。嶺太様、その顔怖いですよ。とりあえず落ち着いて下さい」

「お、おうう。そ、そうだな……そうだよな」


 俺は慌ててその表情を整えなおすが、引きつった顔はそんな簡単に戻らない。


「――ごほん。ええ、領太様が魔法を使う為の方法は二つあります。その方法と言うのは――」

「お、おう……そ、その方法は……?」


 俺はマリーの答えに期待した。

 俺が魔法を使う為の方法か――。

 まさか、妄想と言う落ちじゃないだろうな……?

 もしかして子供染みた玩具とかいう落ちじゃないだろうな……?

 これを装備すればあなたも魔法使い!

『魔法少女』的なー?

 ごっこ遊びかよ!


「その方法と言うのは、魔法の力が宿った道具を使うこと――」

「なるほど。やはりそうだよな」

「領太様も薄々気づいていたようですね」


 やはりそうきたか。道具で魔法が扱えるというのは定番と言えば定番の方法……。そもそもこの定番はゲームの世界の定番であって、この世界はゲームの世界では無い。はず……いくらなんでもこの世界がゲームだなんて唐突過ぎる。そもそも今俺がこの世界にいること自体が唐突過ぎるんだけど……。

 まぁ認識としてはそれでも良いかもしれないが、俺の常識の定番と言う意味では全く違うよなぁ……。

『関西人がお好み焼きをおかずにご飯を食べるもの』

 これを定番と言うのだよ。

 この流れでは全然関係ない話だがな。


「魔法の道具、魔道具、魔具、ちょっと便利な夜のお供、生活の友、と言った様々な呼び名はありますが、この道具の雅名は《イグルー》、この世界には様々な形のイグルーが存在しています」

「い、イグルー……?」


 色々突っ込み満載名呼び名が聞こえたが、イグルーという名前は聞きなれない名前だな。あぁもしかしてあれか、『東北の野球チーム』……。

 それはイーグルスや!


「このイグルーについて簡単に説明しますと、このイグルーの核となる部分には魔力を秘めた鉱物を使用しているのです」

「鉱物……?」

「この世界の鉱物資源の中には、魔法の力が秘められた鉱物が存在しており、この鉱物を魔法が使えない人間が使用しても大丈夫なように、原石を少し加工する必要があったのです」

「なるほど加工か……」

「そしてこの加工を施した鉱物を、色々な道具に組み込むことによって魔法の道具……、イグルーとなるのです」

「……その加工と言うのはどう言う意味なんだい? 鉱物の見た目を良くする為に加工するって言うことなのか?」


 鉱物の加工と聞くと、ダイヤモンドと言った所謂宝石系の類、石炭といった物も思いつくが、その加工と言う話を聞くと、どうやら宝石の身なりを整える為の加工の様な感じがする。

 マリーの話を聞く限り宝石の加工と同じ香りがするが、もしそうだとしたら、イグルーと言うのはお洒落な道具って位置づけ? って、お洒落の意味が違うな。使うことがお洒落か、ファッションとしてのお洒落か……?

 まぁ原石のまま使うのは、見た目にも悪いし、ファッションとしても使い辛いってところかな。


「んーそうですね、加工と言う言葉の中には、石の身なりを整える意味合いも含まれていますが、この加工が必要とされる最もの理由は唯一つ、加工を施していない原石の取り扱いが非常に難しいのです」

「取り扱いが難しい? と言うと……?」

「魔法を扱えない者にとって、加工の施されていない原石と言うのは、出力調整が非常に難しく、過去に大怪我を招く事故が多発してしまった経緯があるのです」

「……なるほど、事故か……過去にそんなことがあったのか……」


 道具と言うのは得てしてそう言う過去を持ち合わせている。怪我をして始めて規制が引かれ、そして事故防止の技術は研鑽して積み上げられていく。

 便利な道具ほど危険が付きまとうってことか。

 まぁ、お洒落の加工って言うより、そう言う意味での加工か……また勘違いしてしまっていたな。

 うぬぅぅ……。


「それを防ぐ為に考案されたのが、鉱石の表面を特殊な技術でコーティングすると言った方法なのです。そしてこの特殊コーティングを施すさまが雪で作る《かまくら》と似ていた為、魔法道具のことを《イグルー》と呼ぶようになったのです」

「かまくらってことは、ようは出口を一箇所にして全体から漏れ出る魔法? を一点放出にして魔法をコンロールしようとした――ってこと?」


 何故かまくらと聞いて俺はこんな答えを言ったのだろうか。


「ま、簡単に言えばそんなとこですね。鉱石全体をコーティングしてしまうと、魔法の出る口がなくなってしまったので、この様なかまくらみたいな格好の加工を施すことになった……まぁそれ以外にも理由はあるんですけどね――って、領太様って結構理解力がありますね」

「かまくらと聞いたら思い浮かんだよ……って何気に俺のこと馬鹿と思ってるだろ?」


 石全体から魔法が放出されるよりも、魔法の出る場所が一箇所だけならコントロールも簡単って事か……。

 まあ、簡単に言えばガスの元栓を取り付けたって事か。嫌、水道の蛇口みたいなものか? しかし『かまくら』か……、こんなところでポピュラーな名前が出てくるとは思いもしなかったな。

 でも何故?

 俺の中で新たな疑問が浮かんでくるのが分かった。だが今ここでは語らない、語ったところで答えなど出るわけなど無いのだから。


「領太様のことは馬鹿だとは思ってませんよ?」


 棘のある言い方をする。その奥に秘めたわらは気のせいではない。

 これは俺の人生経験で得られた経験値だ。

 俺の怪訝な表情を見てマリーは、「まぁまぁまぁ」と子供をなだめるように振舞う。 俺はそんな彼女の振る舞いを見て、なしつぶてだと悟り、反論することは止めた。


「この様な加工を施せば、誰しもが気兼ねなく鉱石を扱えるようになったのです。素晴らしい技術ですよ、これは」


 色々疑問は尽きないが、今考えてもしょうがない。どうせ短い命だ、無駄なことは考えずに今を楽しもうじゃないか。

 俺にとって、このイグルーと呼ばれる道具で俺も魔法が使えるようになるって事が分かったのが一番の収穫だ。


『ちょっーと、た、の、し、み!』


 で、いかなきゃな。ポジティブポジティブ……。しかし、直接魔法が使えないのは寂しい気もするが、まあそこはあれだ、『虻蜂取らず』って言葉があるように、下手な欲を出すと、結局何も得られず死にたくな気分になるって言うではないか。

 ここは余計なことは考えないで、魔法が使えてラッキーって考えていたほうがいい。

 俺は慎重な男である上に殊勝な男だ。

 魔法が使えると言うならば何だってやってやんよ!

 だがしかし、人間として侵してはならぬ領域を犯すことになったらどうするか……。


「この世界も色々な変化に飛んだ町が存在しますが、鉱物の掘削だけを生業とした町も存在したり、逆に、鉱物の加工だけを請け負う町も存在してたりもするんですよ」

「ほー、鉱山都市って感じか……」


 鉱山都市と聞くと長崎の軍艦島を思い出すんだよな。

 俺はそこまで廃墟マニアでは無いが、あそこは廃墟マニアが喜ぶ一品。

 って、勝手にこの世界の町を廃墟にしてはいけないがな。


「この世界は領太様の世界と似たような世界観も存在し、鉱石や魔法のように、領太様の世界には無いような特徴を持った世界でもあるのです」

「なるほど。確かに俺の世界でもそう言う町は存在するが魔法は存在しないな……ところで、魔法が使える鉱物の種類ってのはどれぐらいあるんだい?」

「んー、実際私にはどれだけの種類の鉱物が存在しているか分かりかねます。ですが風の噂によりますと、魔法の数だけ鉱物もその種類が存在しているのではないかと言われていますねえ」

「なるほど」


 下手したらかなりの数の鉱物が存在する可能性もあると言うこと。

 想像しただけでも『止められない止まらない』だな。


「このように、この世界の都市には色々な特徴があり、領太様の世界に引けをとらないユニークな世界となっています」


 しかし、この世界は変わった鉱物が存在するんだな。

 まぁ異世界だもんな。色んな不思議なものがあっても不思議ではないか。

 目の前に妖精がいること自体夢物語……。


「それから、イグルーには使用回数の制限もあり、安い物はそれなりの回数しか使えないので気をつけてください」

「使用回数?」

「んーなんと言えばいいでしょうかねえ……石に含まれる魔法の力が枯渇する。と、言えばわかりやすいですかね」

「んー乾電池みたいなものか……」

「その様なものですね」

「乾電池を知っているのか?」

「異世界から来た人間に聞いただけで、実物は見たこと無いですけどね」

「……と言うことは、道具と言うのは使い捨て? もしかして充電式?」

「そうですねえ、どちらを選ぶかは本人次第ですね」

「と言うことは、両方の手段が存在するってことか……」

「魔法の力が切れたイグルーは、その要となる石を交換するか、魔法が使える人に充電してもらう必要があります」

「……魔法が使える人に充電してもらう?」

「まぁレアな魔法は充電する人は少ないので、イグルーの核は交換になっちゃいますけどね」

「レアな魔法……? そんな魔法も存在するの?」

「ま、いやでもこの世界で生活していけば魔法なんて理解していきますよ」

「むむむ……」知りたい気持ちと、お預けを食らうワンコのような心境だ。

「イグルーについては逆に高価な物も存在しており、それなりの使用回数を誇る物となってたりもしますね」

「高級か……、高級か安物かの見分け方はやっぱり値段とか?」

「んー値段もその一つですね。とは言えども、道具による魔法というのは高が知れています。イグルーの大半は普段の生活を補う為だけの道具だと思っておいてください」

「と言うことは、もしかして珍しいレア的なイグルーも存在してたりもする?」

「無くは無いと思いますが、今この世界の事情が事情なので、そういった情報は流れてきません。私の知る限りでは、未だ生活の為のイグルーしか見たことがありませんねぇ」


 うーん、ゲームではそう言った伝説級のアイテムは存在するけど、現実じゃありえないか。少し残念だな。って、この世界が現実だという保証は何処にも無いのだがな。

 もしかしたら、この世界は俺の夢の世界……ってなことを今更言うつもりは無いが、現実だというのもいまだ半信半疑なんだよな。


「……ん? 事情? 事情ってのはどう言うことなんだ?」

「ふふ。それは禁則事項なのでお答えできません」

「口止めされてるってわけね」

「がっかりしないでください。これから向かう町にもイグルーは至る所に見受けられます。楽しみにしていてください」

「うーん……そうだな、楽しみにしとくよ」

「ふーん、今回はやけに自重なされてますねぇ」

「……ま、まぁ……な」


 正直、期待で胸がはちきれそうになったが、実は不安が頭によぎっている。

 今までの流れからして、説明がスムーズすぎないか?

 普通に説明してくれたけど、裏がありそうで物凄く怖い……。

『じ、つ、はー、残念でしたー』っ的な?


「と、長々と説明いたしましたが、今の話、領太様には殆ど関係のない話です」


『ですよねー』

 ほらキタコレ。言ったとおりの展開だ。


「――それはどう言う意味だ?」

「そう言う意味です」

「……詳しく説明を要求する――」

「領太様の選択次第としか申し上げることが出来ません」

「……選択かよ」


 やはり何かとんでもない裏があるんだな……。


『我が人生、弄ばれて弄られて、行き着く先は涅槃かな』


 しかし、ここまで説明しておいて選択次第とは一体どう言うことのなのだろうか。

 俺の人生は『餌(確定)』だと思っていたが、違うのか。

 否、これはどのような料理になって食べられたいかって意味ではないのか!


『揚げる』

『茹でる』

『炒める』

『活け作り』


 優しくボクを食べてねっ!


 もしくは、

『おかえりなさいませご主人様。お食事になさいますか? それともお風呂になさいま

すか?』

『私のベッドに来なさい』

『……』

『返事は?』

『サー、イエッサー!』

『よろしい。10秒でしたくなっ!』


 すぐ食べられるか、それとも後にするか。

 順番が早いか遅いか……。


 だからこの話も俺には殆ど関係ないって言ったのか。

 もしかして気まぐれで説明してくれたのではないか?

 メイドならぬ、冥土の土産――。

 やばいな……ますます俺が『餌(確定)』かどうか聞く事が出来ないではないか。

 こうなると『餌(congratulation!)』


 おめでとう、あなたはただの『餌』です。

 遠巻きにそう言われている気がしてしょうがない。


『なあ、さっさと自分の立場に気づけよな? このクソ虫がっ』


 この妖精、こんな事を心の中で思ってたりしてね。

 人は見た目によらない。

 あぁこの子は人ではない。この人でなし。



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