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0月0日-ドラゴンズソウル-  作者: 渡辺ころも
第一章第1説 「異世界」
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《006》

《006》


 絶体絶命なピンチが目の前に起こっていたとしても、そこは人間の本能なのだろう、俺のお腹は遠慮なく鳴り響いてしまった。


『グゥゥゥ……』


「……」

「……あぁ、ごめん。俺、まだちゃんとした晩飯を食べて無くて――」

「あは。お腹が空いてらっしゃったんですね。ここで座って説明しているよりも、そろそろ町へ向かいましょうか」

「……町?」


 マリーは嬉しそうに飛びまわっている。なんて落ち着きの無い奴だ。って、俺が絶体絶命のピンチだって言うのに嬉しそうに飛び回りやがって……ちくしょう。これが噂の人の不幸を飯のネタにする奴か?


『メシウマ』ってね。


 俺はマリーの話を聞いていたら、こいつを捕まえて一発殴りたいとか思っていた自分の思いなんてのはどうでもよくなった。

 その前に自身の身の安全を第一に考えなければならない。

 俺は一体どうしたら良いんだ?


 本気で困ったな――時間が無いからって後回しにしていたが、これならちゃんと訓練しておけばよかったな……。


『上手に焼かれましたー!』的な?


『これはゲームではない! 現実だ!』


 冷静になればなるほど自分の立場が全く理解出来ない。現状一部理解……否、推測と言う意味で(可能性の高さで言うところの推測)、本当に俺は『餌(確定)』なのだろうか?

 町へ向かう道中、もしくは今すぐにでもこの推測を彼女に問いかけるべきなのだろうが、その勇気が俺には無い。

 真実を知るには俺の心は些か結果という答えに耐え切れないと予測されたからだ。


『真実はいつも一つ!』


 そんな台詞を好んで使う探偵君が居るが、そんな言葉を今目の前で言われたらあんた、心が折れるよ探偵君……。否、砕け散って四散しそうな……。

 きみぃ、犯人意外にそんな決め台詞吐いてみー?


『お前の真実をばらしてやんよっ!』


 果たして俺は、『餌(確定)』の為にこんな所に来てしまったのだろうか? 嫌、これだけは十二分に否定しておきたい、たとえ連れ去られてきたとしても、俺は自分の意思でここへ来たいと願ったわけじゃない!


『断じて違う!』


 俺は忙しくとも、あの現実世界に愛着を持って生活をしていた(一部ふざけた店長は除く)。なので心のどこかで異世界に憧れを抱く事(魔法とドラゴン以外)は無い。


 半ば強制的に連れ去られてきている訳だから、宇宙人による誘拐とも考えられる。

『可能性は高い』

 では、これがキャトルミューティレーションって奴なのか?

『十分ありえる』

 人生において俺は、途轍もない体験をしている訳である。だが『餌(確定)』ならば、寿命もあとわずかであろう。

 捕食される側に回るとは、虚しい人生だな――否、壮大な人生だよ。

 と、未だ推測の域を出ない考察してみたが、現時点で一つだけ解っている事実もある訳だが……その事実を聞きたいか?


 よろしい、聞かせてやろう!


『俺の残り短い人生の全てを掛けて、絶対にこの妖精を捕まえイタズラしてやんよっ!』


 イタズラシテヤル。

 ヒィヒィ、イワシテヤル。

 ハズカシメテヤル。

 グフフフ――オボエテオケコノヤロウ!


 そして、俺はこの妖精を人質にとって逃げてやる!


『お前ら近づくな! この人質がどうなっても言いのかっ!?』

『落ち着け! 落ち着いて話をしようではないか!』

『お前らと話すことなんて何もねー! ちょっとでも近づいてみー? 近づけばこの人質に悪戯してやんよっ!』

『ああ、そんな事だったら好きにしたらイイ!』

『俺の要求は唯一つ! それは――、この妖精に悪戯がしたいだけだ! って悪戯していいのかいっ!』


 心の底から最低だ。

 でもそれぐらいいだろう――残り短い人生なんだかry。


「あぁ、頼むよ……。ところで、こっから町は近いのか?」

「んーここから近い町は、南東約20キロってところですかねえ」


 マリーは町があるであろう方角を指差して言った。俺は驚いた顔でマリーの指差す方角を凝視してしまった。

『町に行けば何とかなる』そんな淡い期待も持ちたい気分だった俺の心を圧し折るには十分な距離であった。


「に、20キロ!? ちょっと遠くね? 俺ついさっきバイト先から帰ってきたばかりなんだぜ? 失礼だとは思っているが、晩飯もまだで腹も減ってるし……今そんな距離は歩きたくない……ぞ……」


 マリーは、そんな俺のわがままな言い方にも嫌な顔一つしなかった。

 そして少し考えた様子で答えてくれた。


「んーそうですねえ――今後、魔法と言うのは嫌と言うほどお目にかかると思います」


 突然マリーは俺の意に介していない言葉を話し出す。


「ん? お、おう?」

「先程簡単な魔法の説明をしましたが、もう少し踏み込んだ説明をしてから、私の魔法を使って町へ向かいましょうね」


 嬉しそうに語るマリーの言葉を聞いて思わず「は?」と俺は間抜け面で受け応えしていた。

 聊か俺の返答が間抜けだったのか、マリーが再び言ってくる。


「だ、か、ら、私の魔法を使って町へ向かいましょうね! do you understand?」

「おお!? もしかして、空間を移動するような魔法とか、空を飛んで移動出来る魔法とかあったりするのか!?」


 またもや俺は子供のようにテンションがってしまい、気付いたら腰掛けていた石から飛び跳ねるようにしてマリーに詰め寄っていた。


 今まで考えていた考察なんてどこ吹く風――。

 今まで悩んでいたのは何だったのか?

 周りから小一時間問い詰められそうだが、俺の事をこう思ってくれたら幸いだ。


『単純馬鹿』


「うぅ、ごめんなさい。個人が扱えるような空間移動の魔法及び、瞬間移動的な魔法は存在しないんです」

「ガーン(俺の夢俺の夢俺の夢)……」


 移動魔法と言うのは、魔法の中でも誰しも憧れる魔法の一つではないか!?

『ルーラ!』

 そもそもルーラとは空間移動の魔法なのか? 瞬間移動の魔法なのか?

 確か室内で使うと天井に頭をぶつけたよな……。


「ですが、空を飛んで移動出来る魔法は存在はしていますよ」

「まーじーでーかー!? おおぅ飛びたい! めっちゃ飛んでみたい!! 是非今すぐ町まで飛んで行きたいぜ!」


 ひゃっはー!

 飛べる。

 とべる。

 トベル。


『I can fly!(私は飛ぶことができる!)』


 人類の歴史において、誰も成し得たことがない究極の目標が一つある。

 それは道具を使う事無くあの大空を自由に飛びまわると言うこと――。


『Do you want to fly in the sky?(あなたは空を飛びたいと思うか?)』


 地球上に存在する生物の中で、人類程空に憧れ続ける者は存在しないだろう。『私は鳥に成りたい』と言う言葉があるように、自由に空を舞う鳥への憧れは、生物の中で人一倍強い生き物である。

 故に、人類の歴史は空の歴史と言っても過言ではない。それを踏まえて人類の歴史を振り返ると、一つの面白い真実が見えてくる。


 人間は常に空を見上げて進化してきた。四速歩行から二足歩行への進化も空を目指した結果である。この様に、四速歩行から二足歩行への進化を辿ると言うことは、人はそれだけ空に憧れたと言うことになる。


 その思いを秘めたライト兄弟が空を飛び始めて数百年。人類は、常に空を飛びたいと言う気持ちを忘れなかった。その結果生まれたのが『飛行機』を代表とした空を飛ぶ道具の数々だ。空を飛ぶ乗り物の登場により、人にとって空が最も近い隣人として身近に感じれるようになったのだ。

 人は憧れ続けていた空をついにその身の近くに置くことができたのだ。


『I want to fly in the sky!(私は空を飛びたい!)』


 だがしかし、人と言うものは欲望の塊である。その欲は尽きることの無い無尽蔵の酒蔵と呼べるだろう。人は地上だけでは飽き足らず、強欲までに隣人である空を支配下に置こうとしたのだ。

 かの有名な『空飛ぶ城』『浮遊大陸』など、その者たちは得意な科学技術の粋を持って空を支配した。だが、伝説と呼ぶにふさわしい歴史を築いたその者たちも、空の前に全て滅び去ってしまった。このように、空とは陽気な隣人ではなく、人類の前に立ちはだかる脅威だと思い知らされた格好になった。


『目がー! 目がー!』


 何時しか空は、決して交わる事の無い隣人となってしまった。

 そして神は言った、『汝隣人を愛せよ』と――。


 だが人類は諦め切れなかった……飛行石を使わず空を飛ぶと言う夢を――。

 そして人類は探し求めた……道具を身につけなくても空を飛べる方法を――。

 そして人類は研究し続けた……猫型ロボットに力を借りなくてもいい方法を――。


 そして人類の熱き思いは、新たなステージへと進み始めた。


『You can fly?(あなたは飛ぶことができるか?)』


 どれだけの人間がその研究に人生を捧げただろうか?

 どれだけの人間が空を飛ぶ為に死んで来ただろうか?


 だがこの犠牲も空しく、どれだけ月日が経とうとも、どれだけ科学技術が発展しようとも、人は道具を使わなければ空を飛ぶ事が出来なかった。


 科学者たちは諦めなかった……そして一つのヒントを見つけた。


 その昔、二人の科学者が人間が空を飛べない理由となる現象を発見していた。一人は『アイザック・ニュートン』――。そしてもう一人は『アルベルト・アインシュタイン』と呼ばれる二人の人物だ。

 この二人は、『質量を持った物体が落下する』と言うごく当たり前の現象を研究していた。皆もこの二人の名前を聞いてお気づきだろう、二人は『引力』や『重力』と呼ばれる現象を研究していた人物だ。


 この現象が我々人間をこの地に縛り付け、空を飛ぶことを邪魔していたのだ。科学者たちは思った、『我々人間を縛り付けているのは何も荒縄だけではなかったのだな』と……。

 この真実を知り、科学者たちは俄然とした。


 飛べない理由を突き止めた科学者たちは、その重力から解き放たれるべく日夜研究を続けた。だが、現代になってもその事象の解明には至っていない。しかしその過程で驚くべき事実を科学者たちは発見した。

 それは、『人間の肉体は空を飛ぶのに向いていない』と言う事実だった。


『I can fly!(私は飛ぶことができる!)』


 これは自然の流れであろう、いつしか人類の目標は重力の無い宇宙そらを目指すようになっていた。人の科学はあの広大な宇宙そらへと向かうべく突き進んで行くのである――。


 人類はその熱き思い一つで科学技術を発展させてきた。そしてついに夢を叶えるまでに至ったのだ。発展した科学技術は人類の夢を背負い、人を宇宙そらへと旅立たせ、地球の隣人、月へと降り立たせるまでに発展させてしまったのだ。


 人類初の空中浮遊を決めた人物、『レッグストロング』が残した言葉は人々の心に深く刻まれた。


『これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛翔である』


 人類は手に入れた。道具を使わぬ飛行方法を……。

 人類は辿り着いた。重力に縛られぬ空中浮遊を……。


『Sky is not that far at all.(空は決して遠いものじゃない)』


 これですべてが解決したと思っていた矢先、『レッグストロング』が今際の際に残した一言が世界中を駆け巡った。


『地球で飛びたかった』――。


 この一言が学者や研究者たちの探究心に火をつけた。そして彼らはどんな局面を迎えようとも、決して諦めないと誓いを立てたのだ。彼らは地球上で空を飛ぶ夢を追い続ける決心をしたのだ。

 それからと言うもの、研究者たちは目の色を変えて研究に没頭し始めた。空中浮遊をしたという噂を聞けば地球上のどんな僻地でも赴き、その御技を解析し続けた。だがしかし、残念なことにその全てがブラフであった。


 いつからだろうか、どんなに胡散臭い連中が空中浮遊をキメたと報告してきても、全ての人間がその連中を批判するようになていた。

『地球上で空中浮遊などありえない』人類はいつのまにか批判する以外に、己をトリップすることしか出来なくなっていた。


 その閉塞感を打ち破る為、諦めぬ学者たちは研究し続けた……探し続けた。

 そして終に人類は一つの答えに辿り着くことができたのだ!


『空想科学技術』の発見だ。


 この『空想科学技術』の起源は中世ヨーロッパ時代にあった。この時代、空を飛ぶ人間が居ると言う目撃情報が飛び交っていた。宇宙人ではないのか? 天使といった未知なる生物ではないのか? だがしかしその正体は人間であった。現地の人はその者たちの事を『東洋の魔女』と呼んでいた。魔女とは、人間を超えた力を使えると言われ、様々な物に干渉し、その物体を意のままに操れると言われていた存在だ。


 この時代には魔女が居たのだ。


 そしてこの魔女たちは箒をまたぎ、空を飛んだと言われた。だがヨーロッパに住むパンピーたちはその魔女の行為を許さなかった。魔女だけが空を飛ぶと言うことを妬んだパンピーたちは、魔女の使う箒に何か特別な力が秘められていると睨み、その者たちの箒を奪う為、魔女と呼ばれる者たちを狩り始めた。――と、書物には書き記されていた。


 これが後に言われる、『魔女借り』と呼ばれるものだ。

 そして魔女は箒を奪われ絶滅した。


『Do you fly in the sky?(あなたは空を飛びたいか?)』


 学者たちは何時しかその科学に真実を求め、逃げるようにその科学の解明に明日を求めた。やがてその技術の真髄は、人の脳に有ることを突き止めたのだが、学者たちはその研究結果を公表することはしなかった。彼らはその書物を永遠に封印することを選んだのだ。

 何故学者たちはこのような処置をとったのか? それはこの研究結果があまりにも危険過ぎると思われたからだ。誰しもが危惧したのだ……この研究結果を発表すれば『魔女借り』以上の事件が起こるのではないかと……。


 しかし、封印されたはずのその書物は手違いにより人目に晒される事になってしまった。それが世間へと流失――その内容はおぞましく、『読むだけで誰しもが悟りを開眼することができ、誰しもが(脳の中で)空を飛ぶ事が出来るようになる』と言う内容だったのだ。

 その書物の内容は爆発的なスピードで世界に広がって行き、未だかつてない内容の書物に世界が震撼した。あの有名な『ファティマ第三の予言』『ノストラダムスの予言』『マヤの予言』をも凌駕するほどの恐怖を世界に与えた。

 人類滅亡へのカウントダウンが囁かれる程、世界がその内容に恐怖した。


 何故世界がこの書物の内容に恐怖したのか、それは空想科学技術の髄が現実の空間を侵食してしまう点にあると思われる。この空想科学技術によって仮想空間と呼ばれる空間が作られ、その仮想空間が現実の空間を問答無用で侵食、崩壊させてしまうのだ。


 そしてこの有様を『魔女』の一文字からもじり、『魔法もうそう』と呼ぶようになった。この空想科学技術が、『魔法もうそう』と言う有名な言葉を生み出した。


 空想科学技術の真髄により、いつしかその『魔法もうそう』は思春期の子供たちの物理的空間を侵食、子供たちの心を貪り尽くすようになっていた。

 そして空間を犯された子供たちは心が崩壊、己の部屋に閉じこもり外に出ることを恐れる者たちが続出してしまった。

 そして子供たちに続き、大人たちまでもが空想科学技術前に現実空間が侵される者が出始めた。その空間に侵された者は、人生の全てを台無しにされるまで空間が侵食され、『魔法もうそう』によって精神崩壊をきたし、人生の幕を閉じる者が続出する事態

になっていた。


 専門家たちはこの様な症状をこう呼んだ。

『Nation of Earth,Emancipate in theoretical,』

 この頭文字をとって『NEETニート』と呼んだ。


 この技は黄金の国ジパングと呼ばれる島国で特異な形で根付き、空想科学が違う意味で花開いた場所だろう。その特異な技術は世界を圧巻し、ついには『魔法産業』と言う言葉が産まれる。数々の空飛ぶアイテムが生み出され、その中でも魔法を使って空を飛ぶ絵画アニメや、リアル疑似体験仮想空間ゲームが産みだされた。


 時代は現代へと進み、空想科学技術が栄華を極める中、終に人間の中から覚醒する者が現れた。自分の頭の中の妄想が具現化し、現実と妄想の区別が出来ない者たちが現れた。

 この者たちはルビを振るような言葉を使い、自身の性格をあたかも物語の主人公のように演じる努力をしていた。


 専門家は言った。

『これこそが人類究極の形、妄想科学技術の最終地点――』

 人類はそれを『中二病』と言った。


 これが現代の魔法もうそうだ。


 人類は憧れていたのだ、数百年前に手に入れていた人の妄想を――。

 人類は待ち望んでいたのだ、妄想を現実に変える方法を――。


 しかしいくら妄想で飛ぶことが可能になったとは言え、現代になっても人類は決して道具なしでは肉体を飛ばすことは出来なかった。


『Do you want to fly in the sky?(あなたは空を飛びたいか?)』


 故にニンゲンは魔法もうそうに憧れたのだ。叶わぬ夢なら、現実逃避……。

 憧れ続ける故に人は空を飛ぶ魔法もうそうを手に入れようとするのだ。


 かつて空中浮遊を決めて来た胡散臭い連中は腐るほど居た!

 浮いた瞬間を写真や動画で撮った物を切り抜いて浮いたとかぬかす奴も居た!

 見えない細い糸に釣られて浮いたとぬかす奴も居た!

 更にはCGで誤魔化す奴も出てきやがった!


 俺は声を大にして言う、『ふざけんじゃねー!!』


 今から行われる行為はそんなちゃちな手品紛いの遊びじゃねー!

 飛ぶんだよ?

 浮くんだよ!?

 浮遊するんだよ!!

 俺は今から重力に捕らわれる囚人ではなくなるんだよっ!!


 現実逃避と言う名の空中浮遊、決めてやんよ!


 俺を飛ばしてくれっ!

 さっさと町まで飛ばしてくれ!

 人間大砲のごとく月まで吹っ飛ばしてくれ!

 人類初の魔法による月面浮遊飛行!!


 これが本当の『浪漫飛行』――。


『Yes We can!(俺たちは飛ぶことができるんだ!)』


 俺は最後にこう言いたい。


『人類は空を目指し四足歩行から二足歩行へと進化した……そして人は空を飛ぶ為にいつか進化するだろう……二足歩行から無足歩行へとな――』


「今回は初めてのドラゴンズソウルをという事なので、景色を楽しみながら歩いて町まで向かいましょ? 魔法はいつでも使えますし、いつでも見れますからね」


 マリーはちょっと困った顔で俺を見つめてくる。その表情は男心をくすぐる何とも言えない愛玩フェイス。

 困った顔もまた『たまらんなぁおい!』としか言えない。

 ほんと、この子が人間サイズの大きさだったら俺は発狂して死んでるな。


 まあ、こんな子をあまり困らせても駄目だな。大人気ない大人気ない。ここで気分を害されて、『そんな我がまま言う子には魔法は使いません!』って母親みたいな事を言われたらショックでもある――。


「――確かにな。……簡単に飛んで行っても面白くないな」


 俺の台詞にマリーは満面の笑顔を見せてくれた。


「では、魔法を使う前にもう少しだけ説明をしたいと思います」

「おう頼むぜ」

「っと、それから、町までの道中何が起こるかわかりません。これから説明する内容は、魔法に対しての対処方法を知って欲しい為の説明だと思っておいてください」

「ん、んー何かあったときと言われても……、俺魔法使えないんだろ? だったら何も出来ない気がするが……」

「だいじょうぶぅ! 魔法が使えなくとも、領太様には『囮』と言う立派な役割が果たせます!」


 ――。

 何これ、言葉に出来ない。

 すごい役割がきたなこれ……。


「お、囮ってあなた……もう少し真面目でまともな役割はないのですか……」

「――領太様……囮と言う役割を舐めてもらっては困ります! 囮とは非常に重要な役割……それすなわち、囮の成否によって部隊が全滅するかし無いかの差! この役割を任せられる者ほど実力を持った人間と言う事なのです!」

「……じ、実力って……」

「だがしかし安心してください! ここでの囮と言うのは、相手に対していかに自分が敵ではない、無害で無力で格下でバカでアホで間抜けなピエロなのかを悟らせるだけで良いのです!」

「いや、ちょっ、……えぇぇ……」

「このように誰しもが勤まる役割ではないのですよ!? 魔法が使えない領太様だからこそ任せられる大役! そして魔法が使えないからこそ相手が油断と言う間抜けな行為を犯すのです! この世界の戦いにおいて、この『油断』と言う物が大事なファクターとなるのです! 更に、領太様みたいに芸達者であり、見た目も性格も格好良い領太様に打って付けの役割かと存じ上げます。よっ浪花の伊達男!」

「ほっ、ほぉう。そういう事か。まぁそこまで言われたら断るのも粋じゃーないな。ふん、道中何かあったなら囮は俺に任せておけ! 大船に乗ったつもりでいてくれっ!」


 なるほど、かっこいいから『囮』が勤まる訳か。

 俺にぴったりだな。



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