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0月0日-ドラゴンズソウル-  作者: 渡辺ころも
第一章第1説 「異世界」
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《003》

《003》


「くふふふ。ち・な・み・にぃ! 才能云々以前に、異世界から来た嶺太様には魔法は使えません! あっしかっらずー。あ、もしかしてもしかして、期待してました? 期待してました? でも残念でしたー。嶺太様には魔法は使えませんっ! にゃはははーぷぷぷ」

「…………」


 多分このマリーと言う妖精は、俺に対してこの世界の事を真剣に説明しようとしていると思われる。マリー自身、そう思って説明している筈だ。どこかふざけている様に見えるのはこの子が遊び好きで知られている妖精だからなのかもしれない。

 嫌、もしかしてマリーのこの行動は、異世界に来たばかりの俺に対しての配慮なのかも知れない。緊張や戸惑い、困惑している俺の心をいたわる気持ちを汲んでくれているのだろう。

 その配慮、痛み入るばかりだよ。

 だが、例えそれが配慮としての行動だったとしても、その配慮が裏目に出る事になるとは、マリー自身、微塵も思っていなかった事だろう。

『コノウラミハラサデオクベキカ……ウケケケ』


 この後、俺とマリーがどうしたかと言うのは、ここで説明するのは辞めておこう。それをここで説明するのは野暮というものだ。

 俺がここでマリーとどうなったか、マリーをどうしようと思ったのか、それについて細かく説明するより、二人のその後については、読者の想像豊かな感性に任せようと思う。

 なんたって想像に容易い事なのだからな――。


《10分後》


「――ハアハアハア(ちょこまかちょこまかと、このヤロー。一発殴らせろ!)」

「ふうふうふう……(し、しつこい。アメリカンジョークじゃないですかっ!)」


 そりゃそうだ、俺に飛んでいる妖精を捕まえられる訳が無いんだ。

 取り合えず俺は心の中で一時休戦を決めた。


「――はぁあ、俺には魔法が使えないのかよ……。子供の頃から憧れ続けた魔法なんだけどなっ」


 俺は少し語気を強めてマリーに言った。


「はい! 使えません! びた一文たりとも使えません!」


 びた一文もかよ……。

 容赦ねーなコイツ。

 せっかくの夢にまでみた魔法だと言うのに、これ以上どうマリーから聞き出せば良いのか俺には分からなかった。一つに、俺は交渉術が絶対的に苦手だと言うことが上げられる。それと、あまりにも魔法と言う言葉が衝撃的過ぎて、そこまで考える余裕がもてなかったのも理由の一つだ。

 なんだよ皆? あんだけ魔法が好きだって言ってた割にはあっさり引き下がるなって?

 別にあっさり引き下がるわけじゃない。

 ただ本当にどう食いついて良いのか分からないだけだ。

 ただそれだけだ。

 本当にそれだけだ。

 べ、別にマリーの一言で傷ついたわけではない。

 ほ、本当だよ……?

『グスン。もっと労わりの言葉を掛けてくれても良いじゃんか……』

 何気ない一言で人間は傷つく生き物。

 昔、中学生のクラスの女子に言われた一言で俺はたいそう傷ついた記憶がある。

『お前誰だよ? キモイ目でこっち見んな』

 俺が誰だって? 俺はお前と同じクラスの峰岸だってんだ! お前とは3年間同じクラスだっただろ!? 名前ぐらい覚えろよ……じゃねーよっ。別にお前を見てたんじゃねーよボケッ! 誰が可愛くねーお前なんかを見て目の保養なんかするかってんだっ! 俺はお前の後ろにいる学園のアイドル、美奈ちゃんを見てたんだってんだよっ!

 自意識過剰過ぎなんだよこの女っ!!

 まっいいんだけどな。昔のことを引きずってばかりでは楽しくない。

 今は目の前に楽しそうな出来事があるしね。

『魔法』……いいじゃんこの響き。

 幼き頃から憧れ続けた魔法……本当はここで食い下がる訳には行かないのだがな。

『くそう、口惜しい限りだぜ』

 こんな時に口八丁な奴なら言い包めて聞き出すことも可能なのだろうな。

 まぁ、でもそれでもこの妖精の前で口喧嘩しても負けそうだけどな。


 俺は魔法が使えない事実を知って肩を落としたが、使えなくとも魔法と言うのを体験できる可能性もあると逆に考え、心のどこかで満足できる自分いたのは否定できなかった。

 それよりも、ふざけてはいたが、マリーの登場によって俺の心も大分楽になっていた。少々ふざけた部分もあるが、こいつは基本的に良い奴なのかも知れない。目の前に極悪人面した人が現れなかっただけでも佳としなければいけない。

 俺はそんな台詞を呟き、ほっこりした気分になってマリーを見つめた。のだが、そんな上辺とは裏腹に、俺の心の奥底にある灯火は消えて居なかった。


『依然、燻り続けるこの下心!』

『俺の下心があの妖精を捕まえてろと囁き続ける』

『蹂躙せよ!』

『懐柔せよ!』

『進め変態!』

『我が名は変態という名の紳士! 押して参る!』


 フハハハハ!


「じー……」

「な、なんだ……?」

「いえ……別に」


 疑う眼差しで俺を見つめるマリー。

 俺はあわてて話題を変える。


「し、しかしだ、君の……えっと、マリーさんで良いのかな……?」

「私のことは呼び捨てでいいですよー」

「あぁうん。じゃぁマリー、話は俺の常識の範疇を超えてしまっていてどうしても考えが追いつかないでいるんだが、なにかもっとこの世界について詳しく説明してくれないだろうか……? 君は確か案内人だったっけ? 一体俺を何処へ案内すると言うのだ?」

「ハハ。ですよね。ではでは、案内人と言う事なので、簡単にこの世界のことを説明させて頂きます」

「あ、あぁ頼むよ」


 やっべ、考えている間ずっと見つめられていたのか……。妖精には不思議な力があるというが、俺の心の底が読まれたかと思ったぜ。


「私の説明の中で何かわからないことがありましたら遠慮なく聞いて下さいね。私がお答えできる範囲での回答になります故、その辺りはご理解くださいね? ね!」


 ね!

『ね!』、じゃねーよ! ね!


 人差し指を立てながら首を傾げながら、『ね!』って言うポーズ、可愛いよね。


 ね!


「俺には言えない禁則事項でも存在するってことか……。まぁ理解云々は内容にもよるが、説明はお願いしたい。一体ここは何処で、何なのだ……?」


 俺は軽く頭を下げ、その辺にある石に腰掛けた。

 そのポーズは『ロダンの考える人』の真似をしているかのように――。

 あくまでも自分にはコイツを捕らえようとする意は無い様に――。

 そしてマリーと言えば、挑発するように俺の顔の前をふわふわと浮いている。

 その距離数十センチ。

 彼女は心の中ではきっと「へっ、ちょろい野郎ですね! かかってきなさい! このちんかす野郎!」そう思っていたに違いない。

 俺はこのとき悟った、「俺はこいつと永遠のライバルになるな……」と。


 しかしこの妖精、俺との実力の差があると見て油断しているのか、俺のこと完全に舐めきってやがる。

 と言うか俺はポーズの選択肢を間違えた。

 このようなポーズでは有事の際に素早く動くことが出来ない。

『ええい、このポーズでは素早く動けぬでわないか! 誰か人類最速の乗り物を持てえい!』

『殿下、これをお使いください!』

『うむ……これこそ紛れもなく人類最速の乗り物!』


《three、two、one……lift off》


『ああ、地球は青かった』


 俺の意識は何処まで飛んでいくんだろうな……。


「はい、任せてください!」


 俺の返事に元気良く答えるマリー。

 軽く一つ咳払いをし、説明が始まった。


「ごほん。それでは説明を始めたいと思います。――えぇと先ず、この世界は『ドラゴンズソウル』と呼ばれ、その名の通り『ドラゴン様』の存在によって成り立つ世界となっております」

「へぇなるほど。ドラゴン様とやらで成り立つ世界か……そいつは凄い人物だな。世界を一人で成り立たせるとは相当す後実力者……凄い手腕と言えばいいのか……って、え……? 今なんて言った? ドラゴン様? どらごん……?」


 何突然こいつは叫んでるんだと言うマリーの視線を正面に感じながら俺は思った。

『ドラゴン』

 それは伝説上の生き物と同じ名前……一瞬人の名前かと思ったが、ドラゴンと言えばあの伝説上の生き物と同じ名前ではないか。


『いやまさかそんな馬鹿な……』


 俺は『ドラゴン』と言う名前を理解したとたん軽い眩暈を覚えた。それがどれほどの驚きかと言うと、あまりにも驚きすぎたため、俺は太ももに乗せていた右肘を勢い良く落とし、顔を強打してしまう程だった。顔の痛みからして、これは夢ではないと言う事が俺には理解できた。

 そうだな、今の心境を例えるなら『打ち上げたロケットが地球に向けて垂直に落下するかの様な心境』だ。

 それがどんな心境だと聞かれても、急転直下としか答えられない。俺は今直ぐにでもドラゴンとは一体なんなのかをマリーに問いただしたい。

 人間の名前なのか、それとも伝説上の生き物なのか……。

『どうか人間の名前(DQネーム)でありますように……』

 俺は神にでも縋る想いで祈りを捧げた。


「そうなのですよ、ドラゴン様なのです。そしてこのドラゴン様が――」

「ちょ、ちょっと待ってマリー!」


『ドラゴン』と言う名前を聞き、一瞬驚きはしたが、すぐさま心落ち着かせ、説明を続けられる前にマリーの小さな口を人差し指で塞いだ。


「むぐぐ……、むーむー」

「す、すまない……」


 もがくマリーを見て、俺は慌てて手をどかした。


「ぷふぅ。突然口を塞ぐとはどうなされたのですか?」

「頼む、一つ質問をさせてくれ。緊急を要する質問だ」

「んん? 既に何か気になることがなにかあるのですね」

「あ、ああ……」


 マリーは嫌な顔一つ見せず、俺の質問に答えようとしている。それはまるでその質問が来ることを理解しているかのようだった。そうでなければこんな落ち着いた表情は作れない。

 だが一体これはどう言うことなのだろうか。俺はこのマリーの反応に対し、自分の頭の中では疑問だけが募って行く。


「俺の質問ってのは――」

「ドラゴン様が伝説上の生き物なのか、それとも人間に付けられた名前なのか……ってことを聞きたいのですよね」

「なっ!? 何で質問内容が分かったんだ……?」


 まだ俺は何も質問の内容は言っていない。なのにマリーは俺の聞きたいことをズバリと言い当てた。どう言うことなんだ? こいつはもしかして覚りか何かか!?


「ふふ。領太様の顔色を窺えば何を聞きたいかなんて直ぐ分かりますよ」

「なんだと……」


 俺は相手に簡単に読まれてしまう顔色をしていたのだろうか? 常日頃ポーカーフェイスを心がけていたつもりだったのだが、場所が場所なだけにやはり無表情とはいかなかったのかもしれない。それとも普段から間抜け面をしているのかのどちらかだろうな。

 まぁこの世界を見て表情を変えるなというほうが難しい。

 顔に出ていたと言うのなら無理は無いか。


「うふふ。と言うのは冗談」

「……じょ、冗談かよっ!」


 妖精とは一体何なんだ!? こんなに人を弄ぶのが好きなのか!?

 いくらなんでも冗談が過ぎる気がするのだが、妖精と言うのはこう言う生き物と言うことか。


「何故、領太様の質問内容が分かったのかを説明したいところですが、これについては追々説明すると言うことで……」

「あ、ああ」

「んーそうですねぇ……、ドラゴン様が居ると言われたら、領太様はどちらが正解だと嬉しいですか?」

「どちらが嬉しいかだと? 質問を質問で返すのはいただけないが……、んーそうだな、本物のドラゴンが居るなら嬉しいところではあるが、いやでもまさか本物のドラゴンが居るとは思えないし、そうなるとやはり人の名前……かなぁ」

「にひひひ、ざーんねん。人の名前ではありません」

「ん……だと。は? まじで? 嘘だろ? この世界にはあの伝説の生き物が存在してるとでも言うのか!? まじかよ……嘘だろ?」


『ドラゴン』

 それは伝説上の生き物の名前。ドラゴンとは蛇やトカゲをモチーフにされたと言う噂もあるが、俺はあの絶滅した恐竜をモチーフにして想像されたのではないかと考えている。現代でも、恐竜の生き残りやそれに近い姿の生物は多く発見されている。無論その骨もだ。

 昔の人間も巨大な恐竜の骨格を発見した時、それがどのような生物の骨だったかを考えただろう。どの生物の骨格に近いのか、どんな時代に生きていたのか……人類とは全く違う骨を前に人々は悩んだに違いない。

 今と比べて彼らの知識は乏しかったはずだ。現代のような精密な観測出来るような機器も機材もネットワークも無い。ましてや学問すら一般的に広まっていない中でその巨大な骨を発見した人々はこう思っただろう。


『この巨大な骨は一体なんなんだ……?』

『も、もしかしてこれがドラゴンの骨なのか……』

『この大きさこの形状……』

『……そうだ、これがドラゴンの骨だ! ドラゴンは実在したのだっ!』


 巨大な骨を見たとき誰しもがそう思ったに違いない。そして様々な想像がこの骨を肉付けし、恐竜の姿に近しいドラゴンという想像上の生物が誕生した。

 時として人の想像力とは時空を超えることがある。過去の偉人が未来を想像していたように、想像した生物が過去に存在した生物に似ると言うのはありえる話だろう。故に想像した生物が太古に存在した恐竜と近い形になるのはなんら不思議では無い。


 昔の人にとって想像というのは、ロマン溢れる素敵な遊び……そして、矜持を持った遊びだったのかもしれない。古代の人は現代の人では考えも及ばないものを想像して楽しんだのだろう。悪魔や天使、そして神……、UMAからUFO……神獣やら珍獣、神話や寓話……死後の世界から生まれ変わりと言った転生……本来人とは想像を得意とする生き物だったはずだ。しかし、物が溢れ科学技術が発展した現代ではその本質のすべては覚めた目で見抜かれ、人々の想像力は失われた。仕舞いには迫害や虐めを受ける様まで落ちぶれてしまったのだ。

 現実主義者……リアリストが蔓延るこの世界で、俺みたいな幼い奴に空想を楽しむ理想主義者の居場所など皆無だった。

 だがしかし、その想像しうる至高にして究極の生物の一つがこのドラゴンズソウルと呼ばれる世界に実在している。

 居ることを信じていたにもかかわらず、この名前の前に俺は眩暈を覚えた。

 ショックで眩暈を覚えたわけではない。

 無論、これは嬉しい眩暈の方だ。

 俺は嬉しすぎて眩暈を覚えたのだ

 ただその一言に尽きる。

 ドラゴンとは、ゲームでも小説でもその存在は絶対的なものとしてよく描かれている想像上の生物。一部のゲームや小説ではモンスターとして登場する場合もあるが、俺はそれを認めない。断じて認めない。


『あれはドラゴンではない。ドラゴンの名前を語るトカゲだっ!』


 俺は子供の頃、ドラゴンの存在を信じていた。

 この年になっても俺は心の片隅でドラゴンはきっと何処かに居ると信じている。

 圧倒的な存在感って言うのか、あぁ言うものに男の子と言うのは憧れを抱くものなのだ。誰にも何者にもなびかず、平伏さない強い存在と言うのは憧れの一つである。『俺もあんな強い存在になれたらな』って、何時も考えていた。『ハハハ馬鹿だろお前?』そんな声が聞こえてきそうだが、俺は一言言いたい。

 人を指で指すなっ!

 そこのお前ら笑うんじゃないやっ!


 さて、突然ですが、ボクから皆様へ人生についての大切なお話しがあります。耳の穴かっぽじって一つ聞いてみてください。

 人生と言う名の旅路において、皆様の行く先には幾多の試練が待ち構えているのではないでしょうか。挫折に苦難、そして迷い……一言で試練と言ってもその内容は多義にわたり、その全てが人の人生を狂わせてしまう辛いものになっています。

 皆様は『竜馬の躓き(りゅうめのつまずき)』と言う言葉をご存知でしょうか? 簡単に説明すると、どんなに優れた人間も人生においては失敗することがある。

 この言葉のように、人生の長い旅路と言うのは、将来を期待されている者でさえ道に迷い失敗してしまうことがある。と、言うことは、少しばかり考えてみてください。優れた人間でも躓くと言うのに、冴えない人間や選ばれる事のない人間の人生が躓いた時どれ程の笑劇が訪れるのか……。同じように転んだとしても、その転び方は酷いもので、目を瞑りたくなるものばかりではないでしょうか。

 躓いた彼らの人生を想像してみてください。幼少期から生涯を終えるまでの間、無い石に躓き転び『ドジッ子』の称号を得、付き合う彼女の乳が無い(偽乳)ことで錯乱したにもかかわらず『リア充爆発』の肩書きを取得――。そして式直前に婚約者を友人に奪われ憔悴し『寝取られ』と言う称号を得た後、社運を掛けた大事な契約書を雨に濡らし書類不備による契約不履行で会社から解雇通知を受け取り『肩叩き(リストラ)』のレッテルを貼られた暁には気を取り直し再就職を試みるも履歴書の特技の欄に今まで取得した肩書き(スキル)を全て書き込み人生を転げ落ちていく……。

 貴方は転んだ時にこう思うだろう。

『何故私はこんなにもドジッ子なのだろうか……』と――。人生の終盤に差し掛かっていまさらかい! と言う野暮な話は、相手がドジっ子なのでいまさら何を言っているのか分からないと言うことでスルーするとして、きっと彼らは舌を『チロ』っと出して頭を『コツン』と叩いて『テヘッ☆』ってはにかむに違いない。

 男なのに気持ち悪いことこの上ない。更に冴えない男がやっていると考えると気が滅入ることこの上ない。こんな気持ち悪い男が実際に居たら『糞食らえーい、バキューン☆』と、こちらもポーズを決めて言ってあげよう。もっと気が滅入る事この上ない。それはきっと人生で厄災と呼べるほどの滅入り方になるだろう。

 このようにして、冴えない者どもの迷いや苦悩と言うのは、優れた者たちの比ではない事になっております。


 かつて、神は我ら人類に生きる為の知恵を与えた。だがしかし、その知恵は人類に災いをもたらす存在となってしまった。奴隷に迫害……そして戦争に略奪……。人間は何時しか優劣を前面に押し出す生き物に成り下がってしまった。『他者より優れている自分を……他者よりも良い物を奪い取れ……』このような言葉を口ずさみ、人は今を生きている。

 神の教えは絶対であるが故に、その神の教えが奪うと言う行為を生み出す切欠になったのはないでしょうか。悲しい事ですが、神の教えを都合のいいような解釈をする輩が居るのは間違いないのです。

 かのように、神の教えが我ら人類が生き延びるための英知だったのは間違いない真実。それが今ではただの優劣を決めるだけの道具と成り下がってしまったのも事実。

 そうした混沌と続く虐げられる関係は今現在でも悲惨な状態が続いている……。そして優れた者たちは、冴えない者たちを虐げるのに充分なほどの仕打ちを与え続けているのだ。

『品行方正にモテモテ体質、親の七光りを浴び、金に権力に地位を得た美男美女』等々、鼻につくような肩書きばかり思いつき、怒りを覚えるところでしょうが、話を戻す事にしましょう。

 さて、そうして冴えない者たちは優れた者たちよりも往々にして人生に迷い、住む場所も奪われ行くあてもなく跋扈して路頭で迷うことになり、選択と言う二択で過誤と思える過ちを選び人生に迷う事になるのではないでしょうか。

 ですが気になさらないでください。『迷い』と言うのは人生の一部……。『迷い』こそが人生であり、『迷い』があるからこそ人生なのではないでしょうか。強いて言えば、苦難の全ては『迷い』と断言した方がいいのかもしれません。

 逆に考えれば、優れた者たちは人生の醍醐味と言うのを楽しめていないとも言えるのではないでしょうか。こう考えれば、冴えない者たちの方こそが人生を楽しむと言う意味で、一番おいしくて楽しい人生を味わえている。と言うことにもなると思われます。

 そして貴方が冴えない人間だとしても恥じることはありません。『竜の雲を得る如し(りゅうのくもをえるごとし)』の様に、どんな才気溢れる人間でも、人生と言う名の長い旅路の中では歩き疲れてしまうもの。誇りなさい、疲れとは冴えない人間でも等しく同じだと言うことを――。

 どんなに順風満帆な旅路でも、何十年と歩き続ければ身も心も疲れてしまうもの。そんな時は歩みを止めて休んでみては? そして暖かいお茶を一杯飲んで、『あぁ私はここまでがんばったんだな』って一言呟いて自分を労って下さい。きっと肩の力が抜け、明日への活力が戻るはず。

 例え道に迷い、将来を諦めることになったとしても、その時は自分の事を責めないでください。呵責に苛まれないでください。責めるだけが人生ではありません。

 自分自身でここまでやってきた自分を褒めてあげてください。

 ここまでやってきた自分を労わってあげてください。

 自分を労わったとしても誰も貴方を責めることはありません。

 されども、長い人生において道に迷い身動きがとれなくなることもきっとあるでしょう。その時は歩き疲れたからと言って決して歩みを止めてはいけません。貴方が歩みを止めれば道はそこで途絶え、貴方が歩みを止めれば貴方の人生はそこで終了してしまう可能性が高いです。

 辛くても、きつくても、動いて動いて動きまくり、足掻いて足掻いて足掻きまくってください。貴方が歩みを止めない限り新たな道が切り開かれ、歩みを止めない限り貴方の道は存在し続ける……。そして後ろを振り返ってみてください。貴方の歩いてきた道には、きっと貴方だけの素敵な道が彩られているでしょう。

 過去を振り返ることは女々しいことではなく、過去は貴方の未来を映し出す鏡となり、過去の教訓は未来への糧となる。

 信じて歩み続けることはとても大切で大事なこと、信じて突き進めばきっとそこはパラダイス。

 忘れないでください。自分の歩んできた道を……。

 忘れないでください。自分の目指すべき道を……。

 忘れないでください。貴方を信じた者たちを……。

 そしていつか、自分の歩んだ道を振り返って見てください。

 振り返るそこにはきっと誰にも真似できない貴方だけの道が、その道にはきっと貴方だけの『ドラゴン様』が描かれているはずです!


 この言葉を疑う貴方、信じきれない貴方……ドラゴンと聞いて始めは誰しもが疑い、疑惑の念を抱くのが当たり前――。だが皆様ご安心を……、そんな信じきれないあなたにぴったりな物をこちらで用意させていただきました!


 それはこちら……竜に魅せられ、竜に取り憑かれた男、造形師『柳龍庵やなぎりゅうあん』作、『龍灯篭』――、別名『クリスタルドラゴン』と呼ばれ、燦々と輝くこの竜のアーティファクトをご用意させていただきました。この『龍灯篭』は、柳龍庵の代表作、『色仕掛けの女』……別名『ハニーとラップ』を超えるほどの作品と位置づけられている。

 そしてこの神体に使われている石は、六億年前という古い地層から掘り出された『龍水晶』と呼ばれる水晶石を使用しており、年間で採掘される量も少なく、金よりも希少価値が非常に高く、珍しい石を使用しているのが特徴なっております。さらにこの石には不思議な力が秘められており、『神々の鏡』と呼ばれ、触れば未来が見通せると言った神秘的な力を秘めた石故に、さらにその価値を高めていると言っても過言ではない。

 その石を、人間国宝に指定される予定の職人、『柳龍庵』の指示の元、丹精こめて機械で作り上げた一品となっている。そのデザインは柳龍庵のどの作品よりも力強いデザインとなっており、今にも動き出しそうなその迫力、翼を広げたその姿はまるで全てを飲みこむかのような前衛的なデザインセンスを要しているのがこのアーティファクトの特徴と言っても過言ではありません。これは柳龍庵の作品でも他に類を見ない作品に仕上げられた一品と言えるでしょう。

 その細かなデザインは、鱗一枚一枚まで手を抜く事無く丁寧に作られており、あの世界的に有名な『クリスタルスカル』を髣髴とさせる精巧なデザイン、芸術性の高い一品となっております。

 そして今回、特別にもう一つお買い得でリーズナブルな商品をご用意することができました。ご用意いたしましたのはこちら、『壺竜壺こりゅうこ』と呼ばれる壷。この壷は中国の壺中天を思わせるようなデザインを擁し、精巧なドラゴンのモチーフを壷の上部にあしらった情緒豊かな一品となっています。職人たちが惜しげもなく休憩時間に持て余したその技術力の粋をを詰め込んだ、とてもユニークな一品となっています。

 通常ならこの『龍灯篭』と『壺竜壺』の価格は50万円(税込み)と設定されているのですが、これがなんと! 今なら特別価格! 二つ同時に購入すれば10万(税込み)! 10万円(税込み)!

 なんてお買い得! 何と言うファンサービス!

 さぁ今こそドラゴンがあしらわれたこの石と壷を買うのです!

 さぁさぁ買いなさい! 

 騙されたと思って買いなさい!

 私の為に買いなさい!

 そして信じるのです!

 そして祈るのです!


『アーメン、ソーメン、冷ソーメン!』


 この謳い文句の前に、石と壷を二つで1万円(税込み)で買った俺には隙は無い。そして俺は自分の歩んで来た道を振り返ればきっとそこにはドラゴンって文字が刻まれているんだろうな。はぁうっとり。

 こうして俺は、相変わらずのトリップ振りを惜しげもなく披露する。


「はい。この世界にはドラゴン様が存在しております。ドラゴン様はこの世界にとっての万物の長であり、この世界を統治する存在。この世界においての事象の事柄その物です。そしてこの世界はドラゴン様の力の影響を受けて存在している世界となっているのです!」


 俺の混乱をよそに、マリーは得意げに説明をする。


「影響……? 存在……? はは……ははは……」


 俺は理解の範疇を超えた名前と、この世界の成り立ちを聞き、さらに混乱している表情をさらけ出してしまった。

 改めて思う、『ドラゴンは実在した……』

 確かにどこかに存在しているだろうとは信じていた。だけど唐突過ぎる。でも真実を知るというのは常にこういうものか……。

 だったら次からは探偵に依頼しよう。

 探偵と言うのは真実を見つけるのが好きだからな。

『今日のご依頼は?』

『ドラゴンを見つけてください……』


 俺の気持ちを知ってか知らずか、マリーは説明を続けようとしていた。


「あのー、説明を続けても大丈夫ですか?」


 返す言葉無く、マリーの問いにうなずいて答える俺。

 未だ心境、整理つかず。



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