第3話 犬系亜人種の荒神さん一家
とある近所の幼稚園にて。
私と美乃莉はまだ幼いという事で、その近所の幼稚園に通っているのだが・・・
「しっぽーっ!」
「みみーっ!みみーっ!」
「もふもふーっ!」
好奇心旺盛の子供達が私や美乃莉の尻尾とか耳を触ってくる。美乃莉はキャッキャッと無邪気な笑顔を浮かべて楽しそうに園児達と遊んでいるらしい。
私はというと・・・子供相手に怒るのもダメな気がして、怒る事はムリだ。普通に泣かせてしまうかもしれないので、とにかく遊んでやった。
「もふもふーっ♪」
まだ幼くて小さい園児達は私を大勢で囲み、尻尾や耳を触りまくる。そして、多少の力で引っ張っている輩もいた。
「いたいっ!ひ、ひっぱるなぁーっ」
大声を張る事も園児達には怖い思いをさせるかも知れないので、優しい声をかけるしか無いのだ。
「ご、ごめんねっ」「い、いたかったの?」
園児達は一旦落ち着くが、やはり好奇心旺盛の子供なので、再び尻尾や耳を触ってくるのだ。
「ほれほれ~」
大勢の人数で尻尾や耳を触ってくる。それにより、私はその刺激に慣れてきて、誰かに触れられても、痴漢に逢ったような刺激ではなく、くすぐったい刺激へと変貌したのだ。
だから尻尾を自分の意志で動かして園児達を翻弄。あ、そうそう、この尻尾は自分の意志で動かせる事が出来るようになったんだよ。やり方は尻尾を振りたいなぁと頭で思えば勝手に尻尾がフリフリと振るので、楽な尻尾の振り方だ。
逆に興奮や無意識で尻尾を動かしているのを停止させる事はまだ不可能だ。というか、可能性なのかまだ分からない。
つまり、常に尻尾は自分の意志及び無意識に動いてしまうという恥ずかしい事だ。だけど尻尾や耳があるだけでこんなに人生が変わるなんて、面白いっ!
「ふふふっ。あぅっ、ふふふっ♪」
この訳の分からない亜人種なる者に生まれ変わった私は、尻尾や耳を触られるのに少しだけ慣れ、少しだけ大人になった気がしたのであった。
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ようやく園児達は落ち着いてくれた。
幼稚園教諭である若い女性が部屋に来て、私達と遊ぶというのだが・・・内容は折り紙とかお絵描きでも何でもいいというやる気のなさそうな女教諭の案だ。
まぁ、幼稚園児だし、そんなもんだろうな。私は、折り鶴を作ってみた。手先が器用らしく、キレイな折り鶴となった!うむっ、最高の折り鶴だ。
私は次々と折り鶴を折っていくのだが・・・沢山の子供達は、やはり私の尻尾や耳に興味があるようだ。さっきからチラチラ見られているような気がする。
「胡桃ちゃん、上手だねぇ~。えらいえらい」
後ろから突然、女教諭が私の頭を撫で回してきた。な、何すんだよっ!恥ずかしいし、何だか嬉しい気分になるじゃないかっ!
「うぅ。そ、そおかな?」
まだたどたどしい言葉で女教諭に自分が作った折り鶴が本当に上手なのかと聞く。まぁ、当たり前だが、女教諭は上手だと答えた。下手と言ってしまう教諭なんていないだろうしな。
「はぅっ!か、かわいいっ」
女教諭は私を見て頬に朱を浮かばてとんでもない事を口走るのだが・・・まぁ女性は子供好きが多いし、そんな事は誰だってあると思うけど、一応仕事中だぞ?いいのか?それで・・・
「あ、あの・・・胡桃ちゃん。私も尻尾触っていい?ちょっとだけでいいからっ。ねっ?」
まさかまさかの尻尾を触っていいかという事を女教諭から頼まれた。ここで断ったら何か理由をつけて頼む可能性もあるので、仕方なく触ってもいいという意思表示として頭をこくりと頷けさせる。
「そ、それじゃあ・・・うわっ、フワフワでモフモフっ。ど、どうなっているの?これーっ、きゃあ♪」
女教諭は私の尻尾を触ってご満悦な笑みを浮かべるけど・・・本当に私の家族以外に亜人種がいるのか心配で心配でたまらなかったのだ。
だが・・・身近に居たんだ。その亜人種が私の近所に・・・住んでいたのだ。
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幼稚園から帰ってきて、その数日後の休日。
私の家族は荒神おばさんの家に荒神おばさんから招待されて、荒神さん家のリビングにて、近所付き合いで両親と荒神おばさんはしばらく雑談。
暇を持て余してソファーで尻尾をつつき合っていた私と美乃莉を見かねた荒神おばさんは天津甘栗を私達姉妹に与えてくれて、私達は遠慮なく天津甘栗を口に放り込み、もきゅもきゅと食べていく。
「か、かわいいわね~。ウチも娘が欲しかったわ~。まぁ、私の息子も亜人種ですけど、かわいいですよ?」
荒神おばさんからとんでもない事の発言に耳を疑った。あ、亜人種?!という事は、荒神おばさんの夫の方が亜人種で、その遺伝を受け継いだという事か?!
「私の夫とその息子を紹介する為に栗原さん達をお呼びしました~。では、少々お待ちを」
荒神おばさんはリビングから姿を消し、しばらくすると、三十代前半の男性とまだ幼くて小さい男の子を連れて荒神さん一家登場。でも、その男性と男の子の容姿に目を疑った。
頭には黒くて犬のような耳が生えていて、お尻付近には黒くて長い尻尾。黒い柴犬のような容姿を一部受け継いでいる男性軍だ。
「「?!!!」」
私と美乃莉は男性軍の容姿を見て固まってしまった。リス以外の動物の一部を受け継いだ亜人種を見るのが初めてなので、驚いてしまう。
「はじめまして、父です。こっちの男の子は・・・ほら、自己紹介しなさい」
荒神おばさんの夫と名乗る男性。この人は荒神おじさんと名付けよう。荒神おじさんは幼くて小さい子供を私達の目の前に差しだし、その男の子は恥ずかしがって、荒神おじさんの後ろに隠れてしまう。
「はぁ・・・まぁ、いいや。こっちの男の子は荒神信也で、四歳になります。ちなみに、保育園に通わせています」
男の子は私と同い年らしい。保育園に通わせているという事は、この両親の都合で男の子のお世話が出来ないという事か?まぁ、他人事なので、そっとしておこう。
「ほら、美乃莉ちゃん、胡桃ちゃん。自己紹介しなさい」
母親が今度は私達が自己紹介しないといけないという事を伝え、私達姉妹は座っていたソファーから立ち上がり、荒神さん達の目の前に立ち
「美乃莉っ。栗原、美乃莉だよ?」
「栗原胡桃。よろしくね~」
私達は軽く自己紹介した。美乃莉は五歳だからなのか賢いのだ。私は・・・ほら、精神が高校生だから普通だよ。
「あら~。ちゃんと名前言えるんだね~。えらいえらいっ」
荒神おばさんは自己紹介した私達姉妹の頭を撫で回す。撫で撫でされた私達は無邪気な笑顔を浮かべて
「にひひ~っ」「ふふふ~っ」
笑ってしまう。やはり動物本来の気持ちで撫でられた事が嬉しいのだろうな。
「ぱ、パパぁ~。ボクも撫でられたいよーっ」
荒神さん家の息子である荒神信也は私達が荒神おばさんに撫でられた事に嫉妬して、自分の父親である荒神おじさんに撫でて欲しいと言う。そういえば、犬だし、頭とか撫でられたら嬉しいだろうな。
「はいはい。よしよしっ」
「にっしっしっし~♪」
荒神信也は荒神おじさんから撫でられて無邪気な笑みを浮かべて、尻尾を左右に動かす。やっぱり、犬だなぁ~。
「あらあら、そちらのお子さんもかわいらしいですよ?こっちまで幸せになりますよ。荒神さん」
私の母親は先程の荒神信也の仕草を見て、微笑み再び荒神おばさんと雑談を交わしていったのだ。
「荒神さん、オレの娘の胡桃も四歳ですし、小学生になったら色々とお世話になりますので、よろしくお願いしますね。あとは、美乃莉は一年先に小学生に入学するので、美乃莉共々、何卒よろしくお願いします」
私の父親も荒神おじさんと雑談。これから先、荒神さん一家と色々と迷惑とかかけるので、その挨拶という事だな。
「ええ、私のほうからもお願いしますね?栗原さん」
私の父親と荒神おじさんはがっちりと握手して、仲良くなったらしい。仲良くなるの早いなぁ~なんてのほほんとした事を考えいたのだが・・・
「ただ、我が娘はあげませんからね。絶対にオレの娘はあげませんからね?絶対ですよ?」
何だか知らんが警戒していた。失礼な事を口走るのだが、父親の娘想いの強さで男性には私や美乃莉を嫁に渡さないらしい。どんだけ私達を可愛がってくれるのかが骨身にしみるけど、ワガママな性格を持ち合わせているらしい。
「は、はぁ。で、でも、友達にはなれるでしょうね。同じ亜人種同士ですから、何かのきっかけですぐに打ち解けるでしょう」
荒神おじさんは私の父親をキリッとさせた表情を浮かばせて目線を合わせて言い張る。
言い張られた父親はというと・・・
「ぬふふふっ。そうですか。でも、それ以上の関係は認めませんからね・・・ぬふふふ」
邪を感じさせる笑顔を浮かばせて荒神おじさんを威嚇。怖いわっ!
「え、ええっ。是非、そうさせていただきます。いえ、そうさせてくださいっ。お願いします」
荒神おじさんは危険を感じて言葉を選びながら発言。でも、私の父親は・・・
「ほぉお~?・・・オレの娘が不服と言うのですか?怒らないですから、ちゃんとハッキリ言ってくださいよぉ。荒神さん?」
何かの誤解を生じ、荒神おじさんに邪を感じさせる笑顔を浮かばせて、威嚇。ヒドいマナーだぞ父親よ・・・
「こぉらっ!子供達の前で喧嘩しないのっ!子供達がマネしたらどうするのっ!私、キライになっちゃうわよっ」
母親は父親の情けない姿を見て叱る。母親は頬を膨らませて、まるで子供のようなリスのような愛くるしい表情を見せる。そんな母親を見た父親はというと・・・
「ご、ごめんねっ。ぬふふふっ♪よしよし、そんなに怒らないでっ」
無邪気な笑みを浮かべて母親の頭を撫で回す。そんな母親は尻尾を左右に振り、頭部についているリスの耳をピクピクさせながら、頬に朱を浮かばせて
「こ、こぉらっ♪ひ、人前で撫でるんじゃありませんっ♪あ、あとで撫でてもいいからっ」
甘えた声で説教?をするのだが、全然説得力が無い。やはり、母親もリスっぽくて可愛いし、美人だし、けしからん・・・いや羨ましい体型だし・・・あんな子供みたいな父親をどこに惚れたんだろう?まぁ、惚れたおかげで私や美乃莉がいるから文句は言えないね。
「ぬふふふっ。かわいいなぁ~。もう怒ったらダメだよ?分かった?ぬふふふっ」
父親はまるで子供に説教するように優しい声を母親にかける。しかも頭を撫で回しながらだ。そんな弄ばれた母親はというと・・・
「う、うんっ♪が、がんばるっ」
拳を両手つくり、その拳を自分の身体の目の前に出し、まるで子供が『よしやるぞ』と言わんばかりの体制をとる。ってか、母親よ・・・幼児化してるじゃんか・・・
「か、かわいいっ・・・こんなかわいい嫁がオレのモノだなんて・・・シャーペンの後ろから芯を入れたけど短い奴が内部に入ってしまいうまく芯が出てこないという呪いを神様から・・・」
父親は幸せを感じてネガティブモード。しかしネガティブモードになっても母親の頭を撫で回すのだ。一方、母親は幸せを感じて自分の世界へトリップ。もう一生幸せになってろよおまえ等。
「こほんっ、では、これからもお世話になりますので、仲良くしましょうね?栗原さん」
荒神おばさんは気を計らって私達に改めて笑顔で挨拶。私達も笑顔を浮かべて改めて挨拶し、私達栗原一家は荒神さん家を出て行ったのであったーーー。