あらゆる答えの書かれる紙。
むかしむかし、あるところに神がいた。
神は世界を創る神だった。
世界を創るのは簡単だ。
『世界の書』。
これに書き込めば新たな世界が生まれる。
ただその世界の法則や世界を発展させるための装置を一から書き込まなくてはならないので実はかなり面倒な作業だった。
そう、“作業”。
神はこの作業に飽きていた。
そもそも自分は『世界を紡ぐ神』として神に、書に書き込まれて創られたのだ。
神のいるこの空間はそうしてできた。
その神も神に創られた。
その神も神に創られた。
その神も神に創られた。
そうやってどんどん下に行けば行くほど神の力は弱まった。
今では下に神を創れぬほど。
故に神は考えた。
“ならば自分の創った世界の住人にやらせよう”、と。
そして神は『世界の書』の生み出した世界に行き、発想力が最も豊かな人間を見つけた。
売れない物書きだった。
神はその物書きに書と“祝福”を与えた。
その物書きは食事も睡眠も必要としなくなった。
ほんの少しの欲すらもなくなった。
老いることもなくなった。
それが神の与えた“祝福”。
その住人のみ設定を弄ったのだ。
“過ぎた物を与えたかもしれないな”と神は思ったが、気にはしなかった。
そうして物書きはいつの間にか手にしていた『世界の書』に狂ったように“世界”を書き込んでいった。
来る日も来る日も。
晴れの日も雨の日も風の日も祭りの日も春も夏も秋も冬も朝も昼も夜も人が来ても人が離れてもダレカが泣いても何年たっても何十年たっても何百年たってもひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすらひたすら書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて書いて、ただ書いて。
しかしただの人間がそんな暮らしに耐えられるわけもなく。
ある日物書きは発狂し、書を抱いて冬の海に飛び込んだ。
物書きは不老だったが不死ではなかったため、その海の冷たさに、それよりも心を蝕んだ孤独に死んだ。
そして『世界の書』は、紙なので、ふやけ、インクが滲んだ。
ふやけて溶け、滲んで染みた世界は混ざり合い、ひとつの塊になった。
こうして生まれたのがお互いが整然とした法則持つ混沌とした“世界界”。
いままで神々が創り続けた世界がごっちゃになった冗談よりタチの悪い、ジョークのようにひどい世界。
ん?
何故神はこれを止めなかったかって?
物書きが最初のページ、いや、表紙のすぐ裏にこう追記したのさ。
『神はいない』ってね。
ん?
私は誰なのか、だと?
気にするな、気にしても無意味なことさ。
さて、そうなってから百年。
物体に意思が宿る。
世界にも意思が宿る。
世界の意思の集合体たる世界界にも意思が宿る。
幼き意思は己の物語を紡ぐ。
しかし、最初から何でも上手くいく存在はいないように、ハジメテの物語は、それはそれは失敗していた。
なぜなら、試行錯誤の末、生まれた“勇者”と“魔王”は――――――