三人目:喫茶店
新人OLである「村谷 真紀」は足早に行きつけのバーに向かっていた。今日、先輩OLに濡れ衣を着せられたからだ。
(あのミスは先輩のせいなのに…)
とにかむ、カクテルでも飲みながらバーテンダーに愚痴でも言わなければ気が済まなかった。
しかし・・・
「定休日…はぁ、ツいてないなぁ」
仕方なく、家に帰って一杯やることに。
しかし、真紀は数分もしないうちにある店の前で足を止めた。
「『叶雑貨店』かぁ。あっでも喫茶店もやってるみたい♪」
古びた店の中を良く見ると、店の奥では、お客が数人座って談笑している。
元々好奇心旺盛な真紀は、店の中に入ってみることに。
カランカラーン
耳に心地よい音色が店内に響く。
中は意外に広く、棚には雑貨が整然と並べられている。その奥に、綺麗な細工を施された椅子と机が数席設けられていた。
真紀は一番奥の席に座り、店員を待った。机は白いテーブルクロスに小さな花がセンス良く活けてあるが、メニューらしきものは見当たらない。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
顔立ちの整った青年が突然、声をかけてきた。
「・・・・・」
真紀は少しの間、青年の美しい容貌に見とれていた。
「お客様?どうかしましたか?」
青年は訝しげな表情を浮かべた。そこで真紀は、青年が店員であることを思い出し、赤面した。
「い、いえ。ここってお酒とかはないですよね!?」
喫茶店なのだからあるはずもないのだが、駄目元で聞いてみた。
「ございますよ。当店は、お客様のご要望にお答えできるようになっておりますから」
そう答えて、青年はニコリと微笑んだ。
「じゃぁ、カクテルをお願いします。おすすめで」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
数分後・・・・・
「お待たせいたしました」
そう言って出されたのは夕陽のような色をしたカクテルだった。特に細工もなく、普通といえば普通だった。
真紀はそれを一口、口に含んだ。口の中に甘く、全てのストレスを取り去るような不思議な味が広がり、それが身体を満たした。真紀から自然と笑顔が零れる。
「ふぅ・・・おいしい」
「ありがとうございます。どうぞ、ごゆっくり」
そう言って青年は店の奥へと消えていった。
2時間程ゆっくりした後、幸福な気持ちで真紀は家に戻った。
それから叶雑貨店は、真紀の行き着けとなる。