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第2話「旅の始まり」

ユカリがミクリに助けられてからちょっとした時、二人は一つの木の下にいた。

「あの、これからどうするつもりですか?」

木にもたれて座っているユカリが聞いてきた。

「タメ口でいいよ。うーん、シャナルに行っても君は殺されると思うしなぁ……。」

ミクリが立って回りをきょろきょろしながら答えた。きょろきょろしてるのはヴァンパイアにはもちろん、他のハンターにも警戒をしているからだ。

「ヴァンパイアを治す方法はないの?」

「はっきり言うと、今のところはない。」

治療法がないヴァンパイア病は病院で隔離をしていても医者や看護師に襲いかかる危険性があるので、原則としてヴァンパイアを殺す。そして、それを違反した者には重い処罰を受けられる。だから、ミクリは他のハンターがユカリを殺しにかかるのを気にしてるし、かまっていることが他のハンターに気づかれるのを恐れている。

「じゃあ、治したいというのはウソなの?」

ユカリは不安半分疑念半分でミクリに問いだした。

「いや、それは本当なんだ。なんとか見つけ出そう。」

片手でユカリを制するようにしながら、変わらずあたりを見渡しながら答えた。

「どうやって?」

「そうだなぁ……。」

ミクリは少し考えると、ある人物の事を思い出した。

「そうだ、これから僕の友達のところに行こう。その人ならヴァンパイアを治す方法を見つけ出してくれるかも。」

その時、ミクリの嫌な予感が当たってしまった。ミクリは指を指しながら言った。

「向こうの方で隠れていて。」

「えっ、う、うん。」

なんとか歩けるほど体力を回復したユカリはミクリが指した方向に慌てて行った。その反対側にはハンターがいた。幸い、まだユカリのことを気づいていない様子だった。そのハンターがようやくミクリに気付くと、ミクリに近づいていった。

「よぉ、ミクリじゃねぇか。こんなところで狩りか?」

「あ、あぁ、そうだ……。レギレ、おまえもか?」

ミクリに話しかけてきたハンターの名前はレギレ。規則にはかなりうるさい上に違反したハンターがいれば上に報告をする。比較的に細見で顔立ちは少し縦長で眼光にも鋭さがある。上着のボタンを全部つけてきちっとしてる恰好が彼の真面目さをにじみだしている。厄介なものが来てしまったなぁとミクリは思った。レギレが近づくと、ミクリを威圧するようにしながら、右手を上げて指を指した。

「あれはミクリがやったのか?」

指を指した先にはさっきミクリにユカリを助ける時に切られて倒れてるヴァンパイアがいた。

「そうだ、俺がやった。」

「そういえば、仲間がいないみたいだが、今日は一人なのか?」

「ああ……。」

「おまえ、ちゃんとチームでいかないとダメだろ。」

通常、ヴァンパイアの狩りをするときには、戦いの危険を減らすために何人かでチームを組んでいく。しかし、それだとヴァンパイアを狩った時の賞金が山分けされ、その分儲けが少なくなる。なので、ミクリのように一人で狩った方が儲かり、そのようなことをするハンターも少なくない。

「僕はこのあたりだったら一人でも大丈夫だ。それに、おまえも一人じゃないか。」

「俺はちゃんと仲間と組んできてるよ。もうすぐここらへんに来るさ。そのヴァンパイアの賞金はおまえ一人だけのものでいいから、これから俺とチームを組め。」

ミクリは返事をしないで、面倒なことになったと思い、どうこの状況を乗り切ろうか考えた。

すると、また先ほどと同じような、バキバキという木が折れるような音が鳴った。

隠れていたユカリが木の上から落ちてきたのだ。

「おい、ヴァンパイアがいたぞ。ミクリ、やるぞ。」

ユカリの姿を確認したレギレはそう言うと背中掛けていた彼の武器、銃剣を取り出して倒れて無防備なユカリに銃口を向けて構えた。そのがら空きとなった腹にミクリは咄嗟の判断で左ブローをかました。もろに急所をくらったレギレは構えが崩れて腕が下がると、隙ができた顔に今度は右ストレートをミクリは思い切り繰り出した。思わぬワンツーパンチを受けたレギレは銃剣を放り出しながら倒れて、気絶した。

「ユカリ、ここから早く逃げよう。」

「えっ、あの人はどうするの?」

「もうそろそろ朝日が出てくるから、ここらへんはもう活動してるヴァンパイアは少ないし、こいつは仲間がいると言ったから大丈夫だ。」

ミクリは早口にそう答えながら早足でレギレが来たところの逆方向に歩いて、何回も早くユカリに手招きをした。

「む、無理だよ、体力ないから走れない……。」

「仕方ないな……。」

ミクリは上半身を起こしているユカリに近づいた。そして、片膝立ちでしゃがみ込むと、ユカリの下に腕をまわしてそのまま持ち上げながら立ち上がった。

「えっ、えっ……。」

「おとなしくしていてくれよ。」

いわゆる、お姫様抱っこをして、細見のユカリをしっかりと掴んでミクリは走り出した。

「きゃ、きゃあああああぁぁぁ。」

パニック状態になったユカリが叫びだした。

「お、おい、静かにしてくれ、ヴァンパイアとか他のハンターに気づかれる。」

そう言われてユカリは身を丸めてうつむくようにした。


走って10分くらい、光景はさっきとあまり変わらないが、距離的には大きく移動した。

「はぁ、はぁ、ここらへんで大丈夫かな……。」

息を切らしながらそういうと、ユカリを下した。すると、ユカリはおもむろに手近な木に近づいて、両手で顔を覆うようにしてしゃがみ込んだ。

「どうした。」

「だ、だって、お、お、お姫様、だっこを……。」

ミクリは恥ずかしさが込みあがっている声でそう言われて、自分がしたことに気づいて、ユカリとは向かいあう木に近づいて右手に木を押し当て、左手で顔を覆うようにしてユカリと同じようにしゃがみ込んだ。30秒くらいそのままやっていると、ミクリが立ち上がった。

「そ、そろそろ行こうか、ハンターがあとを追いかけてるかもしれないし。」

「う、うん……。」

ユカリは未だに恥ずかしそうにしゃがみ込んだままだった。

「立てる?」

ミクリはかがんでユカリの前に手を差し出した。

「あ、ありがとう……。」

ユカリは少し青白い手で手をとると、引っ張られてそれにつられて立ち上がった。その後お互い自分たちのしてることに気づいて慌てて手を離すと並んで歩き出したが、互いに相手を見ないようにしている。一応、ミクリは相変わらず周囲を警戒している。しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのはユカリの方だった。

「そういえば、どこに行くんだっけ?」

レギレが来る前に言っていたが、ユカリはそれからの唐突的なことに意識を持っていかれて覚えてなかったうえに、ミクリも言ったかどうか記憶が定かではなかった。

「僕の友達のところだよ。今の状況でも、信頼できる人だよ。ただ……。」

ミクリは最後は独り言のように小さく言った。

「ただ?」

「いや、なんでもない。それより、結構歩くことになるけど、大丈夫?さっき走れなかったようだけど。」

「うん、大丈夫。最近は朝になると体中が痛くなるし、今朝も痛かったんだ。あなたに見つけられた時は無理して走ったけど。でも、今はもうほとんど痛みは引いてきたし、歩くぐらいだったら大丈夫。」

ミクリは聞いて本当に不幸中の幸いだなとほんの少し安心した。ユカリが言ったのはまさに、ヴァンパイア病の典型的な初期症状だ。ヴァンパイア病は最初の段階から夜になると人の意識が消滅して活動をするが、それに人間の体はついていけず意識が戻ってきたときには全身に筋肉痛を引き起こす。症状が進めば人間の体はヴァンパイア病に慣れ、徐々に筋肉痛が和らいで最終的には痛みを感じなくなる。そして、その痛みなどの怪我からの回復も早いのもヴァンパイア病の特徴だ。

「そうか、なんとか夜が来る前にその人のところに行こう。」

ユカリはミクリの言葉に気が遠くなる覚えをした。症状の進行によっては昼にも発病してしまうことがあるが、基本的に夜になってしまうとヴァンパイア病が発病してしまうことは2人とも知っていた。それよりも、ユカリの体感的には日が昇ってからまだ1時間も経っていない。そこから下手したら夜になるまで歩くと思うと気が遠くなる感じをした。

こうして、長い旅が始まった。

どうも、第1話の投稿からもう1年以上たってしまいました。

一応、書いていこうかと思いますが、のんびりペースになります。

現在は3話の最初あたりを書き終えています。

というよりも、2話にしようとしてたんですが、少し長めになったかなと思ったので分割しただけなんですけど。

読んでいただけたら幸いです。

次話をゆっくりとお待ちください。

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