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カンナ  作者: Gardenia
第二章
23/36

2-23

小部屋に入るとすぐに、琢磨が二人を紹介した。


「こちらここの女将さん。カンナは覚えてるかな。節子だよ。クラスは違ったけど同じ学年の加藤節子かとう せつこ

カンナはじっとその女性を見た。

女将と紹介された女性も「カンナ」という名前に反応してじっと見ている。

同じタイミングで、

「カンナちゃん?」「節っちゃん?」と呼び合って、次には「きゃ~~、久しぶり」と黄色い声を上げて手を取り合った。


「料理人の奥さんになったとは聞いていたけど・・・」カンナはまだ驚きを隠せずに言った。

「うん。独立するっていう時に結婚したのよ」

「レストランをしてるというもの聞いてはいたんだけどね。今まで来れなくてごめんね」

「いいのよ、そんなこと。それに洋食でこってりしてるからうちの両親もあまり来ないから」

そう言って節子は笑っている。


「カンナちゃんは実家に帰ったんだって?」

「うん。まぁ、出戻りってわけよ」

「オジサンたち喜んでるでしょ」

「複雑な心境ってところじゃないかな?」


今度は琢磨がびっくりしている。

「お前達がそんなに仲良いとは知らなかったなぁ」

「何言ってるの。同じクラブだったんだもの」

「しかも私達、親戚だよ~?」


琢磨はカンナと節子の顔をかわるがわる見てから、

「そうだったんだ。驚きだな。でもとりあえず腹減ったから注文を先に聞いてくれ」と

投げやりに言って椅子にドカリと座り込んだ。


「まったくこのお坊ちゃまは、お腹が空くと機嫌が悪いんだから」

節子はそう言いながら、テーブルにお皿やカトラリーを整えていく。

「ビールとか飲む?」と二人に聞いた。


「今日は運転手居ないから、水でいいや」と琢磨が言うと、

「車置いていっていいよ」と節子が返した。

「ん~~、でも今日はいいや」と琢磨が言うので、カンナも「お水くださいな」と言った。


「俺はいつもので!」と琢磨が言うので、「いつものって?」とカンナが聞くと、

「ハンバーグだよ。秋吉君はそれしか食べないから」と節子が笑いながら教えてくれた。

「じゃ、私も同じものを」と言うと、「とりあえずオーダーを通してくるね」と言って小部屋を出て行った。


ようやくカンナは琢磨の向いの席に座った。

琢磨が口を開く。

「親戚だとは知らなかったなぁ」

「遠い親戚よ。母同士が従兄妹だったはず」

「ここらあたりでは、それは近い親戚だな」琢磨がそう言って、二人は顔を見合わせて苦笑した。


やがて少量の前菜が運ばれてきた。

つづいてスープとサラダがそれぞれ二人の前に置かれる。

それを食べ終わった頃に、コック服を着た背の高い男性がカンナと琢磨に挨拶に来た。

「うちの人です」と節子がカンナに紹介すると、「今からハンバーグ焼きますのでお待ちくださいね」と言ってキッチンに戻って行く。

ランチタイムは予め焼くだけに用意しておいたものを焼くのだが、夜は注文を聞いてからひき肉を捏ねているらしい。

今夜は張り切っていて、特上サーロインをひき肉にするところからシェフが自らやっていると節子が説明した。


琢磨が「今までそんな待遇を受けたことがないな」と拗ねたように言うと、

「カンナを連れて来てくれたらまた作ると思うよ?」と節子は笑っている。


カンナの耳に近づけるようにして、「秋吉君ったら女性を口説くときは決まってここに食べに来るんだけどさ・・・」と言うと、

「お前、何言ってんだ~~」と琢磨が慌てて節子の言葉を遮った。

「へぇ~、そうなんだ。ふ~~ん」とカンナも面白そうに琢磨を見ると、

琢磨は顔を赤らめてと言ってぷいと横を向いてしまった。

節子とカンナは顔を見合わせて笑っている。


「じゃ、そろそろハンバーグがあがるころだから見てくるね」と節子が笑いながら小部屋を出て行くと、会話が止まってカンナのくすくす笑う声だけが響いた。

「おまえ、そんなに笑うと皺増えるぞ」と琢磨が面白くなさそうに呟いた。


ほどなく運ばれてきたハンバーグがとても美味しくて、二人は会話もせずにもくもくと食べた。

あっと言う間に食べ終わった琢磨は、向いに座るカンナを見ていた。


一口大に切ったハンバーグにナイフでソースを絡めて口に運ぶ。

ぱくっと素早く口に入れると目を細めて美味しそうに咀嚼している。

ハンバーグは端から順序良く切られていて、付け合せの野菜も肉と同じように順番に食べている。

カンナの皿の上の肉と野菜はいつでも綺麗な切り口で、一定のリズムで少しずつ小さくなっていった。


「食べるの遅い?」とカンナが突然琢磨に聞いた。

カンナはハンバーグだけだが、琢磨はご飯も大盛りで食べていた。

「いや」と簡潔に琢磨が言うと、カンナは最後の一切れを口に入れ、食べ終わるとナイフとフォークを皿の端に揃えて置き、「ごちそうさまでした」と呟いた。


「肉、好きなのか?」と琢磨が聞く。

「ええ、こういう店に来るとお魚よりお肉頼んじゃうわね」とカンナが答える。


「あなたはどうなの?」今度はカンナが琢磨に聞いた。

「お魚とお肉とどっちが好きなの?」

「そうだな。俺は魚も結構食うぞ」

「野菜と甘いものはあまり食べないって感じだよね」

「飲むからなぁ。甘いのは苦手だ」


そんな話をしているところに節子がデザートの注文を聞きに来た。

二人ともお腹が一杯なのでデザートを断ると、「シェフががっかりするわね」と言ってキッチンに戻って行ったが、すぐにコーヒーを運んで戻ってくる。


「今度、両親を連れてくるわね」とカンナが節子に話しかけた。

「年に何回かはおじさんとおばさんには来てもらってるのよ」

「そうなんだ。明日は父と一緒にでかける予定だから、お昼はここに来ちゃおうかな」

「うんうん、そうして?でも、ランチはちょっと混む時間があるから来る前に電話もらえると助かるわ」

「それは凄いね。じゃ、遅めの時間で来るかな」


「おじさんは娘と一緒にお出かけじゃ嬉しくて仕方ないだろうな」と節子が笑って言った。

「車のショールームに行こうと思って」とカンナが言うと、節子と琢磨が「「車買うんだ?」」と同時に言った。


「あはは、車となると琢磨の食いつきが早いわね」とカンナが笑う。

「ハイブリッド車がいいなと思ってさ。誰かディーラー知らない?」と二人に聞くと、

「同級生だった小泉こいずみがレクサスで所長してたんじゃないか?」と琢磨が言うと、

「そうそう、小泉君、所長だよ」と節子も頷いた。


カンナが目を細めて思い出そうとしている。

「こいつ、あまり覚えてないから・・・」と琢磨が節子に言った。

節子は苦笑しながら、「とびっきりのイケメンだったらカンナもお覚えてるだろうけど、ほんと目立たない子だったもの」と言った。

「しかも、今は中年のオヤジだよ?会ってもわからないんじゃない?」


「節っちゃんは覚えてるの?」と、カンナが聞くと

「小泉君、所長になったとき家族でお祝いの食事しにきてくれたんだよ」と節子が答えた。


「決まったら連絡してこいよ。どこのディーラーでも知り合いの一人や二人居るから」と琢磨が言うと、

節子が「走り屋だったものね、秋吉君は。その時の子分がたくさん居るんじゃない?」と言って笑った。


琢磨は「なんでそんな事言うかなぁ」とブツブツ言いながらも、節子に食事代を支払い、二人は節子夫婦に見送られて車に乗り込んだ。


助手席に座ったカンナが「これ、私の分」と言ってお金を出そうとすると、

「やめてくれよ」と琢磨が不機嫌そうな声で言った。

車を発進させながら、見送りに出てたたずんでいる節子夫婦に手を振り、

「今日は俺が誘ったんだから黙って奢られて?」とカンナに言う。

「わかったわ。ご馳走様でした」とカンナは素直にお金を引っ込めた。


不機嫌な沈黙が怖かったので、カンナは「あのハンバーグ、ほんとうに美味しかったわね」と琢磨に話しかける。

琢磨がまだ黙っているのを無視して、「あれは神戸牛のサーロインで、絶対にシェフの手切りで叩いたものだよ」と言った。

「わかるのか?」ようやく琢磨が口を開いた。


「だって、肉のつぶつぶが不揃いだったじゃない。

シェフが包丁で丹念に叩いたお肉を、手で捏ねて、形をつくってすぐに焼いたものだわ」

「ほう」

「ソースはたぶん、3日目くらいだな。あぁいうお店は毎日ソースを作ってるわけじゃないから、たぶん1週間に一度くらいだと思う。

店に入った時はよく煮込んだ匂いがしてたけど、私のお皿にかかっていたソースはそれよりも少し浅い香りがしたから」

「おまえ、食い意地が張ってるんだなぁ」と呆れたように琢磨が言った。

「グルメって言ってちょうだいな」カンナが高飛車に琢磨に言うと、

「何がグルメだ!」と琢磨が笑って言った。

カンナも笑い出し、やがて「そうなの。私ってとっても食いしん坊なのよ」と認めた。





しばらくして、「なぁ。今度ほんとに神戸にステーキ食いに行かないか?」と琢磨が言った。

「デートのお誘いは困るわ」カンナがさらりと断る。

「鮨でもいいぞ?」

「尚更困るわ」

「困るのか?」

「困るわよ。妻子持ちの男性とカウンターで仲睦ましく肩寄せ合って鮨をつまむって・・・何か、嫌だなぁ」

「ほう、肩寄せ合うのか?」

「周りはそう見るってこと」


一瞬言葉に詰まったが、琢磨はさらに誘う。

「なんかさ、おまえが食べるの見ると、もっと食べさせたいって思うんだよなぁ」

「何それ?餌付けってこと?」

それには琢磨も笑っていたが、「細いお前に食べさたいと思うし、それに食べてるところを見ていたいって気がするんだよなぁ」

「あなたは親鳥ですか?」

「そうかもしれない」そう言って琢磨はまた笑った。


「食べ歩きの会を発足してもいいけどね、でも今じゃない。それだけは確かよ」カンナは降参したように最後に言った。


「まだかなり時間がかかるのか?」琢磨は東京のことを聞いたようだった。

「今からしばらくは正念場だから」そうカンナは答えた。

「とりあえず東京に戻る前に電話かけてこいよ」琢磨はそう言って、カンナの実家の前に静かに車を停めた。







充実した旅から戻ってきました。

更新が止まっていて申し訳ありません。

仕事も溜まっているので、不定期になりますが更新再開しますのでよろしくお願いします。


Gardenia

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