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熱血パーサー乗務録  作者: 田中元一


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VOL 5.チンピラやくざとのトラブル(その1)

次回 VOL 6.チンピラやくざとのトラブル(その2)

国際線乗務員といえども、人員の過不足(マンニングと呼んでいる)や機材繰りの関係で、国内線を乗務することがあります。


この事件は、羽田発大阪伊丹空港行きの午後の便で発生しました。


私は客室責任者で、最前方のドアに立ち、搭乗してくるお客さまに挨拶と座席案内をしていました。

そこに一見して、その業界の方と分かる5人が乗り込んできました。


私はさりげなく彼等の座席を確認して、後部客室を担当するスチュワーデスに、必要な情報として「見れば分かると思うが、その手の連中が5人、座席は○○、普通に対応するように、何かあれば私が対応するので他のスチュワーデスにも伝えておいてくれ」と連絡した。


この路線はビジネス路線なので、常時満席が普通で、飛行時間もわずか1時間しかなく、前方のスーパーシート(今ではJクラスという呼称)では軽食を提供するので、結構忙しい。


この便の客室前方は一杯だったが、最後部客室には珍しく空席があった。


到着まで20分という頃、後部客室を統括しているスチュワーデスから機内電話で例のチンピラの件で来て欲しいとの連絡があり、彼女からトラブルの概略を聞いた時点で、瞬時に今後の対応と処理方法をいくつか考えてみた。


我々の仕事は、予測し得ないハプニングが起こった場合、それを如何に迅速に、しかも的確に判断して、処理することである。

さらに、状況の確認とそれに対する判断と対応処理を、限られた時間と空間の中で行わなければならず、やり直しの出来ない一発勝負に近いところがある。


新人のスチュワーデスといえども、求められるモノは同じである。

ただ、客室責任者が彼らと違うのは、相談する相手がいなく(いるとすれば機長だが)、客室の統括者としての最終的な決断と責任を取ることである。


従って、我々は常に危機管理意識、それもリスク(発生後の対応処理)よりクライシス(発生予防の対応)を優先したマネージメント能力を求められているとも言える。

簡単に言うなら、初期消火より火災予防を優先することである。


私は、後部客室に直行して、担当のスチュワーデスから、その経緯の詳細報告を受けた。

その概略は次のようなものだった。


彼等は、当初は普通に大人しく本来の座席に座っていたのだが、そのうちに、空席に移動し始めた。

これは別に普通の行動であり、なんら問題はない。


ところが、最後列の空席に移動した一人が、その席の足元に置いてあったスチュワーデスのショルダーバッグを見つけ、それを手に取って、中身を勝手にあさり始め、財布からお札を抜いたようだとのことである。

更に、社員証ラスターを見ながら、何かをメモしていたというのだ。


その席の直後の乗務員席に着席していた新人スチュワーデスのA子が、その一部始終を見ていたということだった。

その後、彼は元の座席に戻ったとのことだった。


私は、A子には「彼が足元からバッグを取り出して中身をあさり始めた時点で、彼に注意すべきだった」と伝え。

このバッグの持ち主のB子に紛失したものについて確認した。

やはり、財布から5千円が抜き取られている、他には紛失したものはないとのことであった。


B子は「忙しさに紛れて、つい本来収納すべき場所に置かないで、あの座席の足元に置いたのがいけなかったので、5千円は諦めます。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」と私に謝った。


私は、彼女の社員証を確認した。

首から下げるチエーンの付いた透明プラステイックに社員証と緊急時の対応を記載したカードが収納されていた。

ところが、その端に小さく彼女の住所と電話番号を記載したテロップが添付されていたのだ。


私は再度、目撃者であるA子に「彼がこの社員証を見ながら、何かをメモしていたようだと言っていたが、それは確かなのか?」

A子は「何をメモしていたかは分かりませんが、メモしたことは間違いありません」と答えた。


(・・・続く)


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