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熱血パーサー乗務録  作者: 田中元一


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VOL 3.プロローグ ◆生い立ちから入社まで(その3) 半官半民の航空会社を受験

就職浪人ができる家庭環境ではなかったので、結構焦っていたのですが、生来少し楽天的な面もあって、「どうにかなるさ!」とタカをくくっていました。


ある朝、下宿のオバサンが「ネー、こんなんがあるけど、知ってる?」と言って新聞の1面広告を 差し出してくれたのです。


カッコイイ制服姿の男性(モデルと思い込んでいたのが、後に本物だと判明する)の写真があり、目に飛び込んできたのが「今日はホノルル! 明日はパリ!」の大見出しのJALのスチュワードという職種の募集広告でした。


申し込み期限は10日後でした。

給与が先の大手M物産の約1.5倍という破格の待遇だったこともあって、翌日の夏季実習ゼミは、この話題で持ちきりでした。

既に他社に内定していた連中も、目ざとくこれに応募することになり、ゼミの総勢12名で、

その日の午後、福岡支店の採用人事担当者に会いに行ったのでした。


ところが、この広告の効果は大変なもので、福岡支店には既に各大学から殺到した200名程の学生が順番待ちをしていました。

我々は2時間待って、やっと担当者の話を聞くことが出来ました。

今回の採用人数は60名で全国で既に8000名の応募があった。多分最終的には1万名になるだろう。

英語が相当できないと無理だとの話でした。

ところが、実際は全国で1万2千人が応募したとのこと。

試験も4次試験まであり、体力と適性検査もあることも、初めて知ったのです。


英語の得意なESS(英語クラブ)の部長とも仲良くしてたので、急遽彼を中心に英会話合宿を彼の自宅でやることになり、精鋭7名で英語しか話さない約束の2泊3日の合宿をやったのです。


1次は一般常識と英語の筆記試験で、精鋭7名中、3名が合格。

なぜか本命のESS部長はダメでした。


2次試験は英会話の面接試験で、米国人と日本人教官による個人面接でした。

たまたま、試験の前日の夕食時に、手の指のそれぞれの名前を下宿の英語学科の学生が話題にしたので、知らなかったので教えてもらったら、なんとそれを試験官から聞かれたのです。

それで、2人の面接官から語彙が豊富だと誉められたので、英会話の面接試験は絶対大丈夫だと思っていました。

ところが、合格通知の電報が届かないので、半ば諦めて、その晩は遅くまで不合格になった連中と残念会でしこたま飲んで、部屋で二日酔いで寝こけていたら、下宿のオバサンが昼頃、合格の電報を持ってきたのでした。


3次試験は東京で実施されるということで、福岡支店に航空券を受取りに行きました。

例の偉そうな採用担当者に資料を渡され、別の女性職員から航空券を受け取り、「頑張ってね!」と励まされました。

お礼を言って帰ろうとした時に、例の採用担当者に呼び止められ、「君の下宿の部屋は一応整理整頓してたほうがいいよ」と言われたのです。


私は「エッ?」と答えると、彼は意味ありげに片目をつぶって「そういうことだよ」と言って自分の席に戻って行きました。


彼の言ったことが何のことかわからず、考えていたら、以前に誰かが「大手企業は興信所に頼んで、身元調査をやるらしい、学生運動家はそれで落とされるそうだ」という話を思い出したのです。


私は早速下宿のオバサンに、誰かそれらしき人が尋ねてきたかどうかを聞いたが、まだだということでした。

早速、オバサンに事情を話し、隣室の後輩で超真面目な九州大学工学部で航空力学を専攻していた学生に頼んで3日間だけ、部屋を交換することにしたのです。


そして、フランス語の本や空手着と写真だけを入れ替え万全の体勢を整えたのでした。

案の定、翌日の留守中に興信所の調査員が昼間尋ねてきて、オバサンにいろいろと質問をして、最後に私の部屋を見たということだった。

オバサンから、調査員が「彼は、余程航空会社に就職したいんですね。フランス語の本以外に、航空力学関連の専門書まで勉強してるのですな・・・」と感心して帰っていったよ、ということを聞かされて、オバサンと優秀な後輩に感謝したのでした。


学校の学生課には、学内随一の実力者のS教授が話をつけてくれていたので、学生運動で逮捕された件はバレナイという確信はあったのです。


次回  VOL 4.プロローグ

◆生い立ちから入社まで(おわり)


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