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Prolog
どうしてみんな、当然のように仕事をすることができるんだろう。
仕事に行けて、学校に行けて、家事をすることができる。
きっとそれは一般的に「幸せ」とでも呼ぶべきものだ。
僕にはまるでそれがなかった。
親は常に喧嘩しているし、妹は僕より世渡り上手で、いつも悪者にされるのは僕だった。
でも僕も流石あの親の子という感じで、自己中心的な思考回路ですぐに人の所為にしてしまうから人のことは言えない。
あの人と出会ったのは、学校をズル休みして昼間のオフィス街を歩いていた時だった。
顔は若いのに、髪は真っ白。濃い青のサングラスがよく似合っていて、左の口の端に古傷がある。
煙草の苦い香りが鼻を突く。
「おや、おかしいね。学校の時間帯のはずだが」
低い声が、のんびりと歌うように言った。
不思議と咎めているようには聞こえなかった。むしろ面白がっている気がする。
「あなたは、誰ですか」
「俺は御影。」
男性……御影はそれ以上言わず、静かに紫煙を吐いた。
「君は?」
「……僕は、進藤 律」
その後に続けようとした言葉は飲み込んだ。
何となく、この人はわかっている気がした。
「律、君は学校が嫌いかい?」
「……はい」
御影も、僕の返答をきっとわかっていたと思う。
だって御影は、その返事に目を細めただけだったから。




