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居眠り伯と万能の天才公爵  作者: 中里勇史
オルドナ戦線

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第二次ミラロール攻防戦 その三

「ヌヴァロークノ軍、驚いてるみたいだね」

 ウィンはわははと笑った。

「笑っている場合か」

 フォロブロンがたしなめる。

「そろそろ頃合いではないか?」

「そうだね。じゃ、後は任せるよ。私は邪魔になるからここに残る」

 レンテレテスがクスリと笑った。

「ではアレス副伯(フォロブロン)、参りましょう」

 フォロブロンが頷くと、ヨーレントが馬に乗って後方に走り去った。本隊に出陣の命令を伝えるためである。

「ラフェルス伯、私もアレス副伯らと行かせてください」

 ヴァル・ザルヴァーエル・カルターレンが参戦を希望した。彼はケルヴァーロの家臣で、ヌヴァロークノ軍との戦訓を提供するためにラフェルス・カーリルン軍に出向中の身だ。ケルヴァーロの死を知ってからは、思い詰めた顔でウィンに従っていた。

「死に場所にするつもりなら駄目だよ」

ナインバッフ公(ケルヴァーロ)はそうしたことを好まれないお方でした」

「それなら行ってらっしゃい」


 ウィンたちが居るのは、ミラロールの南側にある岩陰である。ヌヴァロークノ軍がオルドナ伯を奇襲した際に潜んでいた場所だ。兵たちはさらに後方に下げて、ウィンら首脳部とその護衛だけが戦況を窺っていた。

 しばらくすると、皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍が保有する騎兵二五〇〇騎がウィンたちの背後まで前進してきた。

「では行ってくる」

 フォロブロン、レンテレテス、ザルヴァーエルらは騎兵たちに合流すると、岩陰から一気に駆け出した。ミラロールに攻めかかっているヌヴァロークノ軍の背後を衝くのである。

 続いて、ラゲルス、オルロンデムらに率いられた歩兵一万一〇〇〇が現れた。

「行ってくるぜ、旦那」

「うん、よろしく」

「アークラスム卿、ラフェルス伯をしっかりお守りするのだぞ」

「オルロンデムに指図される覚えはねえよ」

 アークラスムが不機嫌そうに答える。彼は、ウィンの護衛として五〇〇人の歩兵と共に残留するのが不満だった。

 ラゲルスとオルロンデムは顔を見合わせて苦笑すると、歩兵たちに合図して前進を開始した。フォロブロンらが指揮する騎兵たちが敵の背後を撹乱している間に追い付かなければならない。

「まあまあ、ふてくされないでよ、アークラスム。この五〇〇人が予備兵力として必要になるかもしれないんだし」

「必要にならないかもしれんじゃないですか」

「それなら結構じゃないか」

 ウィンはわははと笑った。が、急に顔を引き締めた。

「さあ、総仕上げだ」


 ヌヴァロークノ軍は梯子をかけて崖を上ろうとするが、崖の各所の足場に配置された弓兵に阻まれた。

「油だ! どんどん油もってこい!」

 ベルウェンの指揮で、崖や門の上の足場から煮えたぎった油が盛大に降りそそいだ。

 フローデレベンドは憤怒の形相でミラロールを睨み付けた。ここまで手も足も出ないとは、予想していなかった。もはやミラロール攻略の失敗は明らかである。攻略の糸口がつかめない以上、撤退するしかない。

「陛下、無念ですがここまでのようです」

 クーデル三世は無言で頷いた。王の同意を得てフローデレベンドが撤退命令を出そうとしたとき、地響きを感じた。

「誰か! 背後に物見を出せ!」

 フローデレベンドが叫んだときには、既にフォロブロン指揮下の騎兵たちがヌヴァロークノ軍の背後に迫っていた。

 槍ぶすまが形成されていない歩兵たちを背後から強襲するのは実に容易だった。敵陣に騎兵突撃を敢行すると、フォロブロンらは短槍を左右に振って歩兵たちを討ち取りながら進んだ。しかし敵陣深くに切り込まず、最後尾の歩兵たちを攻め立てつつ敵陣の西側から東側へと抜けていった。

 ヌヴァロークノ軍の南東部に抜けたフォロブロンは、騎兵たちの損耗状況を確認した。数までは精査する時間がないが、ほぼ無傷だ。

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