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居眠り伯と万能の天才公爵  作者: 中里勇史
オルドナ戦線

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第二次ミラロール攻防戦 その二

 フローデレベンドの判断は、三つ数える間に覆った。

 空堀の南側には、直径三〇セル、深さ二〇セル程度の穴が無数に穿たれていた。落とし穴と言うほど大したものではないが、これにはまった兵が次々に転倒した。転倒した際に頭を地面に打ちつける者、足首を痛める者が続出した。ヌヴァロークノ軍は、戦闘が始まる前に多数の負傷者を出してしまった。

 門の上に立つベルウェンが、腹を抱えてゲラゲラと笑っている。それがヌヴァロークノ軍をさらに逆上させた。

 空堀に到達したヌヴァロークノ兵は、深さ〇・五メルという中途半端な堀を越えるために次々に飛び込んだ。

 これも罠だった。

 堀の底に落とし穴が掘られていた。落とし穴の底には先を尖らせた杭が埋められており、落ちた兵はその杭で串刺しになった。


 ウィンがミラロールへの退却を急いだのは、これらの罠を作るためだった。二倍以上のヌヴァロークノ軍に対抗するには小細工を弄するしかない。

「今ならまだ間に合うさ」

 ウィンは、愛馬ロレルを北に走らせながらわははと笑った。

 この作業の指揮を執ったのはオルロンデムである。彼は、カーリルン公領統一戦争のザロントム攻囲時もニレロティス麾下で陣地構築に貢献していた。オルロンデム家は、城壁の構築などで代々功があって貴族に取り立てられた家系なのである。


 フローデレベンドは下唇を噛んで戦況を見守っていた。何か仕掛けてくるとは思っていたが、このような姑息な手段を使ってくるとは。横を見ると、クーデル三世が表情を消して黙って戦場を見つめていた。

 フローデレベンドの視線に気付いたクーデル三世は、フローデレベンドに向かって悲しげに笑いかけた。

「戦いは始まったばかりだ。浮き足立つな」

「はっ」

「空堀なら、じきに埋まる……」

「陛下……」

 クーデル三世の悲痛な顔を見て、フローデレベンドは戦慄した。

 ヌヴァロークノ兵は空堀に飛び込み続けた。杭に串刺しにされた仲間の上に落ちてさらに串刺しになる者も続出した。しかし、落とし穴がヌヴァロークノ兵の死体で埋まると杭の脅威はなくなった。空堀を渡り切る者も現れ始め、彼らは切り通しをふさぐ門に取り付こうとしていた。

 それを見たベルウェンは、後方に合図を出して弓兵を前進させた。門の上や崖の上に急造した足場に整列した弓兵たちは、ヌヴァロークノ兵たちに向かって矢を放った。

 苛烈な攻撃を受けながらも門に取り付いたヌヴァロークノ兵は、短槍や剣を突き立てて木製の門を破壊しようとした。

 ベルウェンは、彼らの邪魔はしなかった。空堀の中にいる兵たちに攻撃を集中した。


 クーデル三世は、初めて表情を曇らせた。

「なぜ門を守ろうとしない」

 それを聞いたフローデレベンドも帝国の弓兵たちの動きに注目した。接近してくるヌヴァロークノ兵への攻撃に専念して、真下で門をこじ開けようとしている者に全く注意を向けていない。弓兵が攻撃を始める時期も遅過ぎた。普通なら、ミラロールに近づけたくないと思うはずだ。

「矢を温存するため……か?」

 フローデレベンドは違和感の正体がつかめず、苛立った。

 ついに、門の一つが破壊された。

 ヌヴァロークノ兵たちは残った木材の間に短槍を押し込み、梃子の要領でバリバリと引き剥がした。

 そして彼らが見たものは、切り通しの中に積まれた丸太だった。切り通しの奥行き方向と並行に、丸太がぎっしりと積み上げられている。門を破ったヌヴァロークノ兵たちの眼前には、切り通しいっぱいに積まれた丸太の丸い断面だけがそびえ立っている。丸太の山の上部には物見台状の足場が構築されていて、弓兵が配置されている。丸太の上に上ることは不可能だった。


 本陣を前進させたクーデル三世たちも、切り通しをふさぐ丸太に驚愕した。これでは切り通しを抜けることはできない。

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