感傷
「ナインバッフ公の軍は強かったな」
会戦後の軍の再編と並行して、クーデル三世はナインバッフ公の遺体を捜索させた。偉大な敵を弔おうと思ったのだが、彼の遺体はついに発見できなかった。
「ふん、勝者の傲慢な感傷に過ぎんか」
クーデル三世は自分を嘲笑した。要は、ケルヴァーロの遺体を見て安心したかったのだ。
「勝者?」
再びクーデル三世は自嘲した。
「何が勝者か」
厄介な敵だった。配下の将も強かった。ニークリット公が来なければ、この地に死体をさらしていたのは自分だった。カルナックタイン公の兵はクーデル三世にあと少しで届くところまで迫っていたのだ。自分は救われただけではないか。
ポレンヌーゾンとフローデレベンドは、クーデル三世の斜め後ろに控えていた。王は、ケルヴァーロの遺体捜索を偽善だと自嘲しているのだろう。彼らにはそれが容易に想像できた。だが、王自身も気付いていないが、ケルヴァーロの死を彼が心から悼んでいることも二人には分かっていた。王は、自分に厳し過ぎ、そして不器用なのだ。
「負傷者の手当も重傷者のゲルペソル移送も終わりました。すぐに出発できます」
頃合いを見計らって、ポレンヌーゾンはクーデル三世に進言した。重傷者をゲルペソルに残留させたため、ヌヴァロークノ軍本隊は三万三〇〇〇に減少している。それでもオルドナ伯領に展開する軍勢としては最大勢力である。
「よし、出陣だ。まずはトローフェイルを解放する」
ポレンヌーゾンはゲルペソルに残留することになり、その場でクーデル三世を見送った。
クーデル三世は、ケルヴァーロが討ち死にしたと思われる地点でしばし黙祷すると全軍に進軍を命じた。
トローフェイル駐留軍がゲルペソル会戦に参加できなかったのは、皇帝軍らによってトローフェイルが包囲されていたからだ。この包囲軍を粉砕し、次いでミラロールを奪還せねばならない。ミラロールを押さえなければ本国からの移民船を受け入れることができないのだ。
皇帝軍らの動向は把握できていない。北上しつつ斥候を放って調べるしかない。
まだトローフェイルを包囲しているのか。それとも既にトローフェイルは落とされてしまったのか。トローフェイルを放置してどこかに移動したのか。
神ならぬクーデル三世には分からない。分からないのだから考えても仕方がない。
仕方がないのに、彼は考え続けた。




