冷たい暖炉
トローフェイルの中央部にオルドナ伯の城館がある。そのよろい窓が吹雪でガタガタと音を立てていた。既に日は落ちて、窓の外はほぼ闇だった。
クーデル三世はセルケー平原の方角を眺めていた。むろん、よろい窓を閉ざしたままでは外を見ることはできない。
「バンナーボブゾン伯爵たちのことが気になりますか」
長椅子に座って蒸留酒を傾けていた男が静かに語りかけた。
クーデル三世は男を見ることもなく、「帝国でも雪が降るのだな」とつぶやいた。
「北海沿岸ではよく降るそうですよ。これほど降り続くことはまれなようですが。帝国南部のナルファストでも降りますな」
「南部でも降るのか? 南は暖かいのではないのか」
「帝国よりはるか南は冬でも温暖だそうですが、帝国南部は高山が連なっていて、冬は寒いですよ」
「そうか……帝国ならば暖かい、というわけでもないのだな」
民が凍えぬ地を求めて、多くの民を死なせる覚悟で来た帝国は、想像していたような楽園ではなかった。だが、クーデル三世は決して後悔することは許されない。後悔してしまったら、死んでいった者たちに顔向けできない。「お前たちの死は必要だったのだ。よくやった」と言ってやらねばならないのだ。
「この部屋、火の気が全くありませんな。お寒くありませんか。やはり北国の方は寒さにお強いのですかな」
クーデル三世は振り返ると、「いや……」と答えた。
「セルケー平原にいる兵たちは、この吹雪の中で耐えている。そう思うと私だけ暖を取る気になれぬ。それだけだ」
「左様で」
部屋の壁にしつらえられている暖炉は、バンナーボブゾンがセルケー平原に出陣して以来沈黙し続けている。家臣たちが何度も火をおこそうとしたが、そのたびにクーデル三世はそれを拒絶して決して火を灯すことを許さなかった。
男は杯の中身を一気に飲み干すと立ち上がった。
「この部屋は寒過ぎる。そろそろおいとますると致しましょう」
それをクーデル三世は呼び止めた。
「セルケー平原への出陣は、必要だったのだろうか」
「それはもちろん。ラフェルス伯らを行かせてしまったら、次はどこに現れるのか予想が付きません。地の利は帝国にあるのです。彼らを自由に振る舞わせたら不利になるばかりです」
「そうだな。いまさら言っても仕方がない。忘れてくれ、スソンリエト伯」
「もう爵位は剥奪されておりますよ、陛下」
ヴァル・ステルヴルア・ブレロントは、笑みを浮かべたまま退出した。




