表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居眠り伯と万能の天才公爵  作者: 中里勇史
ニークリット公国軍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/42

冷たい暖炉

 トローフェイルの中央部にオルドナ伯の城館がある。そのよろい窓が吹雪でガタガタと音を立てていた。既に日は落ちて、窓の外はほぼ闇だった。

 クーデル三世はセルケー平原の方角を眺めていた。むろん、よろい窓を閉ざしたままでは外を見ることはできない。


「バンナーボブゾン伯爵たちのことが気になりますか」

 長椅子に座って蒸留酒を傾けていた男が静かに語りかけた。

 クーデル三世は男を見ることもなく、「帝国でも雪が降るのだな」とつぶやいた。

「北海沿岸ではよく降るそうですよ。これほど降り続くことはまれなようですが。帝国南部のナルファストでも降りますな」

「南部でも降るのか? 南は暖かいのではないのか」

「帝国よりはるか南は冬でも温暖だそうですが、帝国南部は高山が連なっていて、冬は寒いですよ」

「そうか……帝国ならば暖かい、というわけでもないのだな」

 民が凍えぬ地を求めて、多くの民を死なせる覚悟で来た帝国は、想像していたような楽園ではなかった。だが、クーデル三世は決して後悔することは許されない。後悔してしまったら、死んでいった者たちに顔向けできない。「お前たちの死は必要だったのだ。よくやった」と言ってやらねばならないのだ。


「この部屋、火の気が全くありませんな。お寒くありませんか。やはり北国の方は寒さにお強いのですかな」

 クーデル三世は振り返ると、「いや……」と答えた。

「セルケー平原にいる兵たちは、この吹雪の中で耐えている。そう思うと私だけ暖を取る気になれぬ。それだけだ」

「左様で」

 部屋の壁にしつらえられている暖炉は、バンナーボブゾンがセルケー平原に出陣して以来沈黙し続けている。家臣たちが何度も火をおこそうとしたが、そのたびにクーデル三世はそれを拒絶して決して火を灯すことを許さなかった。

 男は杯の中身を一気に飲み干すと立ち上がった。

「この部屋は寒過ぎる。そろそろおいとますると致しましょう」

 それをクーデル三世は呼び止めた。

「セルケー平原への出陣は、必要だったのだろうか」

「それはもちろん。ラフェルス伯らを行かせてしまったら、次はどこに現れるのか予想が付きません。地の利は帝国にあるのです。彼らを自由に振る舞わせたら不利になるばかりです」

「そうだな。いまさら言っても仕方がない。忘れてくれ、スソンリエト伯」

「もう爵位は剥奪されておりますよ、陛下」

 ヴァル・ステルヴルア・ブレロントは、笑みを浮かべたまま退出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ