白い悪魔
オルドナ方面軍と呼称されることになったウィンらは、想定外の事態に直面してセルケー平原で足止めされていた。
対陣二日目に突如として両陣営を襲った吹雪である。降雪量は大して多くないが、強風が吹き荒れて視界が白くかすみ、両軍ともに敵軍ではなく雪と風から身を守ることを強いられ、戦闘どころではなくなっていた。
「さささささむむむむいいいいいい」
アルリフィーアが持たせてくれた毛皮の外套に身を包んで、ウィンはガタガタと震えていた。
「ガタガタうるせぇな。ほら、もっと火の近くに居ろって」
ベルウェンがウィンの椅子を火の近くに移動させた。「子供の面倒を見ているみたいだ」と思った。子を持ったことはないが。
「三月だというのに、北国とは過酷なものだな」
レンテレテスも嘆息する。
「まままったく、て敵のおもうつぼだねね」
「敵? 目の前にいるヌヴァロークノ軍のことか」
フォロブロンは、温めたぶどう酒を満たした錫製の杯を両手で包んで暖を取っている。
「ヌヌヴァロークノノ、ととは別かな。ヌヌヴァロークノ軍のこ行動ととしては矛盾ししてる。だだから混乱したけど、そのまま解釈すれば変じゃないかもしれない」
ウィンもベルウェンから温かいぶどう酒を受け取り、手を温めながら喉に流し込んだら震えが収まってきた。
「矛盾って何です?」
アークラスムが身を乗り出してきた。
「我々はヌヴァロークノ軍に先回りされて足止めされた。見事な作戦だったけど、突破できないほどじゃない。多少の足止めにはなったが、あれじゃ捨て駒だ。だから混乱した」
ふむ、と言ってフォロブロンが足を組んだ。
「以前もそう言っていたな」
「けど、そのまま『あれは捨て駒だ』と考えれば矛盾はないんだ。ヌヴァロークノ軍を捨て駒にして、我々をわずかでも足止めしたかったんだ。なら敵は目的を達したことになる」
「自軍の精鋭を捨て駒にしてまで、ヌヴァロークノ軍は何がしたいんです?」
アークラスムは納得いかないという顔で食い下がった。
「ヌヴァロークノ軍は捨て駒にするつもりなんかないんじゃないかな。でも『敵』はそうじゃない」
「つまりヌヴァロークノ軍を利用してるヤツがいるってことか」
ベルウェンがマズいものでも飲み込んだような顔をした。
「そう、これは『敵』の意思だ。方法は分からないが、ヌヴァロークノ軍を利用している。トローフェイルから出撃して挟撃するところまで計画に入っていたのかもしれない。あるいは、挟撃作戦を前提とすることで、待ち伏せ部隊は捨て駒ではないとクーデル王に信じさせたか」
まだ納得していないアークラスムとは対照的に、レンテレテスは得心がいったという顔になった。
「二、三日足止めできれば上出来という捨て駒作戦だったが、予想外の地吹雪でさらに足止めできたというわけか。なるほど『敵』にとっては好都合。して、その『敵』とは? ラフェルス伯は既に見当が付いているのであろう」
「我々を足止めして得をするのは一人しかいない。ニークリット公さ」




