孤立 その一
「ナインバッフ公が……討ち死にされた、だと?」
フォロブロンは言うべき言葉が見つからず、立ちすくんだ。ウィンも、他の諸将たちも、一言も発しなかった。予想した中でも最も悪い事態が発生してしまったのだ。
ヨーレントは報告を続けた。
「ナインバッフ公を死に至らしめたのは、ニークリット公国軍でございます」
「何を言っているのだ、ヨーレント卿。なぜそこでニークリット公が出てくる」
「ナインバッフ・グライス軍は、ヌヴァロークノ軍と五分以上の戦いを展開し、クーデル王に手が届くところまで追い詰めました。そのとき、背後に現れたニークリット公国軍がナインバッフ公率いる騎兵に攻撃を仕掛け、さらにカルナックタイン公の本隊を強襲して全滅させたのです」
「ニークリット公が、なぜ……」
常に冷静沈着なヴァル・オルロンデム・サルカーテトが蒼白になって絶句した。ヨーレントの説明を聞いても理解が追い付かない。
ヨーレントは一同の顔を見渡してから、ため息をついて顔を左右に振った。
「私にもニークリット公の真意は計りかねる。何も分からない。言えるのは起こった事実だけだ。だが真実には手が届かん」
そうなると、オルドナ伯領でまとまった戦力と言えるのは皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍だけということになる。敵の動き次第では敵中に孤立する。
ようやく思考が回り始めたウィンが口を開いた。
「それで、敵の動きは? ヌヴァロークノ軍とニークリット公国軍は合流したのか、別行動を取っているのか」
「ニークリット公国軍はゲルペソル近郊の戦場を離れ、さらに南下したもよう。それ以上の動向は不明です。ヌヴァロークノ軍は戦場にとどまり、軍を再編していました。カルナックタイン公がクーデル王の本隊に打撃を与えたものの、総兵力は三万五〇〇〇前後と思われます」
「三万五〇〇〇か……」
今ウィンとフォロブロンが握っている兵力は合わせても一万五〇〇〇強。二倍以上の大兵力が残っていることになる。彼らはいずれ北上してくるだろう。目的は明白だ。トローフェイルを攻囲から解放すること、そしてミラロールの奪還だ。つまり、ウィンたちは退却しない限りヌヴァロークノ軍と戦わざるを得ない。
オルロンデムが進言した。
「ラフェルス伯、ここはいったんファッテン伯領に退却し、態勢を立て直すべきです」
「逃げろってのかよ。ファッテン伯領に下がったところで、三万五〇〇〇とトローフェイルの兵力以上の兵を集めることはできないぞ」
ウィンの家臣のヴァル・アークラスム・ドミティアエンがかみついた。
「ならばさらに下がるまでのこと。貴公が言う通り、敵軍の兵力に拮抗できるだけの兵を集めねばどうすることもできぬ」
言い争うオルロンデムとアークラスムをしばらく眺めていたフォロブロンは、「ニークリット公国軍の動きが気になる」とつぶやいた。
「ニークリット公の目的は何だ。ナインバッフ公に含むところでもあったのか」
「とおっしゃいますと?」
フォロブロンの家臣のヴァル・ウレスペイル・ロローエドンが主君の顔をのぞき込んだ。
「つまり、ニークリット公の動きを止めるのが先なのではないかということだ」
「ああ……」
レンテレテスが顔をしかめた。フォロブロンが言わんとしていることを理解したのだ。ニークリット公の目的……いや「目的地」が問題なのだ。




