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居眠り伯と万能の天才公爵  作者: 中里勇史
二つの戦線

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28/43

蜘蛛の巣

「そなたのおかげで陛下をお止めすることができた」

 エルエンゾはウリセファの美しい裸体を抱き寄せて満足そうに笑った。

「お役に立てたようで、うれしゅうございます。エルエンゾ様」

 計算外の事態もいろいろと生じているが、今のところウリセファが望む方向に推移している。ウリセファは、込み上げる笑いを押さえ込んでエルエンゾに甘えるしぐさをしてやった。


 せっかく生じた戦乱だ。帝国の男どもを一人でも多く殺すためにできるだけ長引かせてやる。皇帝親征で簡単に片付けられては面白くない。だから、皇帝が自ら出陣すると言い出した場合の方策をエルエンゾに前もって与えておいた。

 もちろん、ウリセファはロレンフスの性格など知らない。軍事のことも分からない。だが、皇帝が自ら諸侯を倒すというのはいかがなものか、皇帝が出てきたら先に出陣していた者たちは不満に思うのではないか、などという理由を適当に並べておいた。後はエルエンゾが勝手に理屈を貼り付けてさえずるだろう。

 代わりに皇帝の近親者、仲の良い兄弟を出陣させるべきだとも吹き込んでおいた。皇帝もこの考えは気に入るだろう。

 これで、皇帝の周りから頼れる人間がますます居なくなる。エルエンゾの話を整理すると、軍事面の幕僚であるアレス副伯(フォロブロン)、大公時代からの家老であるダウポロス副伯(テルメソーン)プルテワイト副伯(フィーンゾル)が前哨拠点で前線を指揮するために帝都を離れた。「帝国の前哨拠点を戦地の近くに設けるべきである」ことも、ウリセファがそれとなくエルエンゾに吹き込んだ考えである。そして今度は兄弟の一人、ムルラウが出陣する。

 ムルラウが勝ったならそれもよし。場合によっては力を肥大化させて皇帝とかみ合わせてもいい。敗死したとしても、それはロレンフスの精神を揺さぶることになるだろう。


 これでロレンフスの近臣はエルエンゾとゼルクロトファくらいになった。最も遠ざけるべき皇妃については、ロレンフスが勝手に距離を置いているらしい。実に好都合だ。

 ロレンフスはますますエルエンゾに依存するようになっていった。それは、ウリセファが皇帝を操りやすくなることを意味した。

 後は、あの監察使だ。

 だが、今は手出しのしようがない。事態の変化を待つしかない。ムルラウの出陣が何かのきっかけになるかもしれない。

 焦る必要はない。戦乱が続いている限り、足をすくう機会は必ず訪れる。そのときにまた、成功しても失敗しても好ましい状況になる策を考えればよい。

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