メルテモルト攻囲
グデナーメルトを地獄に変えたニークリット公国軍は、グデナーメルトの二〇キメル南にあるメルテモルトを包囲していた。開城を呼び掛けたが、城門を固く閉ざしたままで返答はなかった。
「グデナーメルトの二の舞は回避したいと考えると思ったのだがな。グデナーメルトがどうなったのか、知らないのだろうか」
ソルドマイエ二世は、不思議そうにメルテモルトを眺めた。
セルツァマイエは心の中で舌打ちした。グデナーメルトからの脱出者はそれなりにいたはずだ。
そもそもニークリット公国軍はそれを一切防いでいなかったのだから。脱出を許してやれと命じたわけではない。単に、略奪に忙しくて脱出者など気にもとめていなかっただけのことだ。要は軍律がグダグダなのだ。
メルテモルトは確かに二の舞は避けたいと思っただろう。だが、あんな蛮行を許したニークリット公を信用したりはすまい。「抵抗せずに開城すれば安全を保証する」だと? 自分がメルテモルトの当局者なら絶対に信用しない。公爵は、なぜ信用されると思ったのだ?
セルツァマイエは暗い顔で押し黙っていた。対照的なのはエルレゾンドだった。
「抵抗するならグデナーメルトと同じ目に遭わせてやるまでのこと。傭兵たちの士気も上がることだろう」
自ら蛮行に参加して、グデナーメルトで随分と「楽しい思い」をしたらしいエルレゾンドは、豪快に笑った。セルツァマイエは、嫌悪感を表情に出さないようにするために全神経を顔に集中させた。そのため、ソルドマイエ二世への注意が疎かになった。
ソルドマイエ二世は、セルツァマイエとエルレゾンドの様子を不可解なものでも見るような目で眺めていた。
ソルドマイエ二世の天幕から出たセルツァマイエは、本陣から少し離れた場所で深く息を吸い込んだ。エルレゾンドらの下種どもと同じ空気を吸うことに耐えられなかったのだ。あの天幕にあのまま居たら体の中から腐ってしまいそうに思われた。
「私は一体何がしたいんだ……」
セルツァマイエは頭をかきむしって天を仰いだ。
セルツァマイエは、自身をさほど評価していない。何をやっても凡庸だった。無能ではないが、有能でもない。
略奪に強い嫌悪感を抱いているが、だからといって高潔な訳でもない。本当に高潔な精神を持っていたならば、あらゆる手段を講じてグデナーメルトの略奪を阻止しただろう。自分一人では力及ばずということであれば、出奔すればよいのだ。実際、ニークリット公国の多くの貴族たちは皇帝に弓引くことを拒否してソルドマイエ二世の参戦要求を黙殺した。彼らは別に帝国に忠誠を誓ったわけではなく単に怖じ気づいただけではあるが、とにかく参陣しなかったのだ。
それに引き換え、セルツァマイエはサテルメーン領主として兵を率いて参陣し、ソルドマイエ二世の側近として軍務を遂行している。遂行しつつ、嫌悪感を抱いている。中途半端だ。
改めてメルテモルトを眺めた。開城要求をのまなかった以上、グデナーメルトと同じく略奪は免れない。自分にはそれを止めることができない。
セルツァマイエは、その場にうずくまって胃の中のものを吐き出した。




