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居眠り伯と万能の天才公爵  作者: 中里勇史
ニークリット公国軍

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15/16

城壁と投射機

 ニークリット公国から運搬してきた投射機の組み立てに、丸一日かかった。

 ソルドマイエ二世はその間、公爵用の豪奢な天幕で眠っていた。やることがないのである。

 愛情もなければ自分より美しくもない女を侍らせても仕方がないし、楽士が奏でる音楽は自分の演奏に劣った。だからといって、自分で楽器を手にする気にはなれなかった。どんな音色が出るのかは分かりきっている。それならば演奏するまでもない。書物には、自明なことしか書かれていなかった。ソルドマイエ二世には、寝る以外に時間を潰す手段がほとんどないのである。


 攻撃準備が完了したとセルツァマイエが報告すると、ソルドマイエ二世は大儀そうに起き上がった。

「もう日没ではないか。今からでは着弾点の観測もできまい。攻撃開始は明日の日の出直後とする」

「御意」

 そのとき、品のない笑い声や叫び声が聞こえた。ニークリット公国軍を構成する傭兵たちが酒を飲んで興じているのだろう。ナインバッフ・グライスに侵攻することを拒否する領主が続出したため、傭兵でその穴を埋めたのである。

 ソルドマイエ二世は彼らの声にあからさまに不快感を示した。

「品性が感じられんな。耳障りだ。ヤツらの宿営地をもっと遠くに移動させろ」

「御意」

 セルツァマイエは軽く一礼すると、公爵の天幕から早々に辞去した。


 夜明けとともに、投射機の試射が始まった。直径〇・五メルほどの石が打ち出され、放物線を描いてグデナーメルトの城壁の手前に落下した。

 その着弾点を基に重りを調整して、再び試射する。まだ飛距離が足りない。

 三射目の準備中にソルドマイエ二世が現れた。

「まだ城壁に当てることもできんのか」

 ソルドマイエ二世は投射台に乗せられた石と重り、城壁を一瞥して「重りを三〇キガル増やせ。それから右に二度」と命じて本陣にしつらえられた椅子に座った。

 三射目は、城壁の基部に命中した。

「そこだ。そこに攻撃を集中させろ」


 だが、投射する石の大きさは一様ではなく、そのために着弾点は一定しなかった。もちろんそれを前提にして投射機の重りを調整する必要があるのだが、それには重りと投射物の重さを正確に量らなければならない。それが難しい。石の形もいびつだから、これも飛距離と角度に影響する。

 四射目、五射目は目標から大幅にそれた場所に着弾した。

「石の重さを一定にしろ。それで重りの調整は不要になる。後はお前たちで工夫しろ」

 ソルドマイエ二世はそう言い残すと、どこかに行ってしまった。

 彼の示唆で、セルツァマイエはようやくやるべきことが分かった。

「両側に石を載せられる天秤を作れ。支柱は丸太でいい」


 太陽が三〇度ほど移動した頃、天秤が完成した。適当な石を片側に載せて、それと釣り合いそうな石をもう一方に載せる。釣り合った石だけを投射機に載せる。こうして選別した石を使って二度試射を行い、三射目は再び目的の場所に命中させた。

 ただ、条件に合う石はあまりなかった。手頃な石がグデナーメルト近郊に転がっている訳ではない。投射機を扱う人員とその護衛二〇〇〇を除くニークリット公国軍全員が、ピスナー山麓で石を切り出している。運搬も含めて実に大掛かりな土木工事になっていた。

 近くにピスナー山があり、ピスナー山に良い岩場があったからいいが、石を手に入れることすら困難な場所もある。そんなところで投射機を使えと命じられたら……。セルツァマイエは暗澹たる気分になった。

 命中精度は上がってきたが、城壁が壊れる気配はなかった。

 そして二度目の日没を迎えた。

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