王者の行進
戦況が一変した。
その異様な光景を見て、フォロブロンやラゲルスらもようやくクーデル三世を発見した。
「クーデル王だ! 止めろ!」
フォロブロンは叫んで前に出ようとしたが、乱戦状態になった戦場では思うように近づけない。ラゲルスはフォロブロンよりもさらにクーデル三世に近かったが、敵兵に怯えた自軍の兵に押されて近づけない。
「てめえら、ビビッてんじゃねえ。敵の王様が逃げちまうぞ!」
ラゲルスは叫んだがどうにもならない。ヌヴァロークノ兵の狂気じみた突撃によって、気おされた皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍の歩兵に多大な損害が出始めていた。狩る側と狩られる側が入れ替わった。
たまたま戦場の最南端に居たレンテレテスが、中央突破に成功しつつあるクーデル三世を発見した。
「逃がすか!」
レンテレテスは麾下の騎兵たちと共に突撃したが、フローデレベンドとその麾下の歩兵たちに行く手を阻まれた。
「我が王のご前である。控えよ!」
「侵略者の分際で何を言うか!」
レンテレテスは腰から長剣を抜くと、フローデレベンドに打ちかかった。フローデレベンドも剣を抜いて応戦した。周りの兵も戦闘状態になっていた。
フローデレベンドは謀将としての側面が目立つが、幼い頃から武芸にも励み、王国でも一二を争う武勇の持ち主だった。
レンテレテスは意外な強敵に焦った。こうしている間にもクーデル三世は戦場を離脱してしまうかもしれない。その焦りが仇となり、フローデレベンドの剣がレンテレテスの兜の側面を強打した。
フローデレベンドも姿勢を崩しながらの打ち込みだったので致命傷にはならなかったが、レンテレテスは頭を揺らされて軽い脳震盪を引き起こした。落馬はしなかったが、視界がかすんでフローデレベンドがよく見えない。
「ここまでか……」
レンテレテスが覚悟を決めたとき、フローデレベンドが口から血を吐きながら落馬した。背中から胸に短槍が突き刺さっていた。
「ギリ、間に合いましたな」
ラゲルスががははと笑った。
「ここでレンテレテス卿を死なせたらニレロティス卿に叱られまさ」
「ラゲルス……助かった。王は、王はどうした」
ラゲルスはゆっくり首を振りながら南を見やった。
「王様は逃げちまいましたよ。俺らの負けです」
地面に倒れたフローデレベンドは、背筋を伸ばして進むクーデル三世の姿を薄れゆく視界の中に捉えた。誇り高き、見事な行進だった。
「そう、それでこそ我が王よ。敬愛してやまぬ偉大なる王よ。最後に、よき姿を拝することができた」
フローデレベンドは心の底から満足して、静かに目を閉じた。




