第二次ミラロール攻防戦 その四
「もう一度行くぞ」
フォロブロンは、東側から西側に薄く敵陣最後尾を剥いでいく経路をたどって突撃した。
騎兵による二度目の強襲を防ぎつつ北へと後退したヌヴァロークノ軍は、歩兵の一団を目にすることになった。
皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍の歩兵は、東西に広く横陣を形成してミラロールの南側を塞いで北上した。騎兵に撹乱されたヌヴァロークノ軍は浮き足立っており、皇帝軍の歩兵たちを迎撃する態勢が取れなかった。
ヌヴァロークノ軍の前衛は、ミラロールから降り注ぐ油と矢によって多大な犠牲を出し続けている。
皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍の歩兵は、じわじわと北上を続けてヌヴァロークノ軍に圧力をかけた。彼我の距離が五〇メル程度に接近すると、皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍の歩兵は長槍を前に突き出して走り出した。
ヌヴァロークノ軍は恐慌状態に陥った。だが、彼らの逃げ道は北側しかない。南側から逃げてくる味方に押されて、ヌヴァロークノ軍はミラロールの崖に向かって圧縮されていった。
彼らの足元は、まき散らされた油でぬかるんでいた。
ベルウェンは、そんな彼らを憐憫を帯びた眼でしばらく眺めると、ため息をついてから右手を掲げた。
「火矢用意!」
ミラロールに籠城していた歩兵たちが火矢を構えた。
「放て」
ベルウェンが右手を振り下ろすと、火矢が一斉に放たれた。それらはヌヴァロークノ兵や油でぬかるんだ地面に刺さった。
そして、辺りに炎が上がった。
南側からは皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍の歩兵が進撃を続け、長槍でヌヴァロークノ兵を串刺しにした。ヌヴァロークノ兵に刺さって長槍が使えなくなると、歩兵たちは剣を抜いて攻めかかった。
ヌヴァロークノ兵は、背中から一方的に切り倒されていった。味方に押された北側の兵は、炎の中に押し込まれていった。
この作戦を考えたウィンは、自己嫌悪に陥っていた。このような残虐な方法を使いたい訳ではないのだ。だが、ヌヴァロークノ軍に文句を言われる筋合いはない。ヌヴァロークノ軍は招かれた客ではないのだから。
フォロブロン、レンテレテス、ラゲルス、オルロンデムら指揮官級は「王を探せ!」と叫びながら戦場を駆け回った。この吐き気がする虐殺を終えるためには、ヌヴァロークノ王を捕らえるなり首を取るなりするしかない。
この戦いでヌヴァロークノ王国との戦争を終結させるためには、徹底的かつ決定的な勝利が必要だった。
「陛下だけでもお逃げください」
フローデレベンドはどこを見ているのか分からない斜視でクーデル三世を見つめた。
「まさか、我が王に限ってここで死ぬなどという惰弱なことをお考えではありますまいな?」
「フローデレベンド伯爵……」
「誇り高き我が王よ。屈辱に耐えて落ち延びられよ。どこかに居るバンナーボブゾン伯爵の兵と合流するのです。ポレンヌーゾン公爵もご健在です。陛下がいる限り、ヌヴァロークノ王国は戦えるのです」
「だが……」
「我が王よ。私が忠誠を誓ったヌヴァロークノ王は即断即決、果断の人であられる。成すべきことをなされよ。死にゆく私に、偉大な王の姿をお見せください」
クーデル三世は歯を食いしばって一瞬だけ目を閉じると、フローデレベンドの手を握って命じた。
「フローデレベンド伯爵に命じる。余が戦場を離脱するまで余の盾となれ! 汝に『王の盾』の称号を与える。行け!」
フローデレベンドは満足そうにほほ笑むと、周囲の兵に命じた。
「我は『王の盾』である! 我に従う者にも『王の盾』の称号を分け与える。王を守護する名誉を欲する者は我に続け!」
ヌヴァロークノ軍の中央部から、にわかに雄叫びが湧き上がった。彼らはヌヴァロークノ語で何やらわめきながら、南に向かって突き進み始めた。敵の剣を自分の身体で受け止め、切り刻まれながら前に進んだ。剣を振り回し、目に映る者全てに狂ったように襲いかかり、血路を開いた。
その中を、クーデル三世は進んだ。傲然と背筋を伸ばし、式典の行進であるかのように誇り高く進んだ。
ヌヴァロークノ兵たちの死をものともしない前進に、皇帝軍らは恐怖を覚えて後ずさった。




