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-10.〔聖女の今際と赤髪の暴君そして希望への無理難題〕

≪注意書き≫

 本話は主に普段参考として使っているAIツールの色を濃くし構成しています。


 敢えてそうする理由として、作中の登場人物が異なる人格、存在として表れているのを全体的に強く表現したかったからです。


 ここまでの話をご覧いただいた方の中には「あれ? 急に情景描写の質が変わった」と思われて本文に集中できない方がいらっしゃるかと存じます。ので。


 事前に説明文を添えさせていただきます。


 どうか、お楽しみいただければ、幸いです。

 







 魔法使いは引き続き、聖女をそっちのけで物憂いそうに空き瓶を見つめている。


 事情を知らずに急かすつもりは本来ならばない。が、さすがに状況が状況だけに――。


「――、……何かするつもりなら、さっさとやりなさいよ。じゃないと」


 本人が無事でも、時すでに遅し。が直ぐそこまで迫っている。


「分かるかのー、分からぬだろうなァ、ワシの気持ち」


 当たり前のコトだが、気持ちとは言葉にしなければ伝わらない。


「分かる訳ないでしょ……」


 というか分かりたくもない。


「ふむ。小娘よ、オマエは昨日の夕飯に何を食べたのか、覚えておるか?」


「なによ急に……、それくらいなら分かるわよ」


「では千年前はどうじゃ?」


「そもそもそんなに生きてないわよ」


 前世の分を足したって、五十にすら届かない。


「うむ、人の身では数年前の事すらも確かにはならぬ。十年いや百年、千年ともなればもはや人格すらも異なる者となろう」


「……で、何が言いたいのよ?」


「つまりはじゃ。ワシであってワシでない者を説き伏せる事が出来れば、あのミミズを、小娘の思惑通りに始末するコトができるやもしれぬ、――というコトじゃ」


「ぇ。本当に……?」


「さーの、それも含めて過去のワシに聞くがよい。――しからば」


「ェちょっと」






 魔法使いの指が徐に中身のない空っぽの瓶の蓋を抜く。


 すると瓶の口から、これまで無かった光が――銀色の光の糸となり魔法使いの目や耳から記憶を引きずり出して渦を巻き、瓶の中へと凝縮されていく。


 1000年間の記憶が抜ける度に、その瞳から僅かに感じられていた“理知”が消え、代わりに獲物を狙う獣のような“鋭さ”が宿り始める。


 それを直感的に身に受けた聖女は無意識に唾を呑む事を強いられて、前回の事を思い返す。しかし同様にソレが瓦解するコトはなかった。


 抜けるような銀髪が、毛先からじわじわと、あるいは内側から燃え上がるように鮮烈な赤に染まっていく。


 次いで穏やかだった眉根が険しく吊り上がり、唇の端には“ぶち壊してやる”と言わんばかりの不遜な、笑みが浮かぶ。


 状況の終息、魔法使いの象徴だった“とんがり帽子”が飛び、マントの留め具が力の余波で弾けて落ちる。杖は地面にカランと転がり、その音でこれまでの“賢者”との分別を比喩とした……。






 ――魔法使いの精神が千年前に戻る。


 ケダモノのように燃えて見える瞳は赤。その目が彼の足元に転がっている蓋の付いている中が光る瓶を見つけて、自分の大切な記憶とは微塵も思わぬ目障りなガラクタとし、踏み砕こうと、足を上げる――。


「待って!」


 ――足を止め、獣がゆっくりと首を巡らせる。


 その瞳に宿るのは、かつての穏やかな理知ではない。獲物の急所を無意識に探るような、剥き出しの殺気と、退屈さ。聖女に向けられたのは、そんな内面が老人だった者の面影すら無い、ただの“動く物体”を見る情のない視線だった。


「あ? ……誰だオマエ?」


 低く、地を這うように威圧感のある声。


 これまでの図々しくもどこか愛嬌のあった老人の響きは消え、暴力的に若さが充満している。それだけで、聖女の指先は再度鳴らす喉と共にひとたび震えた。


 ――それでも。


「……たぶんそれ、大事な物よ。壊さないほうがいいと思うわ……」


 獣の瞳その上でピクリと眉が跳ね上がる。


 すると獣は鼻で笑った後、勢いよく足を振り下ろし、瓶の数センチ横、硬い地面を爆ぜるような音を立てて陥没させ。その衝撃波は聖女の頬を砂礫で掠める。


 いずれにせよ、彼の瓶に対する興味はソレで終わり。他に移す関心は倒れている女のすぐそばまで、影を落とす距離に詰め寄ってから――。


「――今、オレに命令したか? 女」


 その言葉は喉を鳴らしているかのごとく、聞こえた。


 現に瞳はボロボロの聖女を舐めまわす様に見ている。


 と次の瞬間、彼は倒れ伏す聖女の髪に顔を近づけてそのまま鼻先を首筋へ、嗅ぎながらになぞる。予想外の方向へと撫でられた少女は口からヒャッと声を出し、逃げ場を塞ぐように地面に突かれた腕を見て、――生理的な戦慄が走る。


「待っ待って、――何してるのッ」


「ナンだ? まだ男を知らないのか?」


 ソレは前世だったら。でも今回はまだ。


 ――そうじゃなくて。


「待って違う、そうじゃなくて、どういう状況か分かってるのッ? っ」


「なんだ気分を欲しているのか? それならば諦めろ。ここが何処かは知らんが、猛りを抑えるのに女を使って満たすのが、男のサガだ」


「ぇそんな……ヒャっ、待っ、て、――ッ!」


「……、女、オマエ何故そんな淫らな装いをしている? 娼婦か?」


「な訳ないでしょ! 私は、……聖女よ」


「聖女? ああ、女神が集めた食用の女共だな。で、そこから逃げて来たのか?」


 ……食用?


「まあいい、どのみちオレには関係のねェ話だ。見た目的にはまだガキだが、穴としての機能は十分に育っているだろ? それで十分だ」


「ちょ、ナン、――ぇ」


「あん?」


 地響きのような音に、聖女の首筋で這わせていた鼻先が離れる。


 直後、世界は真っ黒に塗り潰された。


 上空、暗黒神の顎から放たれた漆黒の熱線。ソレが街を覆う不可視の護りに衝突したのだ。次いで視神経を焼くような極彩色の波紋が街の上で何重にも広がり空を埋め尽くす。


 キィィィィィィン、と鼓膜を劈く高周波の響き。街の住民だけではない、落下の衝撃で出来た穴の底に居る二人の影も地面に長く、濃く、明滅しながら伸びては消える。花火の様な端的な光の繰り返し、その末に――女神の功績は、破壊される。


  ▽


 先刻の交戦、もとい稚気すらも生まれなかった老骨な争い。引き延ばす理由を見出せず、放った最後の一撃は思わぬ威力を発揮した聖歌の力で相殺された。


 暗黒神の損傷は無きに等しい。


 それまでの争いで準備運動の範囲を越え、今や万全となった龍の内部では世界をも焦がせる程の熱量が、蓄積されつつ。


 眼下の街、その中心部を目掛け狙いを定めて、――充填は完了する。


 そして放つ。直前、暗黒神の全細胞が逆流するような感覚に襲われる。


 ソレは龍の瞳が本能的に細まる、嫌悪と恐怖。されどその感受を神は知らない。


 古き時代においても知覚されなかった神の刻が麻痺する。


『……ッ』


 言葉を持たぬ神が当惑に喉を鳴らす。


 自らの意向を阻む本能、どれだけの時が流れたのかは定かではない。


 だが、――神の威光は絶対である。


『グォォォォォォォッ』


 数瞬の空白。龍は自らの躊躇を打ち消すように咆哮した。


 次いで理解できぬ感覚を塗り潰すため、最大出力、漆黒の熱線が放たれる。


  △


 白く焼き付いていた視界の端から、世界の色が染み出すように戻ってくる。


 真っ先に感じたのは、喉にへばりつく焼けた大気の熱さ。


 重い瞼を更に押し上げると、粉々に砕け散った女神の護りが役目を終えキラキラと光の塵となり、穴の底から見える空で舞っていた。


 ――女神の功績が、防護結界が壊された……!


 けれどもいくつかは不明瞭な部分もある。


 その内の一つ、結界の復活と強度に関しては聖女であるが故に直ぐ推測が立つ。


 前回の出来事から経過した時間、その間に再起をしたのだ。


 ただ結界の強度、これに付いては通常疑問が残る。が、それもまた聖女が所以。憶測にはなるが自然回復にしては早過ぎる結界の再起と相まって裏付けになる。


 想像として、――女神の残した結界は暗黒神の封印とは別に聖女達が定期で管理をしている。それは鐘を鳴らす封印とは違い、ただ正常に起動しているのかを確認するだけの、巡回業務みたいなものだ。


 通常は其処に手を加えることはしない。


 何かが原因で結界そのものが損傷しても、基本的に自動で修復される。


 私達聖女の巡回はそうした機能の巡礼とし行われ。


 そして万が一にも備えて、聖女は聖歌を習得している。


 女神の功績、その殆どは聖歌により一時的な促進・強化が可能――。


「何だ? 今のは……」


 ――恐らく、いや絶対に口にはしたくない、一つの解釈が聖女にはある。


「ぁ? 空にデカいミミズがいるな……。女、アレは何だ?」


 今朝の騒動で、本来であれば各々の仕事を担う聖女が何処か一箇所に集まっていた。暗黒神の復活と、余儀なくされた結界の再起動。そして一時的な促進・強化は、この国で仕える全ての聖女が聖歌で仰ぎ見た、失われる寸前の“今際”。


「――女ッッ! アレは何だと聞いているんだっ、次に返答が遅れるのならばその四肢をバラバラにし尚断面を焼いて生き長らせるぞ――ッ!」


 あまりに生々しい殺意の言葉と剥き出しの暴力。聖女の肩がビクリと跳ねる。


 肌をチリチリと焼く凶暴な熱視線。けれど逃げ場のない穴の底で、彼女の心に灯ったのは“諦め”ではなく震える指先でボロボロになった法衣の裾を握り締める“今際の希望”。


 見上げた瞳は澄んだ青色で、千年前へと独自の方法でタイムリープしている魔法使いの赤を真っ直ぐに射抜く。


「――ぁ?」


「……アレは暗黒神。貴方が知らない、世界の畏れ、そして聖女が封じてきた絶望の象徴そのモノよ」


「暗黒神? 絶望の象徴だと……?」


 心はまだ微かに震えている。それでも、目の前に居る最悪の希望を頼る他ない聖女は凛とした強さを見せる眼差しで――押し返す。


「……先に言っておくけど、今は脅しても屈しないわ。だって今、私を殺そうとしているのは貴方じゃなく、空高く天をも統べる神様だもの。貴方も見たでしょ……? 女神の護りはたった一撃でさっき破壊された。……もう助かる見込みはないのよ、私も、貴方も、ね」


「――ア?」

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