マルドゥクの導きのままに
本来二章に予定していた内容がいざ書くとなるとあまりにも情報が多すぎて、最初は二月中旬に完成して投稿する予定だったがここからがもっと長くなったのでいったんここで一区切りとし、残りの半分内容は三章に持ち越します。
古代バビロンの物や文化について触れるため、後書きに少し註釈を残します。
作品に対するご意見、質問などがあればいつでもレビューやコメントもしくはTwitterにご連絡ください。
その街…いや、その都市に近づけば近づくほど、ブラヴァーセたちはその規模に驚嘆していく。
遠くからだと河が流れる沿岸に展開していくただの街に見えたが、その城壁の足元に接近していくうちに、「豪壮」という言葉に対しての理解が勝手に深まっていった。
この辺にこれ程の川幅を有するのは無論、かの名高きフラト川でしか非ず。ギリシャ人どもはそれを「エウプラテス川」と呼んでた。そして二重となる高くそびえる城壁に囲まれ、まるで大地から切り抜かれた四角形を河川が裁断したようなこの景色。
バビロン。
フラト川に留めている数々の宝石の中でもっとも美しい一粒。
こんな輝きはこの世のどこを探しても類を見ない。
ここは紛れもなく、詩人たちが夜な夜な文飾を紡いで口にした、あの神の門だ。
多くの国々を遊歴してきた一行ですら、この壮麗さを前にしては言葉をなくせざるを得なかった。
巍然たる見張り塔は城門を出入りする全てを見下ろし、威厳を放つ。
それを見た人は心に敬慕の念すら生じる程に。
「何か面倒事を起こしたらこりゃ生きて出れないねぇ」
「それはそれは、ワタクシみたいな誠実な商人には無縁な話ですなー。さて参りましょうか、我が清淑な妻たち。」
ブラヴァーセは口ひげを指で何度も摩り、また整えるようにその先端を伸ばしてちゃんと頭巾の下に隠した。
彼らが辿り着いたのは南西の城門だった。門の上には太陽神シャマシュを讃える祈祷文が刻まれている。
詩人たちの歌によるとバビロン城には七つの城門があり、北東側には人工で掘った支流や水路による畑と生活施設が点在する。せっかく来たから是非一目拝みたかったが、今一番肝心なのは戦利品をできるだけ早く売りさばくことだ。いつまでも三人で倍以上の馬を連れてパカパカ歩くわけにもいかない。
幸い、この城門の外には厩と簡易的な宿がある。
ブラヴァーセは口八丁で厩の主人を言いくるめて、盗賊たちの馬を買ってもらうことに漕ぎ着けた。馬の対価として、ハルペからの商人「シャレヴァ」とその2名の妻は、隣の宿に1週間泊まる権利を得た。1日に夕食の1食つき、もちろん共に盗賊から逃げてきた一行の愛馬もその間面倒を見てもらえる。
ここに来る途中ついでに拾った親玉の馬は他のやつよりも体つきがよく、もっといい条件を出してもらえると思ったのだろうか、商談中にハヌシスはずっと夫の袖を引っ張ったり目をチラチラさせたりした。だが厩の主人も伊達にこれで食ってきたわけじゃなかった。それに何も言わずに買い取ってくれるという点から考えればこれくらいの譲歩は差し支えないとブラヴァーセは判断した。
残りの文句は飯食ったら自然消滅するだろうと踏んだブラヴァーセは妻の小さな抗議を押し切り、この合意を記した蝋板にしっかり「シャレヴァ」と署名した。
「隣の宿ですよね?ついでにその蝋板も持っていきます?」
「いや、それはこっちで保管する。そちらさんは直接向かって商談の成立を伝えればいい。何か改竄されたらかなわないからね。」
この抜け目のない厩のおっさんは自分の兄であると、宿の主人から聞き出したのはその後だった。
もちろん、聴けたのはそれだけじゃなかった。
人が集まれば噂は流れるもんだ。宿場はいつの時代でも情報の宝庫である。
他の下宿人、休憩に立ち寄った労働者や奴隷、ひいては宿の主人にまで、持ってきた酒を分けて飲ませてくっちゃべって、酒の溜まりに自分の見聞を一つ投げ入れれば、噂話やこの近辺の動向は壁に当たった波紋のように弾きかえって寄せて来る。酒はこうも有益な物、普段喋ろうとしない事ですら人の口から聴けてしまう。
たとえ何か言っては悪いことがあっても、ブラヴァーセはすぐに茶化し、皆の注意力を引き離したりもした。
そこでこのバビロン城について、詩人たちの歌じゃ知り得ようのない現状を知った。
バビロンはここ数年、首都ニヌエとの開戦に備えている。
理由は兄弟の反目である。
ここバビロニアを治めているのはウキン王、シャマシュシュムーキン。名は「太陽神シャマシュの後継者」を意味する。
今日ブラヴァーセたちが辿り着いたこの門が讃えているのはまさに「太陽神シャマシュ」。その栄光を浴びて産まれたウキン王は、現アッシリア帝国の統治者「アッシュルバニハバ」大王の兄である。
前代大王が王位継承者を指定する際、アッシリアとバビロニアを分けて二人に統治させたのが争いの発端となった。
首都ニヌエが座するアッシリア地区を治めるバニハバが実質上の大王となり、年上であるウキン王はこの前例のない分割継承をどう見るかは言わずとも知れた。二人がそれぞれの王位を受け継いでから十五年余り、関係は日に日に悪化の一途を辿った。
南のアラブ民族がここ十年しょっちゅう小規模な反乱を起こしているのは、裏にウキン王が糸を引いて煽動してるではないかって噂も巷で徐々に広がり、恐らく首都のお偉いさんの耳にもとうに入ってるのだろう。反乱の平定を名目にいつ大軍を遣わして来るかもおかしくないこの緊張状態を鑑みて、ただでさえ人前に出たがらないウキン王はさらに引きこもることを決め込んだ。
もっとも、公衆の前に出ない理由は弟勢力の暗殺から身を守るためだけじゃないという説も。何分首都との関係悪化より前に、王宮内でも不幸が起きた。
それが王妃の死。
話によるとウキン王はとてつもなく一途で、今じゃ無き王妃だが、その生前にも死後にも他に妻どころか妾の一人も取らなかった。当の王妃は元から体が弱く、その原因もあって二人はずっと子宝に恵まれなかったという。
バビロニアの王として即位した直後、首都から遥々一緒に越して来た妻の躰を案じ、王は足を労せずに美景で心を癒せる場を設けるため新たな宮殿の建造を命令した。
その宮殿は一部の特徴によって、のちに詩人たちからそう呼ばれた。
〈空中の庭園〉。
バビロンの美しさを謳う詩人ならば決まって唄にその庭園への賛美を挟む。そのせいで今回初めてここを訪れた一行ですら、それの建造について少しは知っている。
それらの唄によると、宮殿は八角形の人工池の上に建てられている。
その『池』はフラト川が乾期を迎えても地下水を生活用水として汲めるようにするために、東のクルという国から雇った大工らの手によって作られた大きな「階段井戸」。
壁に沿い地下深くまで伸びていく対称的な二本の階段とか規則的な図形が描き出した様式美とか、詩人らはそれを褒める言葉を惜しまなかったが、沈んでたら見ようがない。
それより一体どんな方法を使ってそんな空洞の上に宮殿を建てたのか、逆にそこには関心を寄せなかった。ただ「フラト川から水路を引き、その井戸を含む辺り一帯を満たした」と伝わっている。
水の上に浮かぶ宮殿、そして宮殿の上に乗る庭園。
肝心の庭園はよく首都の『無比の宮殿』と比べられる。
後者は先々代のセンナケリブ大王がニヌエに奠都し、都市としての機能を改造する時に建造させた巨大な王宮。そこにも花園はある。しかも敷地の面積に相応しい大きさを持っている。だが詩人たちの着目点は広さではなかった。バビロンの庭園には階段と土台で積み上げた人工の丘と、周りから汲んだ水をどんな所でも満遍なく行き届かせる複雑な灌漑設備が機能している。
「一見不可能な偉業」、彼らは容易くそこに傾倒する。
そして新宮殿の建造が始まって二年後、ウキン王と妃の間にもようやく子ができた。女の子だった。
もっとも宮殿が竣工したのはその子が4歳の時。更に一年後、王妃は病に命を奪われた。
あの時以来、王は一歩も外へ出なくなった。姫のエリウテミスと共にずっとあの宮殿内で生活しているそうだ。
「初めてバビロン城に来たから是非とも伝説の庭園を妻たちに見せてやりたい」と、ブラヴァーセは王宮に近づく方法を聞いてみたが、宿にいた地元民は揃ってやめるようにと諭した。
どうやら宮殿が浮いてある池の水辺までも近づいてはダメらしい。
「それもそうよね。そもそも王宮だし。」
「この際例え帝国の大王が来ても通してくれねぇだろうよ、さっき聞いた話だと」
食事を終え、ハルペの商人「シャレヴァ」は妻たちと街を散策したいと言って、宿を出た。シャマシュ門の検閲を越え、神廟が群立する西側の街道を通り、現在二人を連れて川辺に来ている。
太陽が沈む西岸から延びた影は川面に落とされ、ここから遠望できる東側の建物まで鈍色の紗がかかったみたいだ。
もう日が暮れるっていうのに、行き来する円形船はまだ沢山ある。それがここの繁栄はフラト川によってもたらされたという一番の証拠。
さっきまで宮殿に入る方法を考えなきゃとか言っていたハヌシスだが、気が付けば「信じられない」と言わんばかりな表情で通過する円形船をガン見している。無理もない。千年前から立派な大船でナイル川を上り下りするエジプト人にとって実に奇妙な形に見えたのだろう。
こういう丸い舟は柳の枝を入れ物かごと同じ要領で組み、船底に藁を敷き、表面に革を重ねて縫い付けて出来ている。この地域では一般的な水上乗り物だ。そもそも『クップ』というのは『かご』の意味で、呼び名を同じ作りの舟に流用しただけだった。最低二人の漕ぎ手でもいれば動かせられる。小さいものなら酒や食料品などの貨物、大きいものは何十の人もロバなどの家畜も乗せられる。
「こんな船よく漕げるものだな」とか言いそう、ブラヴァーセは妻の顔を見ながらそう思った。
「こんな船…よく漕げたな!」
ほらやっぱりと、つい失笑したブラヴァーセ。
「?」
理解できずに疑問の視線を向けたハヌシスと、何となく想像がついて苦笑するイシティーシアだった。
「見た目通りに作りやすくて、そして見た目より頑丈でいっぱい運べるからな。水流が強かったら回っちゃう可能性もあるけど、水夫たちも伊達にやっているわけじゃない。」
詮索されたくないブラヴァーセはすぐ説明に転じた。
「ックゥゥフフフフやっぱ回るんだッフフフフフ」
ハヌシスはどうしても回る円形船を想像せずにいられなかったらしい。
それにつられてイシテまで口角を上げて少し歪ませた。
「じゃせっかくだ。回されに行こうか!」
ブラヴァーセは言いながら船着き場にスタスタ歩いて行った。
一刻後には渡し船に乗り、波に揺れる三人。いざ乗ってみると、確かに安定感はある。もっとも、それも水夫の腕によるだろう。
「庭園は見れないけど、闘技場ならもうすぐ開放するって宿の人たち言ってたね」
そしてイシテは話を本題に戻した。
「明後日だっけ?」
「あ~、そんなところか…」
ブラヴァーセは興味なさげに答えた。「血生臭いのは好きじゃないから…」
そして困る表情を二人に見せた。
「うっ…まさか見に行くとは言うまいな?」
「あったり前よぉっ…!って言いたい所だが、ただ見るだけならつまんないじゃん。もっと、こう……見る側に刺激を与える何かを取り込まないと…」
またハヌセが何か恐ろしいことを口走ってると、イシテはブラヴァーセと同時に呆れた表情を浮かばせながらやれやれと嘆いた。
「…だから勝利者が誰なのか賭けさせるってのはどうだ?」
欲に目がくらんだ妻その一は勝手に話を展開させ、まだまだこのバビロンを自分の業火で焼き尽くしたいばかりだが、ブラヴァーセはその腰を折る。
「でも肝心なのはそこじゃないんだ」
うんうんと頷くイシティーシア。
思考が途切れたハヌシスは困惑の視線を二人に向ける。
「気になったのは、闘技場じゃなくてその元優勝者の方。」
宿の人たちが言うに、その闘技場はバビロン城復興の一環として先代の大王から許可を得て開かれてから、毎年二回やる恒例になった。近年首都との関係が緊迫して廃止を危惧する人もいたが、それでも王は取り止めさせなかった。
もうここで暮らす人たちにとっては重要な娯楽催事になってきている。
毎回近辺から流浪民や奴隷、ならず者、腕に自信のあるやつらをかき集め、混戦や連戦方式で闘わせる。参加者の人数によっては試合方式も変わり、時には捕まえた猛獣や兵隊からの志願者を投入することもあった。
行事の特性上観戦者は大体男性で、しかも女性が観戦するには夫の同伴が必要だ。観戦したい人は観戦料金を払えば入場できる。国がその料金から定まった分を税金として徴収し、残りの一部は優勝者への賞金になる。
それだけじゃない。賞金以外に優勝者は欲しいものを一つ、できる限りの形で手に入れる権利を得る。例えば奴隷なら身請けの代金を支払ってもらい、自由民になれる。犯罪者なら刑罰を免除され、即時解放させてもらえる。
当然、生きた優勝者が出ない場合も多々あった。
だからこそ、そこには伝説が残った。
どんな戦闘や試合でも生き残って勝ち誇り、敵が人であろうと獣であろうとただひたすらに切り伏せてその血を浴び、五回も優勝した者がいた。
このバビロンに闘技場が開かれた以来最初で唯一の五連覇。
優勝者として君臨した時、賞金を手にしその男が願ったのはただ一つ。次への出場権だった。
男は勝利の後の更なる勝利を求め続けていた。
やがて五回目の勝利を得た時、彼は王家に見込まれた。次回の出場を放棄する代わりに、永世優勝者として名は闘技場の門に刻まれ、王宮へ招かれた。
男の名はカラフォンソ。
「マヒェラ」と呼ぶ長剣を振るい、七尺に及ぶ屈強な身体を持つ。
当時まだバビロン城に来て日も浅いウキン王には腕の立つ忠誠を誓ってくれる人が必要だったのだろう。巷の噂では近衛隊での隊長階級を約束されたとか。
「すごいっちゃすごいだけど、何せ伝説の人だからね…宮殿に行けないなら会うこともないと思う」
「わかった!あいつの名を騙って人から……っヴゥ!ううう!!」
イシテは急いでハヌセの口を手で塞いだ。まだ同乗者や水夫たちに冗談だと思われて済ませるうちに。
「おぉ~頼むからもう恐ろしいことは言わないでくれェ~~
普段君を家に閉じ込めてばっかりですまなんだぁ。
商売で各地を奔走するワタクシの身にもなってくれェよ~
闘技場はこっそり一人で見に行かないから!ちゃんと連れてくから、な!」
そしてブラヴァーセは機転を利かせ痴話げんかっぽくしてなんとか収めようとする。
「プハァッ!ハァアア、ウエエア、ハアア、フーハァ…」
東岸について、イシテはようやくその手を解いた。
二人はハヌシスが呼吸整うのを待つ。
「鼻まで塞いだのか?」「ごめんちょっと力んでたかも。」
「怖えええええ、女怖えぇ!」
ブラヴァーセは白目を剥く。
やがて同乗者たちがバラバラに去った後、三人は街道に繋ぐ石段を登る。
「……気になったのは五回目で得た賞品の方」
ブラヴァーセは話を続けた。
噂では当時カラフォンソは王宮への通行証として、使者から何かを授かったらしい。
「なんだったんだろう。誰もそれの中身見てないって話じゃなかった?」
イシテは傾げた頭を手で支えた。
「ああ。でもそれは実在するものってのは確かだ。そのカラフォンソに関係する所から探せば、当たるかもしれない。」
「なんだ、結局闘技場行くのか?!」
ハヌシスはまた興奮気味。
「………………いや遠慮するわ。さっきも言ったけっ」「じゃあたしが代わりに出ようか?しゅ・つ・じょ・う」
こいつ見たがるんじゃなくて殺したがってんのか……
「出させてもらえないじゃないの?観戦ですら男の同伴がいるのに」
「そもそも人目を引くようなことはおすすめしないね。これから何をやるにしても」
と言いながらブラヴァーセは二人にいったん待つように手を振り、街道沿いの露店に走って行った。
もう日は完全に沈んだが、まだ閉めきってない露店も幾つかある。ここら辺は夜に灯りを付けて営業する室内店舗もあるみたいだが、パッと見て大体娯楽施設。夜は冷えるし油が勿体ないし、露天商は皆この時間に片付けて帰るとしてる。
ブラヴァーセは懐から何かを取り出し、露天商と交渉する。多分盗賊から奪った砕けた宝石だろう。商談が成功し商人の手に渡った時、その小さな欠片は民家や店舗の窓から漏れ出る灯りを微かに反射していた。
そして袋に何かを詰め、ブラヴァーセは走って二人の元へ。
手渡されたのはナツメヤシだった。
何やら店じまいする前の残りもんを多めに貰って来たらしい。
「どうせ買い叩いただろう」と、ハヌセもイシテも思ったことを口にしなかった。
三人は生のナツメヤシをつまみながら更に東へ。
「さっき言ったこともよくよく考えると回りくどいよな」
「??」「んぁ?」
「カラフォンソや闘技場を調査するのって」
「あ、あああああ…うんうむ」
妻二人が果実を齧りながら軽く賛同する。
「直接潜り込めたらな…だからとりあえずこの方角に来てみた。」
突然立ち止まるブラヴァーセの視線の先に目をやると、家屋の背後に隠れようとも隠れられない巨大な建物の影があった。
ここが東の街道の終点。
目の前に通ってるのはどう見ても人工で開削された水路。
緩やかに流れる月の光が指し示す先は、湖と呼んでもいい程大きな池。
あの影は池の上に静かに居座り、まるで眠っているように真っ暗。
宮殿ってもっと綺羅びやかなものじゃなかったっけ?ブラヴァーセは一瞬自分の認識を疑った。
唯一微かな光が漏れてるのは、その一角に建つ塔の頂上からだけだった。
池の周辺には巡回する人影が見えるが、他に通行者はいない。
ここからはどうやら禁足地のようだ。
三人は近くの建物に寄り掛って周りを観察する。
さっきいた場所とはまるで二つの世界。
夜風が運ぶ食事の匂いや人の喧噪はここでピッタリ止め、この先を行くと濾過されたように消え、風の呻きだけが長々と残る。
ブラヴァーセは水の流れてくる方向を見た。
もし詩人たちの話を信じるのなら、このまま遡っていくとフラト川に出られるはずだ。
と、そんなこんなを考えているうちに、風が強まり、そして突然方向を変えた。
………………………………………………………
………………………………………??…
………………??????
いきなり何も見えなくなった。おまけに鼻のあたりが痒い。
「…ん?」「お?」
異変に気付く妻たちの声が笑いを帯びてきた。
ブラヴァーセは嫌そうな表情で、自分の顔を覆った何かを引き離した。
絹の一切れだった。
いや、ちゃんと形は整っている。
ブラヴァーセは灯りのついてる窓辺に近づき、それを観察する。
手巾だ。刺繍まで施してある。しかも生地からすると値段も馬鹿にならない。
表面の糸玉を見るに、裏に何か縫われてるみたい。
「塔の上に…」「マルダー…」
ハヌセとイシテが傍から物珍しそうに読み上げている。
これはメッセージだ。
雑に縫ってあるせいで少し崩れている所もあるが、アラム文字でこう綴られている。
「塔の上にマルドゥク神よ慈悲を」
後書き兼註釈:
1.落下の王国でチャンド・バオリを見た時にその美しさに惹かれた。もし「俺が考えた最強の引水工事」作るなら絶対に欲張りセットにしたいやつ。
2.クップという円形の船は形的にたらい舟にちょっと似ているため、イメージは難しくないと思う。クップ(quppu)というのはアッカド語で、アラビア語(quffa)を経由して現在クファー(kuphar)となってる。
ちなみにノアの箱舟のという物語の原型はバビロニア神話の英雄アトラハシス(Atra-Hasis)が作ったクファーだと推測されている。
3.ハルペとはアレッポのこと。
4.「ニヌエ」という呼び方は、できるだけ「ニネヴェ」をアッカド語Ninuaに寄せてます。
5.現在バビロンで一番有名な8番の門、北のイシュタル門だが、後のネブカドネザル2世に建造されたので、この時点ではまだ存在してません。
6.二人の王の名前に関して、
「シャマシュシュムーキン」、シャマシュ・シュム・ウキンの名前をちょっといじりました。同じく「アッシュルバニハバ」はアッシュルバニパルのアッカド語発音を少し弄ってます。どうせなら覚えやすい名前がいいなと思って(´>ω∂)
7.マヒェラ(μάχαιρα)はギリシャ語。英語だと「Makhaira」と書くが、Kは実は発音しない。ゲームのDDONやAC Odysseyでは「マクハエラ」と訳されている。




