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あなたが女になる前に

掲載日:2026/01/01

女になりたいTS娘の話です。

 性別転換病。

 体が異性のものに変化してしまうという奇病だ。

 誰がかかるかわからない非常に稀な病気で、他人に伝染ることはないし、遺伝で引き継がれるわけでもない、原因不明の病気だ。

 この病気には体が異性のものになる以外の症状はなく、後遺症もない。

 だが、性別を元に戻す方法は見つかっていない。

 戻った事例も確認されていない。

 よって、発病したら最期もう二度と元の性別に戻る事はできない病気だった。

 その性転換病に罹ったのが俺、割重錯(われがさねさく)だった。

 高校一年の四月の終わり、俺の体は突如高熱を出し激痛を訴え、それにより意識を失った。

 そして次に起きたらのは五月の終わり。

 その時には、俺は黒髪短髪巨乳顔そこそこの女になっていた。

 幸い、女になった俺を両親や家族は無事に受け入れてくれたし、元いた学校も保健室で着替えるなどの色々と条件付きで女子生徒として通う事を認めてくれた。

 俺には姉と妹がいたので、女の子としての振る舞いはなんとか一通り身につけた。

 だが、それだけでうまく行くほど簡単ではない。

 元男の女なんていう気持ち悪い存在なんて学校の皆は受け入れてくれないのではないか?

 ニセメス等といじめられ、学校を辞めた人も過去にいるという。

 そう思っていた。

 だが、そうはならなかった。

 佐葦綴華(さいつづか)が助けてくれたからだ。

 綴華は、黒い長髪に清楚な雰囲気を漂わせる、名実ともにお嬢様だ。

 綴華は俺が小学校の時の同級生で、中学では別だったが、高校になって同じ高校に進学していた。

 とはいっても倒れて起きるまで俺は綴華が同じ高校に通っていたという事は知らなかったのだけど。

 女になって初めて学校へ来た俺に、一番最初に話しかけてくれたのは綴華だった。

 綴華はこんな俺でも受け入れてくれただけでなく、色々と女子生徒に取り計らってくれて、俺が女子生徒の輪へ入れるようにしてくれたのだ。

 言ってしまうなら、今の俺があるのは綴華のおかげだ。

 この恩は、いつかしっかり返さなければならないと思う。

 綴華は、俺にとって今や大切な人になっている。

 そうしてなんとか平穏無事に? 高校生活を過ごして一年と少し。


 今は高校二年の七月の昼休み。

 定期テストも無事に終わり学校内で長期休暇前の平穏な時間が流れている最中だった。

「次どんなモンスターが実装されるのでしょうか?」(綴華のサラサラの黒髪いいなぁ。エロい)

「サソリみたいなモンスターが実装されるらしいよ」(萌花、うなじが最高。もっと見ていたい)

 二人の会話を聞きながら、俺は彼女たちの気になる所へ視線を投げていた。

 萌花はその視線に気づいた。

「錯から熱い視線を感じるー」

 しまった。

「あー、いやリボンとか似合いそうだなー? とか思ってただけで、ごめん」

 そういう話をしていると助け舟のように昼休み終了十分前を告げるチャイムが鳴った。

「次の時間体育でしたっけ。着替えませんと」

「んじゃ、俺保健室行ってくるから」

「錯って保健室で着替えてるよね?」

「まあ、こんな体でも元男だしな」

「みんな今更気にしないと思うけど?」

「それでも学校との約束だし」

 そう言って、俺は自分の体操服持ち、綴華達に手を振って保健室へ向かった。


「ふう、助かった」

 俺は誰もいない保健室で一息ついた。

 俺には悩みがあった。

「女子更衣室とか入れるかよ……刺激が強すぎるって」

 そう、なにを隠そう俺の心は相も変わらずしっかりと男なのだ。

 しかも年齢相応、思春期の。

 俺からすると女子更衣室など禁断の花園だ。

 そんな所に入れば綴華達女子に当然”そういう目”を向けてしまうだろう。

 特に、綴華には絶対にだ。

 それで、もし、俺の心が思春期男子だとバレたら……。

「えー? 錯って私達そんな目でみてたの?」

「キモいです。もう二度と近づかないで頂けますか?」

 こんな感じでクラスの女子達から完全に孤立するのが目に見えている。

 だからこそ、俺が平穏無事に高校生活を送る為には心の中の思春期男子を封印して女の子として過ごさなければならない。

 大丈夫。

 俺は女なのだ。

 その証拠に。

 目線を下げた先には、ブラジャーで支えられた深い谷間を持つ豊かな双丘があった。

 並大抵の女子が涙を流し、男子の視線をくぎ付けにする巨乳。

 だが、意外と指摘されないのは俺が着痩せするタイプだからだろう。

 心は男の俺だが、不思議と自分の体には欲情したり興奮したりはしない。

 いや、一応自慰する時は興奮するのだけど。

 まあ、男でも自分の棒擦って欲情するだろうが、自分の棒そのものに欲情する人は少ないだろうからそういうものなのだろう。

 そんな事を思いながら体操着に着替えるのだった。


 そんなこんなで放課後、綴華達と下校中の時の事。

 いつも通りおしゃべりをしながら下校している途中綴華が言った。

「そういえば皆さんに頼み事があるんです」

「頼み事? なんだ?」

「実はですね……」

 そう言いながら綴華は鞄からなにかを取り出した。

 取り出したのはチケットだった。

 チケットには琵麻海浜公園招待券と書いてあった。

「海浜公園、つまりビーチの招待チケットです。せっかく頂いた以上使ってしまいたいのです」

「うわすっごい。これ超人気のビーチじゃん」

 琵麻海浜公園はここから電車で一時間ほどかけて向かったところにある海浜公園だ。

 普通のビーチと違うのは近くの川から翡翠の原石が流れ着き、それが砂に混じってビーチが薄い緑に輝いて見えるらしい。

 そのためSNS映えなどで非常に人気のビーチなのだが、ビーチの環境保護のため、一シーズンでビーチに入れる人数が制限されている。

 後、結構入場料も高いらしい。

 そのため、行くのが難しいビーチだ。

「ちょっとしたプレゼントで頂きまして……」

 綴華は見た目通りのお嬢様なのだ。

 「ですけどこのチケット、今週の土曜日指定のチケットなんですよ。家族も用事があって皆行けないんです。それで、今週の土曜日に行くつもりなのですけど、一緒に行って頂けませんか?」

「うわー行きたい。けどごめんね。私その日親戚の結婚式に呼ばれてて」

 蒔花は言った。

「あら、めでたいですね。それは仕方ありません」

「ごめんね――行きたかったのに……」そう言って蒔花は顔に片手を当て何度も謝るような仕草をした。

「代わりに写真とか沢山撮ってきますね」

「うん、おねがーい」

「それで錯は一緒にどうですか?」

 俺に振られる。

 綴華と一緒にビーチ?

 綴華の想像の水着姿が頭によぎる。

 そ、そんな事、なったら……。

 男を抑えられるわけがない!

「え? 俺? 用事はないけど……」

 反射的に波風立てないように断ろうとする。

「けど? 駄目なんですか?」

「いやそういう理由では……」

「どうしても、駄目、ですか?」

 渋った態度に追い打ちをかけるように、目をそらした俺に綴華は目を合わせて言った。

 逡巡する。

 先程述べたように俺は女になってから綴華に色々と助けてもらったのだ。

 その綴華の頼みを断るというのも恩知らずではないか?

 無理難題ならともかく。

「いや、大丈夫だ。一緒にいくよ。むしろ行ってみたかった」

「本当ですか?ありがとうございます」

 綴華は嬉しそうに言った。

 大丈夫だ。

 俺は女だ。

 男を封印して、なんとか無事に過ごしてみせる!


 そんなこんなで両親からの許可を無事とれ今週の土曜日。

 電車に揺られて一時間。

 無事に琵麻海浜公園にたどり着いた。

 そして。

「どうでしたか?」

「うん。管理人さんに聞いてみたら普通に女子更衣室使えってさ……。俺が元男だってのも半信半疑ぽかったし」

「あらあら」

 元男の俺が女子更衣室入って良いものかと(そもそも俺が入りたくないので、別の場所が用意できないかと)思い、管理人さんに事情を話したが、管理人さんは「体が女なら女子更衣室を使ってくれ」との事だった。

 俺は学校では保健室で着替えていたし、それ以外の公衆の場では着替えたことがない。

 いやこうなるのがわかってたので、あえて公衆浴場やプール等に()()()()()()|と言うべきか。

 そもそも、相手は俺が元男だっていうのも信じてないみたいだし。

 まあ、性転換病なんて珍しすぎるからしかたないのだが。

「仕方ないから俺は水着に着替えず、ビーチへいくよ」

 いくら許可が出たとはいえ、女子更衣室に入るわけにはいかない。

 理由は、元男が入るなんて他の人にも悪いし、何より俺の思春期男子が持たない。

「泳がないんですか?」

 綴華は驚いたように目を開きながら、こっちをまじまじと見つめながら言った。

「え?」

「せっかくビーチまで来たのに泳がないんですか? ここ、水着でないと泳げませんよ?」

 正論。

 更に綴華は続ける。

「事情を知ってる人なんて、私くらいしかいらっしゃらないでしょうし、普通にしてれば女の子なので大丈夫ですよ。少なくとも私は平気ですし」

「でも、綴華だって俺と着替えるの嫌だろ?」

「へ? どうしてですか?」

 しまった、これは失言だった。

 失言に追撃するように綴華は続ける。

「もしかして私と着替えるのが嫌なのですか?」

 そしてとどめに。

「そこまで嫌なら、私も無理強いはしません。着替えられないならしかたないですね……せっかく一緒に泳げると思いましたのに……残念です……」

 流石にここまで言われて、意地を張るのも綴華に悪い。

 一瞬の間、思案する。

 普通にしてれば女の子……か。

 それもまあ、そうか。

 大丈夫、普通にしてればいいだけだ。

 「わかった……。女子更衣室で着替えるよ」

 俺は渋々言った。

「やりました。じゃあ、行きましょう」

 そう言って綴華は嬉しそうに俺の腕を掴んで、禁断の花園へと引っ張った。



 女子更衣室。

 俺からすれば禁足地だ。

 だが、俺の心配とは裏腹に、幸い中には誰も居なかった。

 まあ、綴華にあらかじめ確認してもらったのだが。

 チャンスだ。

 今のうちにさっさと着替えてしまおう。

 そう思いながら、俺は急いで着てきた服を脱ぐ。

 下着姿になった俺は、自分の水着を取り出した。

 去年、姉ちゃんに買ってもらった水着だ。

 いらないとは言ったのだけど、姉ちゃんは「女の子になった以上必要でしょ」と言って買って無理矢理渡されたものだ。

 まさか本当に役に立つ時が来るなんてね。

 俺の水着はビキニだ。

 色は黒。

 ホルターネック? とかいう奴らしい。

 早速着替える。

 着替えられているのは、昨日姉ちゃんから練習させられたからだ。

 姉ちゃんは「胸が大きいあんたにはこれがいい」と言っていたが、間違いなく胸のサイズが姉ちゃんに勝ってる俺へのあてつけだろう。

 ただ、姉ちゃんの勧めた通りこの水着は以外にも胸をしっかりと支えてくれるので快適だった。

 見た目と裏腹に溢れる感じも無い。

 谷間が強調される事に目をつぶればだけど……。

「へえ、ホルターネックのビキニなんですね」

 水着を着た俺は呼ばれた方を向いた。

「ああ、姉ちゃんにすす……?!」

 向いた方向にいた綴華は全裸だった。

 当然、一糸纏わぬ裸体。

 デッッッ。

 俺は目を両手で塞いだ。

 心臓が割れ鐘のように鳴り響く。

「ご、ご、ごごめん。ついうっかり!」

 綴華の裸体を見てしまった!

「えー? 何をですか?」

 綴華がすっとぼけたように聞く。

「裸見ちゃったから」

「錯になら大丈夫ですよ?」

 綴華はカラカラ笑いながら言った。

「とにかく。着替えるまであっち目を塞いであっち向いてるから終わったら教えてくれ」

「はーい。分かりました」

 俺は綴華の合図があるまで手で目隠しをして着替えを見ないようにした。

 それでも、さっきの光景が頭をよぎる。

 綴華の胸大きかったな。

 でかいんじゃないかとは思っていたけど。

 綴華と着替えた事なんてこれが初めてだったから気づかなかった。

 俺と同じかそれ以上ありそうな。

 まて、綴華が俺と同じようなビキニだったらどうしよう。

 その時俺の思春期男子を抑えられる気がしないぞ。

 いや、そもそも何を考えている。

 最悪だ。俺。

 普通の女の子はこんな事を考えない。

 俺は女、俺は女、俺は女……。

 もういいですよ、という綴華の声がするまで心臓が何回なったかわからなかった。

 恐る恐る綴華の方を向いた俺は、さっきのようなミスをしないように指の隙間から覗いた。

 綴華の水着は青色のラッシュガードだった。

 奇麗な黒髪はアップヘアで纏められていた。

 よし。これなら安心だな。

 目隠しをとる。

 先程見た綴華の胸は綺麗に隠さていた。

 考えてみれば、綴華は余り露出の高い服装を好まない。

 ラッシュガードを着るのは当然といえる。

「似合ってますか?」

「うん、すごく似合ってる」

「ありがとうございます」

「それじゃ、さっさとビーチにいこう」

 今は俺と綴華の二人だが、いつ人が来るかわからない。

 俺は着替えをロッカーにしまって、荷物をもって綴華と一緒にビーチへ向かった。


 青い海。

 それに負けない淡緑の彩度の高い砂浜。

 その砂浜は太陽の光を反射して輝いていた。

 ビーチたどり着いた俺たちの目の前に現れたのは絶景だった。

「素敵……」

 綴華はそれだけ言ってスマホを取り出して写真撮り始めた。

 俺も、綴華と同じように写真を撮った。

 そして少し経ち。

「錯、一緒に写真を撮りませんか?」

 と綴華が提案してきた。

「いいよ」

「それじゃ早速撮りますね」

 綴華は手早く自撮り棒をスマホくっつけ、俺と肩を組んだ。

 肩に、すべすべの感触。

 !

 いや、これは向こうが触れてきたわけだから。

「それじゃあ撮りますね。はいチーズ」

 そんな事は構わないかのように、カメラからは小さくカシャリと音がなった。

 撮った写真を見せる綴華。

 写真には、青い海と淡緑砂浜を背景に肩をくんでピースサインをとる、俺と綴華が映っていたいた。

「後でこの写真ちゃんと送りますね」

「ありがとう。楽しみだな」


 写真を撮った俺たちは砂浜の近くでパラソルを立て、下にシートを敷き、荷物を置いて簡単な拠点をつくった。

 その後すぐに、綴華は「海に入りましょう」と言いった。

 そして、今は波打ち際。

 綴華は海に入って膝まで浸かっている。

 冷たくて、気持ちいいなど言いなら。

 実際、入れば冷たいだろうなと、頭で熱い夏の日差しを受けながら思った。

 俺は波打ち際で海に入らず考え事をしていた。

 拠点をつくる時に周りを見て思った事についてだ。

 人がまばらなのだ。

 周りにいるのは二十メートル離れた所に子供三人連れた家族連れ。

 その他、同じく二十メートル付近に老夫婦。

 その奥十メートル位にやっと若いカップルがいた。

 海水浴場なんてもっとギチギチ人にがいてもおかしくないだろうに。

 当然、こちらを気にする人なぞ一人もいなさそうだ。

 そのおかげか、水着を着ていても特に恥ずかしいといったことは感じなかった。

 ……! そうか。

 予約制な上、入るのにお金がかかるから、人があまりいなくて結果的にこれだけ落ち着いているんだ。

 入る人数が制限されるってのはいい面もあるのだな。

 そう頭の中の整理が終わった時、「どうしたんですか? 海に入らないのですか? 気持ちいいですよ」と綴華が催促してきた。

「うーん、海に入るのは……」

 髪とか痛むし肌はべと。

 バシャ。

 顔が冷たい。

 綴華が海水を俺の顔にかけたのだ。

「ほら、気持ちいいでしょう?」

 なるほど、そっちがその気なら髪とかもうどうでもいい。

 俺もお腹まで海水に浸かり、綴華に海水をすくい投げてかけた。

「きゃ。やりましたね」

「先にやって来たのはそっ」

 言い終わる前に海水をかけられた。

 なら反撃だ。

 すくって海水を投げる。

 その後すぐにお互いノーガードでの掛け合いにり、お互いびしょびしょになった。


 こうしてひと通り遊んだ俺は体を軽く流した後、拠点で休憩することにした。

 俺達の拠点、二人は寝転べる大きなシート1枚と予備の一人用シートが何枚か。後はクーラーボックスとパラソルと細々した荷物。

 俺はクーラボックスから冷えたジンジャーエールを撮り出し、一気飲みする。

 甘く、心地よい生姜の香りが、乾いた体に染み込んだ。

 綴華は中からカルピスを出してのんでいた。

 飲み終わって少したち、出し抜けに綴華が言った。

「やきませんか?」

 は?

「焼くって、ここバーベキューでもするつもりか?」

「違いますよ。海で焼く言ったら肌です。小麦色の肌に挑戦です」

「つまり、日焼けしたいと」

「そういう事です」

「だけど綴華お前そのカッコウで小麦色の肌は無理じゃないか?」

 綴華着ているラッシュガードを観ながら言った。

 こんな水着で焼いて全身小麦色肌には絶対ならない。

 全裸にでもなれば可能だけど……まさかね。

 その俺の様子を見たのか、彼女はこちらを向いてウインクをし、ラッシュガードのファスナーに手をかけ、それを少しずつおろして行った。

 ファスナーが少しづつ降りていくと、綴華の胸が少しづつ現れていく。

 おいおいまさか……。

 本当に全裸になるつもりなのか?

 こんなこっちの状況など関せずとファスナーが一番下にまで伸び、それと同時にラッシュガードを脱ぎ去った。

 これは!

 最初から言うが全裸では無かった。

 だが、水着がある意味それ以上に凄かった。

 ただ彼女の豊満な胸の先端だけを眼帯のような四角の布で隠しているような。

 そんな水着だった。(後で知ったのだが眼帯ビキニというらしい)

 余りの衝撃に俺は目をそらした。

 心臓が鳴り始める。

「これなら大丈夫ですよね?」

 大丈夫だけど大丈夫じゃない。

「あれ? どうして目をそらしているのですか?」

 大丈夫じゃないからです。

「別に……海が見たくなったから」

 俺はそういいながら視線を誤魔化すように海の方へと身体を向けた。

「そうですか。では」

 綴華は俺のそんな内心を知ってか知らずか、サンオイルをペタペタ体中に塗り始めた。

 俺は綴華を見ないように彼女に背を向け海を見続けた。

「ねえ。頼みたいことがあるのです」

 背中から声がする。

「なんだ?」

 彼女の方を向かないように答える。

「背中にオイルを塗っていただけませんか?」

 は?

 せ な か に オ イ ル を ぬ る だ っ て ……?

 男なら誰でも夢見るシチュエーションだが……今の俺にとっては……。

「じ、自分でやれよ!」

「自分だとどうしても塗れたかわからなくて。だから頼んでいるのです」

 何とか言って断わろうと考えたが、これは綴華の頼みである事に気づく。

 しかたない。

 腹を括ろう。

 それに、向こうが触っていいと言っているのだ。

 触らない方が不自然だ。

「塗るからせめてうつ伏せになってくれないか?」

 背中だけなら、まだ何とかなるはず。

「いいですよ」

 そう言うと綴華はゴソゴソと体制を変えたようだ。

 覚悟を決めて綴華の方を向いた。

 綴華は指示した通りうつ伏せになっていた。

 綴華の綺麗な背中が目にうつる。

 高鳴る心臓。

 何とか大丈夫。

 俺は綴華に渡されたオイルを手に絞り出す。

 オイルからはココナッツのような甘い香りがした。

 そして、その手を綴華の綺麗な背中に当てた。

 おお、柔らかい。

 ん。とい甘い声。

 一瞬、びくりとする。

「大丈夫ですよ。とても気持ちいいので続けてください」

「わかった」

 変な声出すなよ。

 俺の手が綴華の肌に当たっている、それだけでこっちは心臓が爆発しそうなのに。

 そう思いながら手を動かす。

 手のひらには綴華の肌のすべすべとした気持ちいい感覚がした。

 心臓の鼓動が増す。

 綴華が時々出す、甘い声がそれを更に増幅させた。

 俺は女だ、だから触っても大丈夫。

 そう心に言い聞かせる。

 鼓動を抑えつつ、震えそうな手を何とか動かし、無事に綴華の背にオイルを塗りきった。

 綴華の背中は、艷やかに輝いていた。

「おわったよ」

 俺は安堵と達成感と共に言った。

「ありがとうございます」

 綴華は礼を言った。

 この様子なら、こっちの心中はバレてないよな?

 そして俺は心を落ちつけるために再び海へ向き直った。

 海は俺のそんな心中を嘲笑うかのように静かな波が立っていた。

「それじゃあ、次は私がオイルを塗って差し上げます」

 背後から綴華の衝撃的な一言が飛び出した。

 綴 華 が 俺 に オ イ ル を 塗 る?

 今ですら割と限界なのに、そんな事されたら。

 俺の思春期男子が確実に隠せない!!!

「え? いいって別に、俺肌焼く気なんてないし」

「けど、錯は日焼け止め塗ってなさらないでしょう? このままだと日焼けして肌が赤くなって傷んでしまいますよ?」

 そうだった。

 サンオイルは肌を守る効果があるんだった。

 女の子の肌は男以上に弱い。

 いやそうじゃない。

 何とか断らないと。

「えーと、それでも……俺別に赤くなっても平気……」

 渋るこっちの様子を見て綴華が言う。

「もしかして、私に触られるのが嫌なのですか?」

 いや、嫌ではない。

 それどころかむしろ触って欲しいのだが。

 そっちが嫌じゃないなら。

「嫌じゃない。けど……」

「けどなんですか?」

 ここまで言われたら流石に渋ると不味い。

「いや、大丈夫。それなら、背中だけお願いする」

「ならよかった。では、まかせてくださいね。うふふ。オイルの塗りあいっこです」

 綴華からオイルを受け取った俺は体に塗りたくる。

 塗った場所は艷やかに光り、ココナッツの香りがした。

「谷間もちゃんと塗ってくださいね」

「わ、わかってるって」

 指摘されるまで忘れてたが。

「塗ったからうつ伏せになるぞ」

 今、綴華の艷やかな体を見たら確実にヤバい。

 谷間までオイルを塗った俺はなるべく綴華を視界に入れないようにうつ伏せになった。

 胸が潰れて少し痛い。

 意外に思われるかもしれないが、胸はうつ伏せになると潰れて痛いのだ。

 女になるまで俺も知らなかったけれども。

 そして、心臓の鼓動が相変わらず激しいままだ。

 それをかき消すかのように、背後からオイルを絞り出す音がした。

 綴華がオイルを手に出したのだろう。

「それじゃあ、塗っていきますね」

 そう宣言した綴華は、俺にオイルを塗り始めた。

 綴華のすべすべの手が背中にふれる。

 すごく心地良い感覚。

 綴華の手が、俺の背中に、今、触れている。

 それだけで心臓が爆発しそうに鼓動する。

「じゃあ、広げますよーぬーりーぬーり」

 そういいながら、綴華は手を動かし始めた。

 すべすべの手の感覚が、背中全体に広がる。

 心臓だけでなく、頭まで爆発しそうだ。

 気持ち良くて変な声がでそう。

 いや、出したら綴華に変に思われる。

 俺は女だ。

 女はこんな事に興奮しない。

 すると、突如背中の、肩甲骨のあたりから、とても柔らかい球のような感触がした。

 なんだこの感触?

 水風船?

 その事と同時に背中全体に体重を感じた。

 何が起こっているんだ?

「えへへ、イタズラです」

 耳元から綴華が甘い声で囁いた。

 まさか。

 ま さ か。

 綴華が俺の背中にうつ伏せでのしかかっておっぱいを押し当てて……。

 この背中の感触は綴華のおっぱい!?

 その事実に気付いたその瞬間俺の何かが弾け飛んだ。

 頭の中が真っ赤に染まる。

 げ、限界……。


「あら、少しやりすぎてしまったのでしょうか」

 限界を超えてオーバーヒートした錯を見下ろしながら綴華は言った。


 その後、オーバーヒートした錯は綴華の膝枕によって復活し(この時、更に一騒動あった)、二人で肌を小麦色に焼いた。

 その後ビーチで水遊びを少しした。

 そうして少し経ち今は夕暮れ。

 水着をから服に着替え、綺麗な小麦色の肌をした、錯と綴華が浜辺に二人して座っていた。

 もうすぐビーチが閉まる時間だ。

 帰る前に、琵麻海浜公園の綺麗な夕日を見よう。

 そう言った綴華の提案に俺は賛成した。

 周りにいる他の海水浴客も俺達と同じ考えのようで、皆水着から着替え、浜辺に座っていた。

 太陽はもうすぐ、水平線につきそうだった。

「もうすぐですね」と綴華が言う。

 そうして、太陽の端が水平線につくその時を迎えた。

 夕日によって赤く輝く空。

 その光により薄暗く青く輝く海。

 夕日に染まらず、それどころか輝きを増しキラキラと深緑に光る砂浜。

 なんと幽玄な景色なのだろう。

「素晴らしいです」

 綴華は感嘆を込めて言った。

「ああ、綺麗だ……」

 俺も同じくらい感嘆を込めて返す。

 そして一分ほど経った後、綴華が言った。

「私ね、思うんですよ」

「何を?」

「この琵麻海浜公園の夕暮れの景色が綺麗なのは、夕日に染まってないからなんじゃないかと。」

「夕日に染まってない?」

 綴華の方を向いた。

「ええ。海も、砂浜も染まらずに自分の色を出しているからこんなにも綺麗なんです。自らに降りかかった夕日の赤に染まらずにね。もし、夕日の色に染まってしまえば、このような素晴らしい景色にはならないでしょう」

 自ら降りかかった色に染まる……か。

 なんか親近感あるな。

「だから、私は無理をして染まる必要はないと思いますよ」

 こっちをみながら、綴華は諭すように言った。

 その顔は少し紅く染まっていた。

「二人で写真撮りませんか?」

「もちろん」

 俺の返答を聞く前に、既に自撮り棒を出し終えていた。

 カシャリ。シャッターを切る音。

 写真には、夕日と海と砂浜を背景に、俺と綴華が写っていた。

 二人とも紅い顔をしていたのは、夕日のせいだろう。

 俺が男ならな。とそう思う。

 その素晴らしい写真をみながら、完全に日が落ちるのを待った。



 帰りの電車。

 予定していた最終一本前の電車には無事乗れて、後は駅に着くまでだ。

 綴華はスマホで今日とった写真を見ていた。

 きっと、蒔花達に見せる写真について考えているのだろう。

 外は夏とはいえもう真っ暗。

 静かな夏の車内。

 今日一日色々あったけど楽しかった。

 水かけあいしたりだとか夕日見たりだとか、膝枕だったり、オイル塗りあったりとか、綴華の裸見たりとか……。

 鼓動が速くなる。

 馬鹿。

 何考えている。

 最悪だ。

 頭を振って心を落ち着かせる。

「どうかしました?」

 異変を察知した綴華が聞いて来た。

「な、なんでもない」

 顔を赤くしながら、俺は思わず目をそらした。

「そうですか」

 そういうと綴華は先程と同じようにスマホの写真に目を戻した。

 綴華のそんな様子を見て思う。

 ……。

 うーん。

 もしかして綴華にこの気持ちを気づかれてるのかな?

 いや、何を考えている。

 男ならまだ可能性があったかもしれないが、俺の体は女だ。

 綴華からしたら気持ち悪いだけだ。

 俺は女だ、俺は女だ、俺は女だ……。

 そんな事を思っていたら、意識がウトウトし始めた……。



 錯。寝てますね。

 今日は色々ありましたし、きっと疲れてるのでしょう。

 首尾は上々って所ですかね。

 今日は、錯にもっと触ってもらったり、もっと意識してほしいから色々とアプローチをかけました。

 錯の様子をみる限りある程度はこちらを意識してくれたようですね。

 錯。

 あなたの心が年齢相応の男だってみんな気づいてますよ。

 ついでに隠れ巨乳だって事も。

 あなたの私に対する気持ちも。

 気づいている上で皆さん関わっているのです。

 だから。

 だから、体が女になったからって、心まで無理矢理合わせて女になる必要は無いのですよ。

 それがあなたのいい所でもあるのですけど、そうやって女になった所で辛いと私は思います。

 だから、錯が完全に女の子になってしまう前に、なんとか気づかせてあげないといけません。

 時間がいつまであるかわかりませんけど、きっとうまくやってみせます。

 私は錯のほっぺに起こさないようにキスしました。

 初めてのキスは甘い潮の味でした。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

ここではお話の補完みたいなのをします。

まず、錯にはちゃんと男友達はいます。

お話に出てこなかっただけです。

錯はクラスではマスコットみたいな扱いで男女問わず皆から愛されています。

また、錯の心が男である事は、綴華が言ったように男女問わず、錯に関係するほぼ全ての人達に程度の差はあれバレています。

何故指摘しないのかと言うと、大体の人の理由が「本人が悪意や害意をもってやっている訳では無い」のと「本人が頑張って女として取り繕おうとしているのに指摘するのは可哀想だ」で一致しています。

皆優しいのです。

錯本人は本気で周りにバレてないと思っているようですが……。

錯と綴華のなりそめについてはまたいつか書けたらいいなと思ってます。

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