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◆8◆

【まえがき】


 「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、原則的に毎週月~金曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。

 2025/8/11より連載中です。


【作品のあらすじと登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n7496ks/1

◆8◆



 リオンモールでひと通りの食材やら日用品やらを買い終えた私とミルミラは、再び愛車に乗り込むと、次の目的地である大学病院を目指していた。


 その病院の一室には、私の実の妹、冬芽が長期入院している。私がミルミラと共に、殆ど毎日のように病室に通い詰めるのも、すっかり日常の光景になっていた。


 ミルミラの基本思考ルーチンは、冬芽がサンプリング素材を提供したものだ。だから、その行動の端々に何処か見覚えのある妹の姿が重なってしまう。


 もっとも、ミルミラの活動開始と殆ど入れ替わるようなタイミングで、冬芽は事故に巻き込まれ、昏睡状態になってしまったため。私の『二人の妹たち』が仲睦まじく互いにお喋りを交わしていたのは、僅か数日間限りの出来事だった。


 大学の研究施設は、冬芽の治療にも相応の力を貸してくれていた。そこには当然ながら、打算めいた考えもあるのだろう。


 冬芽が亡くなってしまえば、同一の思考パターンを共有するミルミラの活動実験も大きく制限される事になる。それだけは可能な限り避けたいと願うのが、研究者としての本音というものだろう。


 だから、『冬芽が研究施設の職員である河原木秋穂の実妹であるから』というのは二の次の理由にすぎない。それでも私は、妹に対する手厚く充実した看護体制に、結果的にではあるが心から感謝していた。


 「冬芽さん、早く良くなって欲しいですね。またいろいろお話したいです」


 愛車の助手席にちょこんと座るミルミラは、少し寂しそうに微笑んでいた。


 アンドロイドであるミルミラに、人間的な悲哀の感情がある訳ではないだろう。それでも敢えて言葉にするなら、冬芽はミルミラの実の母親のような存在であり、同時に実の姉のような存在でもあるのだ。


 心の何処かに何らかの思いがあるのかもしれない。正直、そうあって欲しいという気持ちが、私の中にはあった。


 たとえそれが、科学的に否定される非論理的な考えだとしても。


 「アンタにとって、冬芽は何なんだろうね…」


 「うーん、そうですね。上手く表現できないですけど、『初めてできた友達』みたいなものでしょうか…」


 僅かに考えるような仕種の後、ミルミラはそんな事を口にした。


 「じゃあ、私はどんな感じよ?」


 「うーん、秋穂さんは…」


 そこまで言いかけて、ミルミラの視線が上目遣いに私を見上げる。


 「何よ?」


 「敢えて言うなら、『ダメなお母さん』ですかね」


 「はいはい、どっちが保護者かわからなくて申し訳ありませんねー。娘がとっても賢くて、母さん嬉しいわー」


 棒読み口調で私はそう答えながら、それでも不思議と心が温かくなっていくのを感じていた。


 「でも、ワタシは、できればずっと秋穂さんと一緒に暮らしたいです。困ったお母さんとわいわい楽しく暮らしたいですね」


 それは無理な相談だ。


 アンドロイドの思考ルーチンのサンプリングデータは五年以内の利用が定められている。それ以上の時間が経過してしまえば、各々の経験の蓄積による個体差も含めて、データ提供者と似ても似つかない、ほぼ別人格となり得るからだ。


 人間でさえ五年の歳月を過ごせば大きな成長を遂げるのだから、学習率が高く記憶の忘却のないアンドロイドでは、数倍から数十倍の成長率となるだろう。


 「まぁ、冬芽と三人で暮らせたら、それが一番幸せかもしれないわね…」


 私がぽつりと呟いた言葉に、ミルミラは少し微妙な愁いの表情を浮かべた。


 「しあ…わせ…?」


 『嬉しい』とか『楽しい』とか、そういう単純な感覚ならば、疑似的に数値で表現できる可能性はあるのかもしれないが、『幸せ』というあまりにも曖昧な、漠然とした抽象的な感覚の概念を、機械的に理解するのは難しいだろう。


 「そうね、いつか理解できるといいわね」


 私はそう言って、ミルミラに明るく微笑みかけた。


挿絵(By みてみん)



◆9◆ に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください

【あとがき】


●ご注意

 この作品、「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、原則的に毎週月~金曜日の朝10:00に更新する、連載形式の小説です。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 本来はSF系作品を中心に創作活動中の私ですが、前作「よよぼう」が学園ものだった事もあり、ハードなSF作品に急に路線変更するのは厳しいと感じ、中間的な色合いの本作品を始める事になりました。


 現時点(2025/8/9)で既に最終話まで執筆完了しており、主な修正も終わっています。挿絵が出来次第、順次連載していく予定ですので、よろしくお願いします。


 今回の挿絵は自作のAIイラストになっています。「PixAI」というサイトで作成したもので、未採用イラストやプロンプト(呪文)、LoRA(補助用雛形)もそちらと、同じくAI画像生成投稿サイト「ちちぷい」で公開予定です。


 ご意見ご感想、イラストなど、お寄せくださると嬉しいです。



■「PixAI」(https://pixai.art/ja/@manazuru72000/artworks)、及び「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にて、AIイラストを試験公開中。「ミルミラ」「よよぼう」関連以外もあります。

「PixAI」では「ミルミラ」の主要キャラのLoRAも公開予定です。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、ほぼ放置中


■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定ですが、絶賛放置中


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)

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