表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/54

◆49◆

【まえがき】


 「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、毎週月~土曜日の朝6:00に更新の、連載形式の小説作品です。

 2025/8/11より連載開始しました。全52話の予定。


【◆Intermission◆ 前半のあらすじ&登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n7496ks/27

◆49◆



 全てが終わった後になって、私はこの病室のベッドの上で、新たな大事件の顛末を知る事になる。


 季節外れの突然の嵐の訪れと共に、その悲劇的な物語は予告なしに始まった。


 この一連の事件の顛末は、研究施設のハンガーデッキの監視カメラによって、その一部始終が記録に収められていた。つまり、否定しようのない厳然とした事実であるという証明だ。


 その日の深夜、所謂丑三つ時という時間帯を迎える頃、人気のなくなった研究施設のハンガーデッキで、ミルミラは未だ休眠状態だった。


 機械的には全く問題ないはずの状態なのに、何故か起動できない。電源は入っているのに動かない。まるで目覚める事に恐怖を感じ、心を閉ざして眠り続ける人間の少女…、そう、冬芽が機械の身体になって戻ってきたように感じられた。


 しかし、異変は唐突に始まる。


 待機状態のまま起動しないはずのミルミラが、突如として小さな声を上げて、そっと涙を零し始めたのだ。


 「ア…キ…ホ…さん…」


 ミルミラの唇が吐息交じりに漏らすうわ言のような言葉。それは紛れもなく私の名前だった。繰り返し幾度も私の名前を虚空に向かって囁き、見開いた大きな瞳に僅かな電子の輝きが蘇る。

 それは本来、既にミルミラの記憶から抹消されていたはずの、元使用者の個人データである。該当データがハードウェア上に存在しない以上、それを口にする事など原理的に不可能なはずだった。


 そう、これは非科学的なオカルトの領域に差しかかった事象としか考えられない、極めて奇妙な話である。例えるなら、認知症の進行した末期患者が最期の一瞬に全ての記憶を取り戻したような状態なのかもしれない。


 しかし、事件はそれだけで終わる事はなかった。


 ミルミラの異常な言動から数分後、彼女の悲痛な呟きが虚しく消えていくハンガーデッキに、もうひとつの予期せぬ人影が現れる。


 災害救助用の小さな片手斧を携えたその人影は、時折監視カメラの位置を確認するように立ち止まり、恐らく故意にそうしているのだろう、監視カメラの映像越しに、冷たい無機質な表情を一瞬、挑発ともとれる僅かな微笑みに変えた。


 僅かの後、再び歩みだした人影は、監視カメラの存在をあえて無視して、いや寧ろ『お前らはそこで黙って見ていろ』とでも言わんばかりに、一直線にミルミラの真正面に向かって進んでいく。


 目前で立ち止まった誰かの足音を認識して、ミルミラは重い頭を必死に持ち上げようと首を動かした。


 「秋…、カテ…リナ…?」


 明らかに僅かな生気を取り戻しつつあるミルミラの瞳が、目の前の予想外の訪問者に驚きを隠せず、戸惑いがちに視線を彷徨わせる。


 「深夜遅くに大変失礼を致します。ミルミラお姉様、今夜はお別れのご挨拶に伺いました」


 カテリナは淡々とした口調でそうミルミラに語りかける。


 「お別れ…?」


 理解が及ばず、思わず反射的に小首を傾げるミルミラは、じっとカテリナを見つめる。


 「お姉様との『約束』は必ず守ります。だから…どうか…」


 「そう…、ありがとう、カテリナ…」


 未だ身動きの殆ど取れないミルミラの身体を片腕で抱き締めながら、カテリナはもう一方の手に握られた片手斧に力を籠める。


 次の瞬間、片手斧を高々と頭上に振りかぶったカテリナは、躊躇う事なくミルミラに接続されているメイン電源ケーブルに渾身の一撃を放った。


 抵抗のひとつも満足に出来ないまま、理不尽に全てを奪われようとしている状況の最中でさえ、ミルミラは何処か満足気な微笑みを浮かべて、カテリナの凶行に身を任せ、全てを受け入れた女神のような表情で、鬼気迫る彼女の姿を黙って見つめていた。


 何度も振り下ろされる狂気の打撃が、様々な金属部品を巻き添えにしながらケーブルを断ち切る。激しく不快な衝撃音が響く度に、ミルミラの瞳から再び生気が失われ、同時にモニター装置の計器類が数値低下の警告を発する。


 それから五分以上もの間、カテリナは無言のままで一心不乱に斧を振り下ろし続けた。


 やがて打撃音の反響がぴたりと収まると、再びハンガーデッキは元来の静粛さを取り戻し始める。


 全てを為し終えたカテリナは、今まで他の誰にも見せた事のない恍惚とした表情を浮かべながら、完全に沈黙した『嘗てのミルミラであった機械の躯』を見下ろしていた。


 「これで、いい…。全てをワタシ独りだけが…。だからもう、お姉様は…」


 監視カメラの映像の中で、カテリナは『ふふふっ』と小さく口元を綻ばせて笑い、生まれて初めての高揚感と絶頂感を全身全霊で味わい尽くすように、堂々と胸を張って佇んでいた。


挿絵(By みてみん)



◆50◆ に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください

【あとがき】


●ご注意

 この作品、「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、毎週月~土曜日の朝6:00に更新する、連載形式の小説です。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 いつもはSF系の作品が中心の私ですが、そもそも前作「よよぼう」がSFというよりファンタジー寄りの作品だったので、本作「ミルミラ」はリハビリがてらの"ぷちSF“となりました。

 現時点(2025/10/3)で既に最終話まで執筆及び修正が完了、後は皆さんに楽しんでいただくだけとなっています。

 校正修正の通称”鳥”さん、相談役?の通称”蛹”さん、いつもありがとうございます。


 挿絵は自作のAIイラストで「PixAI」というサイトにて作成しています。未採用イラストやプロンプト(呪文)、LoRA(補助用雛形)も、「PixAI」及び「ちちぷい」で公開します。


 ご意見ご感想、イラストなど、お寄せくださると嬉しいです。



↓「MiraiMind」中一秋穂ちゃんAIチャット♫

本編小説に合わせ、AI画像チャット「Miraimind」で中一時代の秋穂さんとお喋りしませんか?

良かったら構ってあげてくださいねっ♪

MiraiMindで「河原木 秋穂」とチャットしよう!

web-miraimind.hellogroupjapan.com/#/chat/C11222094



■「PixAI」(https://pixai.art/ja/@manazuru72000/artworks)、及び「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にて、AIイラストを試験公開中。「ミルミラ」「よよぼう」関連以外もあります。

「PixAI」では「ミルミラ」の主要キャラのLoRAも公開予定です。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、ほぼ放置中


■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定ですが、絶賛放置中


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ