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◆29◆

【まえがき】


 「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、毎週月~金曜日の朝10:00に更新の、連載形式の小説作品です。

 2025/8/11より連載開始しました。


【◆Intermission◆ 前半のあらすじ&登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n7496ks/27

◆29◆



 予期せぬ訪問者は、夕刻とともに私たちの目の前に現れた。


 路頭に迷った一匹の幼い猪の子供、つまり俗に言う『瓜坊』が、祖母の家の近隣に彷徨い出てきたのだ。恐らくは親と逸れて山を下りて来てしまったのだろう。


 動物園でこそ何度か目にした事のある瓜坊だが、実際に直接間近にすると、その愛嬌のあるいで立ちにたちまち虜になってしまう。


 勿論、野生の動物と触れ合う事には、それ相応の危険性があるので控えねばならないが、視界の端っこでウロチョロと動き回る愛くるしい小動物を、気にするなと言うほうが無理な相談である。


 それは当然、例外なくミルミラに搭載された冬芽AIにも当て嵌まる。


 「何だか、生きたヌイグルミみたいでカワイイですね。ちっちゃな枕が走り回っている雰囲気ですよ」


 「まぁ、いくら田舎でもそうそう出会えるもんじゃないしねぇ…。でも触っちゃダメよ? 人間の匂いがついちゃうと、自然に戻れなくなるっていう話だから…」


 昔、そういった話を何処かで聞いた事がある。人間の匂いがついた個体は、異物として群れから弾き出されてしまうらしい。言うなれば『田舎を捨てた都会モンは二度と戻ってくるな』といった感じだろう。


 「へぇー、そうなんですねー。ワタシはどんなに秋穂さんの匂いがついても、逞しく生きていますけどね」


 「そりゃ、アンタは別に野生のアンドロイドって訳じゃないし。それに毎日私と同じボディソープとシャンプーを使っていれば、嫌でも同じ匂いになるでしょ。だいたい、もしアンタが他の人に…」


 そこまで言いかけて、私は一気に現実に引き戻される。


 一度でも使用者の許に委ねられたアンドロイドにとって、野生動物の嗅覚に相当するものは、決して匂いではない。


 つまり、仮に別の使用者へとそのアンドロイドの管理権が委ねられる事になれば、徹底的な機体のメンテナンスは当然の事、何よりも最も重要なAIの設定変更作業が必要になってくる。


 所謂データの初期化である。せっかくの蓄積された経験を失うのは勿体ない気もするが、そこは中古のコンピュータと一緒である。過去のユーザーデータや機密管理用パスワードは勿論、搭載したAIが見たり聞いたりした何気ないプライベートの断片情報でさえ、そのままにしておく事はできない。


 もしミルミラが私の許を離れる事になるのなら、これまでのそれら記憶の類も綺麗さっぱり消されてしまう事になる。当然、そこには冬芽の提供したAIの思考サンプルも含めてだ。


 だから私は、今こうして孤独に戦っているのである。ミルミラの救済のためという建前と、自分自身の我儘な感情を正当化する方便を垂れ流しながら…。


 「秋穂さん、危険です!」


 咄嗟に耳に届いたミルミラの叫びに、私ははっとして堂々巡りの思考をひとまず頭の片隅に追いやった。


 次の瞬間、私は盛大にミルミラに力任せに突き飛ばされ、農道脇の草叢にコメディ映画のような間抜けな体制で転がっていった。


 大きく揺れ動く視界の端っこで、ミルミラは軽やかな身のこなしで宙に舞い、突進する米俵のような猪の背に手をついて、さらに再び一段高く舞い上がる。


 恐らくあの瓜坊の親なのだろう。別にこちらが誘拐した訳ではないが、見失った我が子を迎えに来たのだと思われる。それにしても、礼も挨拶も無しに突撃して来るとはいただけない。もしミルミラがアンドロイドでなければ、こちらは大怪我どころではない。


 しかし、そんな私の気など知る由もなく、親猪は瓜坊を追い立てるように小突き回しながら走り去っていく。こうなったら、文字通りの通り魔に襲われたと思うしかない。


 「お母さん、ですかね? きっと心配して迎えに来てくれたんですね」


 ミルミラは何事も無かったかのように、草叢で泥だらけになって寝転んだままの私に手を差し伸べながらそう呟いた。


 「秋! ロボっ娘! 無事がぁ? イノシシさ出たと?」


 ミルミラに引き起こされて立ち上がると、家から鍬を携えた祖母が血相を変えて飛び出してきたところだった。


 「あー、大丈夫、無事だからー」


 私たちが手を振って応えると、一気に緊張の糸が切れたのか、祖母は手にした鍬を降ろしてへなへなとその場に座りこんだ。


 「やっぱり、お母さんもお婆ちゃんも心配して、必ず助けに来るんですよ」


 そう言ったミルミラの顔が嬉しそうで、そして僅かに寂しそうで、私は何も言えなくなった。


挿絵(By みてみん)



◆30◆ に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください


【あとがき】


●ご注意

 この作品、「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、毎週月~金曜日の朝10:00に更新する、連載形式の小説です。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 いつもはSF系の作品が中心の私ですが、そもそも前作「よよぼう」がSFというよりファンタジー寄りの作品だったので、本作「ミルミラ」はリハビリがてらの"ぷちSF“となりました。

 現時点(2025/9/15)で既に最終話まで執筆及び修正が完了、後は皆さんに楽しんでいただくだけとなっています。

 校正修正の通称”鳥”さん、相談役?の通称”蛹”さん、いつもありがとうございます。


 挿絵は自作のAIイラストで「PixAI」というサイトにて作成しています。未採用イラストやプロンプト(呪文)、LoRA(補助用雛形)も、「PixAI」及び「ちちぷい」で公開します。


 ご意見ご感想、イラストなど、お寄せくださると嬉しいです。



■「PixAI」(https://pixai.art/ja/@manazuru72000/artworks)、及び「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にて、AIイラストを試験公開中。「ミルミラ」「よよぼう」関連以外もあります。

「PixAI」では「ミルミラ」の主要キャラのLoRAも公開予定です。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、ほぼ放置中


■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定ですが、絶賛放置中


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)

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