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◆28◆

【まえがき】


 「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、毎週月~金曜日の朝10:00に更新の、連載形式の小説作品です。

 2025/8/11より連載開始しました。


【◆Intermission◆ 前半のあらすじ&登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n7496ks/27

◆28◆



 都会育ちの身にとって、田舎での生活とは退屈極まりないものである。


 初めの数日間こそ、見慣れないものに対する物珍しさから、多少の興奮を覚えてはいたものの、すぐにその変わり映えのしない環境に飽きてしまうものだ。


 だから今時の若い者たちは、挙って刺激の多い都市部へと興味を向け、結果的に退屈な田舎は更に退屈なものへと悪循環を繰り返してしまう。


 とはいえ、都会での生活がそこまで刺激的な毎日なのかというと、正直なところ、憧れに思う程何か目ぼしいものが目白押しという訳でもない。要は知らないからこその願望のようなものだ。


 今日も今日とて、早朝からミルミラは元気いっぱいに甲斐甲斐しく働いている。


 すっかり日課となった感のある池の鯉たちの世話と、庭木への水遣り程度ではあるが、そこは都会とはまた一味違った職業体験という事もあって、興味深げに熱心に日々の務めを果たしていた。


 結果的に言えば、良く働く住み込みの家事手伝いの曾孫娘が同居を始めたという状況の祖母は、かなりの大助かりといった感がある。もっとも、もう一人の居候の孫娘は、碌に仕事も家事も手伝わずに、ただ漫然と過ごしているのだが。


 これでは単に田舎に来たニート状態である。しかもお尋ね者の犯罪者だ。早急に何か手を打たねばなるまい。


 「秋穂さん、ちょっといいですか?」


 「んぁ?」


 縁側で仰向けになってゴロゴロしている私に、ミルミラが恐る恐ると言った感じで声をかけてくる。私は気だるげな態度全開でゆっくりと身を起こした。


 「あのですね、井戸水がですね、ちょっと濁っている気がするんですよ。ほんのちょっぴりだけなんですが…」


 「あー、そう言えば一昨日は一日中雨だったっけ? 地下水は結構影響受けるのよね。ほら、裏の山が結構急だから、二三日ですぐここまで流れてくるのよ」


 都会の水道水とは違って、井戸水は自然界の影響をもろに受ける事になる。万年変わらずの完璧な水質とはいかないのだ。


 「じゃあ別に毒じゃないんですね?」


 「もし毒なら、アンタの目の前で鯉がぷかぷか浮いちゃってるわよ」


 「それもそうですね。ちょっと安心しました」


 そう言うなり、ミルミラは木桶に突っ込んであった柄杓で井戸水を一杯掬い、おもむろに自分の口をつけた。


 「ちょっ!」


 ロボである。アンドロイドである。死ぬ事はない、はずだ。


 それでも無防備に井戸水をごくごくと飲み干すのはお薦めできない。それに見ているこちらの心臓にもよろしくない。


 「あー、確かにちょっと鉄とマグネシウムが過剰な感じですかね…。別に人体に影響はないと思いますし、コイさんやニワトリさんにも問題なさそう…、って、どうしたんですか、秋穂さん? そんな複雑そうな顔をして…」


 冷静な分析結果に納得の自問自答をしながら、不思議そうな眼差しを私に向けるミルミラは、私のドン引きの表情の理由を察していない、というか理解できないのだろう。


 「アンタは何でも口にするのを止めなさい、そのうちコロッと逝くわよ?」


 「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私はアンドロイドですし、介護や育児のための毒見機能みたいなものもありますから」


 「アンタがアイアンストマックなのは十分知ってはいるけど、見てるこっちのほうが怖いのよ…」


 私は呆れた顔で、目の前で屈託なく微笑んでいる高性能なポンコツ娘をじっと見つめ返す。


 「でも、どんなに胃が丈夫でも、やっぱり『美味しい』っていう感覚がはっきりと定義できないのは悲しいです。お婆ちゃんの田舎料理も、いつかちゃんと『美味しい』って感じてみたいですね」


 AIにとって抽象的な概念は苦手そのものである。『甘い』『辛い』は理解できても、『美味い』かどうかはわからない。同様に、いい匂いとか美しいとか、そういったものは数値では容易に理解が及ばないものなのだ。


 いつかこの子が本当の『美味しい』を知る日は来るのだろうか…。私はまるで母親の気分でミルミラを見つめ続けていた。


挿絵(By みてみん)



◆29◆ に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください


【あとがき】


●ご注意

 この作品、「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、毎週月~金曜日の朝10:00に更新する、連載形式の小説です。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 いつもはSF系の作品が中心の私ですが、そもそも前作「よよぼう」がSFというよりファンタジー寄りの作品だったので、本作「ミルミラ」はリハビリがてらの"ぷちSF“となりました。

 現時点(2025/9/15)で既に最終話まで執筆及び修正が完了、後は皆さんに楽しんでいただくだけとなっています。

 校正修正の通称”鳥”さん、相談役?の通称”蛹”さん、いつもありがとうございます。


 挿絵は自作のAIイラストで「PixAI」というサイトにて作成しています。未採用イラストやプロンプト(呪文)、LoRA(補助用雛形)も、「PixAI」及び「ちちぷい」で公開します。


 ご意見ご感想、イラストなど、お寄せくださると嬉しいです。



■「PixAI」(https://pixai.art/ja/@manazuru72000/artworks)、及び「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にて、AIイラストを試験公開中。「ミルミラ」「よよぼう」関連以外もあります。

「PixAI」では「ミルミラ」の主要キャラのLoRAも公開予定です。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、ほぼ放置中


■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定ですが、絶賛放置中


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)

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