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◆22◆

【まえがき】


 「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、原則的に毎週月~金曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。

 2025/8/11より連載中です。


【作品のあらすじと登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n7496ks/1

◆22◆



 自宅に辿りついた私たちは、いつもと同じ日常を過ごしているはずだった。


 妹の冬芽が亡くなったという重大な事実こそあるものの、元から長期入院中の身だった事もあり、日常生活には殆ど全く影響はないはずだった。


 気のせいか、いつもより元気のない様子のミルミラが、無言のまま黙々とキッチンに籠り、晩御飯の支度を始めている。その間、私は大膳教授向けの本日分の報告書を作成して、メールに添付して送信する。


 特記事項なし、として提出した報告書の内容は、若干の嘘偽りがある。


 それは科学的見地から無視する事のできない異変なのか、或いは研究者兼同居人としての私的な願望なのか、私には判断できない。だからこそ、その微細なミルミラの変調を、私は敢えて上に報告する事を止めた。


 考えようによっては、異常反応を起こしているのはミルミラのAIではなく、私の頭のほうなのだと言えなくもない。


 「はーい、できましたよー。今日は肉じゃがです! おふくろの味ですよー」


 ミルミラが空元気を振り絞ってそう明るく言いながら、大きなトレイを運んでいつもの席につく。


 「何か『おふくろ』って、不思議な言葉ですよね。『お母さん』っていうのとも微妙に違いますよね」


 「そうね…。まぁ、日本語特有の感覚だからかもしれないけど」


 アンドロイドやAIの研究で、日本が欧米よりも一歩遅れてしまう原因が、その母国語の特殊な曖昧さと煩雑さにあるという研究者もいる。擬音語擬態語や代名詞数詞の多様さや、阿吽の呼吸や察しろ文化などは、機械やAIの判断能力のハードルをいたずらに複雑化するだけである。


 かと言って、量産導入された海外製の合理主義的なアンドロイドが、日本社会に十分な適応を果たせるのかといえば、それは無理な話だろう。日本語での対話が可能な訪日外国人でさえ、周囲と軋轢を生む程度には複雑な社会なのだ。まして碌に融通の利かないアンドロイドに対して、それ以上の器用さを求めるのは酷だと言える。


 結局、日本は日本でどんなにガラパゴス化しようとも、独自基準の高性能AIを創りあげるしかないのだと思う。


 そして、その結晶が、私の目の前の小さな『おふくろ』であるミルミラなのだ。


 「ほら、冷めないうちにさっさと食べますよ。秋穂さん、もうすぐワタシがいなくなっちゃうんですから、一人でちゃんと色々出来るようになって貰わないと、ですよ」


 「そういう事だったら、AI載せ替えてからも、アンタがまた家で暮らせば良いでしょ? アンタが良ければ、今度、大膳教授に話してみるけど?」


 こういった他愛のない日常会話のやり取りも、あと僅かの間しかかわす事ができない。勿論、私の提案を大膳教授に受け入れて貰えたとして、そこにいる未来のミルミラは、単なる『実験機材三号』であって『ミルミラ』ではないかもしれないのだが。


 「それは、でも多分、『ワタシの形をした何か』であって、ワタシじゃないと思いますよ。恐らくきっと、ワタシが初めてここに来た時みたいに、『うへぇー、うわぁー』っていう感想のしかめっ面から始まると思います」


 「それでも、アンタがかなり綺麗にしてくれたから、引継ぎは多少楽かもね」


 「あ、もしも生まれ変わったワタシがこの部屋を見ても何も驚かなかったら、きっとワタシの記憶が残っているんだと思いますよ。その時は『ただいま』って言わなくちゃ、ですね」


 あり得ない話ではある。AIの再インストールというのは、人間でいえば脳味噌の入れ替え手術みたいなものだ。オカルトに傾倒でもしていない限り、昔の記憶が残っているとは考えられない。


 「でも、ワタシの折角覚えた家庭料理のレシピも、お年寄りたちや子供たちの顔も名前も、綺麗さっぱり全部忘れちゃうんですね。ある日、起きたら別人で…」


 寂しげにそう言いながら、ミルミラは涙を零しはじめる。機械的プログラミングの結果だという事は理解していても、私はそれを素直には納得し難かった。


 「逃げよっか…」


 私は思わずそう口にしていた。全く先の事など考えていない発言である。


 「逃げる…って、逃げちゃうんですか? でも、いったい何処に?」


 「うーん、とりあえず海外は無理だから、北ね。さて、どうする? アンタの判断に任せるわよ…」


 それは私の最後の責任逃れ、決断の丸投げであった。全てはミルミラが勝手に決めた事であり、私はその判断に立ち会ったに過ぎないのだ、と心の中で言い訳を始める。


 私は黙ったまま、暫く目の前の『もう一人の冬芽』を見つめていた。


挿絵(By みてみん)



◆23◆ に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください



【あとがき】


●ご注意

 この作品、「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、原則的に毎週月~金曜日の朝10:00に更新する、連載形式の小説です。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 本来はSF系作品を中心に創作活動中の私ですが、前作「よよぼう」が学園ものだった事もあり、ハードなSF作品に急に路線変更するのは厳しいと感じ、中間的な色合いの本作品を始める事になりました。


 現時点(2025/8/9)で既に最終話まで執筆完了しており、主な修正も終わっています。挿絵が出来次第、順次連載していく予定ですので、よろしくお願いします。


 今回の挿絵は自作のAIイラストになっています。「PixAI」というサイトで作成したもので、未採用イラストやプロンプト(呪文)、LoRA(補助用雛形)もそちらと、同じくAI画像生成投稿サイト「ちちぷい」で公開予定です。


 ご意見ご感想、イラストなど、お寄せくださると嬉しいです。



■「PixAI」(https://pixai.art/ja/@manazuru72000/artworks)、及び「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にて、AIイラストを試験公開中。「ミルミラ」「よよぼう」関連以外もあります。

「PixAI」では「ミルミラ」の主要キャラのLoRAも公開予定です。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、ほぼ放置中


■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定ですが、絶賛放置中


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)

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