表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/54

◆19◆

【まえがき】


 「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、原則的に毎週月~金曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。

 2025/8/11より連載中です。


【作品のあらすじと登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n7496ks/1

◆19◆



 翌日、私とミルミラはいつもの老人介護施設のお年寄りたちに会いに行く事にした。


 勿論、私たちの一方的な事情の詳細には触れないまま、努めていつも通りの態度で常連のお年寄りたちと触れ合っていたのだが、やはり何処かで私たちの態度の些細な異変が見え隠れしてしまうのだろう。長年の人生を歩んできた歴戦の猛者たちにかかっては、若輩者の小娘とアンドロイドの隠し事など、雑作も無く容易く見抜かれてしまう。


 「ミルミル、今日は随分と元気がないじゃないか。何かあったのかい?」


 「あー、いえ、個人的な事情が少々…」


 電動車椅子の羽柴老人から一発で違和感を指摘され、流石のミルミラも言葉を濁して曖昧な造り笑顔を浮かべる。


 所詮アンドロイドなのだから、どんな時も常に一定のスマイルを維持しておくこともできるのだろうが、なおも自然と無意識に表情豊かな振舞いをしてしまうのは、ミルミラが如何に高性能なのかという証だった。


 「良かったら話してみな。年寄りは年寄りなりの年の功ってやつさ。何か良い考えが浮かぶかもしれん」


 「うーん、そうですね。実は、秋穂さんの妹さんが先日亡くなったんですよ。ワタシのAIの元になった人なので、だからちょっと複雑な気分です。良くわからない不思議な感じなんですよね…」


 老人介護施設の高齢者相手に、他人の死を告げるのも如何なものかと思うが、寧ろ変な気遣いのないあっけらかんとした表現のミルミラだからこそ、その言葉にはあまり深刻な暗い雰囲気は窺えない。


 「そうか、秋穂さんの…。きっとまだ若い子だろうに、随分と可哀想な、気の毒な話だね。老い先の短い私ら年寄り連中が代わってやれれば良いもんなんだろうがね…」


 「それは絶対に駄目ですよ。羽柴さんには逆に冬芽さんの分まで長生きして、ずっとずぅーっと元気でいて貰わないといけないです」


 ミルミラはまるで弱気な患者を叱り飛ばすベテラン看護師のように、真剣な眼差しでじっと羽柴老人を見つめて力説を始める。


 「そうか、そうさな…。ずっといつまでもお前さんとお喋りしていたいし、そういうのも悪くないかもしれんね」


 「はい…」


 それが叶わぬ夢だという事は、誰よりもミルミラ自身が知っている。それでもその言葉を否定する事はできなかった。


 「実は、ワタシはこれから暫くの間、出張?で地方に行っちゃうんですよ。その代わりに別のアンドロイドが、もしかするとこちらの施設にお邪魔するかもしれませんね」


 「ほう、それはまた突然な話だね。近頃はロボットにも出張なんてものがあるのかね。まぁ、いろいろな場所を見て回るのも楽しいもんさ。またこっちに戻ってきたら、土産話を聞かせておくれ」


 「はい、勿論です。それまで元気にしてなくちゃダメですよ?」


 ミルミラは自分の来訪が途絶える可能性と、カテリナが後継者となる可能性を遠回しに羽柴老人に伝える。できれば、これが今生の別れになるとは言いたくなかったのだろう。


 私は少し離れた場所で、他の老人と他愛無い世間話をしつつ、二人の会話の様子を遠目に窺っていた。


 頻繁に自分たちに会いに来てくれる孫娘のような存在が、もうすぐいなくなってしまうのだ。それはお年寄りたちにとっては、知らないほうが幸せな事実なのだろうか。それとも…。


 「皆はもう聞いたかな? ミルミルが暫くの間、来られなくなるらしい。何だかちょっと寂しくもなるが、暫しの辛抱だ。丁度いい機会だから、ここで皆で記念撮影しようと思うんだが、どうだろうか」


 羽柴老人の提案に皆が賛同する。この場にいる人だけにはなってしまうが、誰にとっても心に残る思い出になるだろう。


 何人かの施設の職員が撮影の手伝いを買って出てくれ、手慣れた様子でお年寄りたちを整然と並べ始める。程なくして準備が整うと、職員の一人に撮影係をお願いして、私とミルミラも真ん中付近に入れて貰った。


 そして私たちは、一瞬で切り取られた永遠を共有する事になった。


 そう、たとえミルミラのAIが綺麗さっぱり消去されてしまったとしても、そのアンドロイドのボディの何処か片隅に焼き付いて、永遠に残り続けるのだと、私は心からそう信じていたかった。


挿絵(By みてみん)



◆20◆ に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください



【あとがき】


●ご注意

 この作品、「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、原則的に毎週月~金曜日の朝10:00に更新する、連載形式の小説です。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 本来はSF系作品を中心に創作活動中の私ですが、前作「よよぼう」が学園ものだった事もあり、ハードなSF作品に急に路線変更するのは厳しいと感じ、中間的な色合いの本作品を始める事になりました。


 現時点(2025/8/9)で既に最終話まで執筆完了しており、主な修正も終わっています。挿絵が出来次第、順次連載していく予定ですので、よろしくお願いします。


 今回の挿絵は自作のAIイラストになっています。「PixAI」というサイトで作成したもので、未採用イラストやプロンプト(呪文)、LoRA(補助用雛形)もそちらと、同じくAI画像生成投稿サイト「ちちぷい」で公開予定です。


 ご意見ご感想、イラストなど、お寄せくださると嬉しいです。



■「PixAI」(https://pixai.art/ja/@manazuru72000/artworks)、及び「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にて、AIイラストを試験公開中。「ミルミラ」「よよぼう」関連以外もあります。

「PixAI」では「ミルミラ」の主要キャラのLoRAも公開予定です。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、ほぼ放置中


■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定ですが、絶賛放置中


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ