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◆16◆

【まえがき】


 「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、原則的に毎週月~金曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。

 2025/8/11より連載中です。


【作品のあらすじと登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n7496ks/1

◆16◆



 私たちが冬芽の「眠る」病室に辿りつくと、既に父と母がそこに呆然と立ち尽くしていた。


 二人にとっても実の娘を失くしたのだから、その喪失感は計り知れない。ある意味、私以上に大きな悲しみに打ちひしがれている事だろう。


 勿論、いずれはこのような事になってしまうかもしれないという事は予見されていた。だから両親にも相応の覚悟というものがあったはずだとは思う。しかしそれでも、人は最悪の可能性というものを否定したがる生き物なのだ。


 「秋穂…」


 無機質な病室が白い静寂に支配されている中で、母が私の姿に気付いて僅かに視線を上げる。まるでこの目の前で起きている現実を、私の口から否定してくれとでも言わんばかりの、縋るような力のない目だ。


 私は無言のまま、そんな母の視線を振り払い、眠ったままの二度と起きる事のない冬芽の顔を覗きこんだ。


 先日、ミルミラと共に見舞いに訪れた時と何も変わる事のない、穏やかな表情の冬芽の顔からは血色が失われ、仄かに青白くなっていた。それ以外に大きな違いは無いように思えるのだが、身体中から延びていた検査機器のコードが一切無くなっている状況が、何よりも明確に現状を示唆していた。


 今にも「お姉ちゃん、お待たせ。さあ帰ろうよ」とでも声をかけてきそうな冬芽の姿を見ていると、母が全てを否定したくなるのも無理はないだろう。


 「冬芽さん、秋穂お姉ちゃんが来ましたよ」


 ミルミラがいつもの挨拶で冬芽に話しかける。いつも通りの笑顔に微妙な寂しさを滲ませながら。しかし冬芽は今日も答える事はない。そして永遠にその返事を聞く機会は失われてしまったのだ。


 「冬芽さん、聞いてくださいよ。この前、遂にワタシにもイモウトが出来たんですよ。ワタシより賢くてパワフルな、とっても元気なイモウトなんですよ。冬芽さんにも紹介…したかったです」


 アンドロイドのくせに悲しげな表情と涙声でそう語りかけるミルミラは、まさにもう一人の冬芽そのものだった。


 そう考えると、いくら共通思考ルーチンのコピーだとはいえ、死んでしまった自分自身に向き合って、自分自身で見送るという複雑怪奇、摩訶不思議な心境というのは如何なるものかと、奇妙な想像を巡らせてしまう。


 「ミルミラちゃんもありがとうね。ずっといつも傍にいてくれたから、冬芽も安心して、心穏やかに過ごせたと思うわ」


 「いいえ、ワタシは冬芽さんにいろいろ教えて貰った立場ですから、感謝するのはワタシの方なのです。ありがとうございました」


 母に労いと感謝の声をかけられたミルミラは、逆に冬芽に対する感謝を述べながら、ぺこりと礼儀正しくお辞儀をした。


 「ミルミラちゃんも、何ていうか、その…。こう言ったら迷惑かもしれないけれど、三姉妹の末娘みたいな感じに思っていたのよ。できればこれからも時々私たちに顔を見せてちょうだい。そして末永く、秋穂の事をよろしくお願いするわね」


 母はまるで本当の末娘に愛情を示すように、ゆっくりとミルミラの小さな身体を抱き寄せて、涙を浮かべていた。


 「秋穂も忙しい所、呼び出して悪かったな。最後に皆で別れの言葉をかけられて良かった。冬芽もきっと…」


 父が私に話しかけてくるも、途中で言葉に詰まって涙声になってしまう。


 辛いのは皆一緒なのだ。感情のないはずのミルミラだって、AIの何処か片隅できっと、消化できない理不尽な何かを感じてくれているだろうと、私は自分勝手にそう信じていた。


 「ううん、ありがとう、お父さん、教えてくれて…。最期には間に合わなかったけど、こうして冬芽の顔を見て、話せて良かったと思う」


 気がつけば、私の目からも大粒の涙が溢れて、止めようとしても止める事ができずに頬を伝い落ちていった。


挿絵(By みてみん)



◆17◆ に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください



【あとがき】


●ご注意

 この作品、「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、原則的に毎週月~金曜日の朝10:00に更新する、連載形式の小説です。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 本来はSF系作品を中心に創作活動中の私ですが、前作「よよぼう」が学園ものだった事もあり、ハードなSF作品に急に路線変更するのは厳しいと感じ、中間的な色合いの本作品を始める事になりました。


 現時点(2025/8/9)で既に最終話まで執筆完了しており、主な修正も終わっています。挿絵が出来次第、順次連載していく予定ですので、よろしくお願いします。


 今回の挿絵は自作のAIイラストになっています。「PixAI」というサイトで作成したもので、未採用イラストやプロンプト(呪文)、LoRA(補助用雛形)もそちらと、同じくAI画像生成投稿サイト「ちちぷい」で公開予定です。


 ご意見ご感想、イラストなど、お寄せくださると嬉しいです。



■「PixAI」(https://pixai.art/ja/@manazuru72000/artworks)、及び「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にて、AIイラストを試験公開中。「ミルミラ」「よよぼう」関連以外もあります。

「PixAI」では「ミルミラ」の主要キャラのLoRAも公開予定です。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、ほぼ放置中


■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定ですが、絶賛放置中


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)

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