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◆9◆

【まえがき】


 「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、原則的に毎週月~金曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。

 2025/8/11より連載中です。


【作品のあらすじと登場人物】

https://ncode.syosetu.com/n7496ks/1

◆9◆



 飾り気のない無機質な病室のベッドに、いつもと変わらぬ様子の冬芽が横になっていた。


 勿論、私とミルミラが見舞いに訪れても、明るく元気な歓迎の言葉が返ってくる事はない。静かすぎる空間に医療機器の機械音だけが響いているだけだった。


 「冬芽さん、秋穂お姉ちゃんがお見舞いに来ましたよ」


 ミルミラは反応のないベッド上の冬芽に向かって、そう呼びかける。


 医学的にも積極的に話しかけて刺激を与え続ける事は重要だ。いつか患者が回復してくれると信じて、とりあえずの努力を重ねる他に手段はない。


 「今日は皆でプリントシールを撮りましたよ。冬芽さんも早く元気になって、皆と一緒に撮りましょうよ」


 冬芽の思考ルーチンを共有するミルミラは優しく語りかけている。まるで本当の姉妹のようだ。


 介護用や教育用に基本設定されたアンドロイドなのだから、患者や要介護者、子供たちに対して最大の配慮をもって接するのは必然ではあるのだが、どうもそれ以上の何かが、そこに存在しているような気がしてならない。


 「秋穂お姉ちゃんも、きっと冬芽さんの笑顔を心待ちにしていますよ。ワタシもまたゆっくりと、冬芽さんといろいろお話したいです」


 そう語りかけるミルミラの声も、冷たい機械音の合間に消え去っていく。


 私とミルミラが、それぞれ冬芽の左右の手を握って、力のないその身体に命の息吹を吹き込もうと試みる。


 考えてみれば、かなりおかしな話である。


 何処までも人間に似せて作っているとはいえ、所詮は機械にすぎないアンドロイドが、昏睡患者に生命活動を取り戻させようと奮闘しているのだ。


 もし人間がアンドロイドに魂を吹き込めるのなら、恐らく逆の事も起こり得るのだろうが、残念ながらミルミラに魂はないのだ。


 「冬芽…」


 私は静かに愛しい妹の名前を囁きかける。その呼びかけは、果たして冬芽の心に届いているのだろうか。このような状況に陥っては、ある意味機械よりも判断に苦しむ。


 「大丈夫ですよ、秋穂さん。きっと届いていますよ、冬芽さんにも」


 私の心中を察するようにミルミラが励ましの言葉を紡ぐ。たとえそれさえも単なるプログラム上の反応だったとしても、私の心は僅かに軽くなっていく。感謝の気持ちを禁じ得ない。


 「ありがとうね、ミルミラ…」


私の目にじんわりと涙が溢れてくるのを自覚しながら、私はミルミラに不器用な微笑みを投げかけた。






 その後、自宅に帰り着いた頃には、辺りはすっかり日が暮れて薄闇に包まれつつあった。


 私は力なくソファに身体を投げ出して、無気力にテレビモニターに映し出されるニュース番組の映像を眺めていた。


 ついこの前まで、そう、ミルミラが我が家に同居を始めるまで、この場所はリビングとは言い難い状態だった。良く見積もっても雑多なガラクタガレージ、悪く言えば廃棄物の投棄現場のような有様であったはずだ。


 ミルミラには感謝せねばならないだろう。自分の関わったアンドロイドに足を向けて寝られない技術者というのも、人として情けない限りだ。


 「はいはい、秋穂さん。もうすぐ準備できますから、テーブルの上、片付けてくださいね」


 キッチンからフライパンを片手にしたミルミラが、ひょっこりと一瞬だけ顔を覗かせ、すぐに引っ込んでしまう。


 「あーい」


 いつもながらのミルミラの万能ぶりに感動しながら、私はやる気のない声で返事をする。


 冬芽のいない独りぼっちの暮らしが続いていたら、当の昔に私の心は悲鳴を上げていた事だろう。そういう意味でも、ミルミラには感謝せねばならない。妹の代わりのもう一人の妹に、心からの感謝を伝えなければならない。


 「あー、いつもありがとうね、ミルミラ…」


 「はい? 秋穂さん、何処か具合でも悪いんですか?」


 きょとんとした表情で再びこちらを窺うミルミラは、失礼にもそんな言葉で反応した。


挿絵(By みてみん)



◆10◆ に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください


【あとがき】


●ご注意

 この作品、「ミルミラ~ココロとキオクの輪舞」は、原則的に毎週月~金曜日の朝10:00に更新する、連載形式の小説です。


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 本来はSF系作品を中心に創作活動中の私ですが、前作「よよぼう」が学園ものだった事もあり、ハードなSF作品に急に路線変更するのは厳しいと感じ、中間的な色合いの本作品を始める事になりました。


 現時点(2025/8/9)で既に最終話まで執筆完了しており、主な修正も終わっています。挿絵が出来次第、順次連載していく予定ですので、よろしくお願いします。


 今回の挿絵は自作のAIイラストになっています。「PixAI」というサイトで作成したもので、未採用イラストやプロンプト(呪文)、LoRA(補助用雛形)もそちらと、同じくAI画像生成投稿サイト「ちちぷい」で公開予定です。


 ご意見ご感想、イラストなど、お寄せくださると嬉しいです。



■「PixAI」(https://pixai.art/ja/@manazuru72000/artworks)、及び「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にて、AIイラストを試験公開中。「ミルミラ」「よよぼう」関連以外もあります。

「PixAI」では「ミルミラ」の主要キャラのLoRAも公開予定です。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、ほぼ放置中


■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定ですが、絶賛放置中


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)

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