09 僕の相棒
「タケル、どうしたの返事しなさい、タケル!」
「おーい、お邪魔するよー」
必死に呼びかけるミコトだったが、のんきな声に振り向く。
入ってきたのはつばさであり、持っていた袋には、缶ビールを入れていた。
だが、ミコトの様子に首を傾げる。
「おや、ミコトさん。どうかしたのかい?」
「つばささん、タケルが、タケルが……」
「落ち着いて。なにがあったんだい?」
「突然タケルの悲鳴が聞こえてきて、それから何度呼びかけても、返事しないんです!」
途切れ途切れに話すミコトだが、その顔は青ざめていた。
肩も震えていたため、つばさは落ち着かせるように手を置く。
そして、マイクのスイッチをオンにする。
「おい、クレナイ。私の声は聞こえるか?」
『あぁ、俺は聞こえている』
「すまないが、そこにタケル君はいるか?」
『いや、いない。あいつが壁に触れて、分断された』
「えっ、タケルったら、壁を触っちゃったの?!」
『ミコトが説明している時には、もう触っていたぞ』
クレナイの言葉に、ミコトは両手を胸の前で握りしめた。
「ミコトさん、心配なのはわかるが、今はそれどころではない」
「つばささん……」
「君の役目は、なんだい?」
つばさに問われ、ミコトははっとする。
「クレナイ君たちの、サポートです!」
「なら、今あなたにできることを、しっかりやりなさい」
「わっ、わかりました!」
そして、ミコトはパソコンを操作し、罠の確認をする。
「クレナイ君、そのまま進めば、つきあたりにボスの部屋があるわ!」
『了解』
クレナイに指示すると、ミコトはもう一度両手を握りしめる。
「タケル……どうか無事でいて……」
★★★
クレナイは、廊下を走り、つきあたりにあるボスの部屋を目指していた。
やがて、右側にドアがあるのを発見する。
「これだな。ミコト、罠の確認をしてくれ」
『罠はなさそうだけど、この四角い物は、なにかしら……』
「四角い物?」
首を傾げるクレナイだったが、しびれを切らしドアを蹴破る。
「どうやら、爆発はないみたいだ」
『ちょっと、中にタケルがいたらどうするのよ!』
「あいつの足なら、すぐ避けるだろ」
『まったくもう……』
ミコトは呆れながらも、画面を操作していく。
すると、何かに気づき首を傾げる。
『あら、おかしいわ』
「なにがだ?」
『そこには、誰もいないみたい』
「無人ということか」
『変ね……ここが最上階だから、ボスとタケルが一緒にいると思ったのに』
「一応、中を調べてみるか」
クレナイは、警戒しながら中に入っていく。
しかし、中はうす暗く、ピッピッという音が聞こえた。
クレナイが振り向くと、机の上にミコトが言っていた四角い物があった。
「ミコトが言っていたのは、これだな」
覗きこむと、それは爆弾だった。
しかも、タイマーは残り十五秒をきっていた。
「ちっ、時限式か……」
クレナイは振り向き、窓の方に走っていった。
すると、向かいのビルに、見覚えのある人物を見つけた。
「あいつ、あんな所に……そして、もう一人は……」
『クレナイ君、早くそこから逃げて!』
そして、爆弾は残り三秒になっていた。
★★★
「なぜ、僕は縛られているんだろう……」
「それは、君がマヌケだからじゃないかい?」
「あんたも失礼だな!」
あれから、タケルはどうなったかというと、勢いよく滑っていた。
「ぎゃあーっ、なにこれーっ!」
ジェットコースターのように、筒状の通路を滑っていく。
やがて、ある部屋に転がり出た。
「いてて……僕、こんなのばっかり……」
「やぁ、いらっしゃい」
タケルが顔を上げると、長身で茶髪の、バラを持った美男子が腰かけていた。
「あの、あなたは……」
「私はすり抜けのはやて。皆からは『ボス』と呼ばれているよ」
はやてはそう言うと、ポケットから一枚の紙を取り出した。
「会えた記念に、君にも私のブロマイドをあげよう」
「いえ、けっこうです!」
タケルが断ると、あっという間に縛られてしまう。
「君が断るから、こうなるんだよ」
「誰だって断るでしょ、あれを出されたら!」
「しかし、よくここに辿り着けたね」
「いや、壁を触ったらここに来たんですけど……」
「壁?」
「確かクルリと回って、滑っていたら、ここにいました」
話を聞いていたはやては、深いため息をついた。
「まったく、あの通路は封鎖しておけと言ったのに」
「まぁ、おかげであなたに会えましたけど」
どうせなら、クレナイと一緒がよかったなぁ……と、タケルは思っていた。
それに気づいたのか、はやてはくすりと笑う。
「助けを待っているのなら、それは無理だよ」
「えっ?」
「君のお仲間は、君を探して私の部屋に入るだろうね」
「……入ったら、どうなるんですか?」
「ドーンと、爆発するんだよ」
「なっ、それじゃぁ下の階にいる、ひなドールも危ないじゃないか!」
「それは安心していい」
「安心?」
「床は強化してあるし、爆発と言っても、人一人吹き飛ばすくらいだよ」
「なら、クレナイは……」
青ざめるタケルに、はやては近づき囁いた。
「残念だけど、彼には会えないよ」
それだけ言うと、はやてはタケルから離れた。
そして、高らかに笑いだす。
「私のブロマイドを切り刻むから、こんなあっけない最期をとげるんだ!」
「クレナイは、まだやられてなんかいない!」
「おや、まだ彼に期待をするのかい?」
はやては笑いながら、向かいのビルを指さす。
「彼は爆発に巻きこまれて死ぬ。それは決まっていることさ」
「クレナイは、必ずここに来る!」
タケルは、はやてから目をそらさず見つめる。
その目は、希望を失っていなかった。
「だって、彼は……」
タケルが言い終わる前に、向かいのビルの最上階が爆発する。
だが、それとほぼ同時に、タケルたちのいる窓ガラスも割れた。
「なにぃ?!」
ガラスを割って入ってきたのは、向かいのビルにいるはずのクレナイだった。
クレナイは涼しい顔で、タケルのそばに着地する。
そしてタケルは、まっすぐはやてを見つめこう言ったのだ。
「クレナイは、僕の相棒なんだから!」