07 蛇切り(じゃぎり)のシャーク
「ふふふっ、ようこそ第一の部屋へ」
「お前がここの担当か」
「そうよ、楽しみましょうね?」
「お前に構っている暇はない」
素っ気ない態度のクレナイに、女性は大げさに肩を落とした。
「あらぁ、でもここを通られると困るのよねぇ」
「どうしても通らないといけないんです!」
「お断りするわ」
タケルは必死に頼んだが、女性はキッパリと断った。
そして、刀を回し、妖艶に微笑む。
「あたしは、蛇切り(じゃぎり)のシャーク。ここを通りたければ、あたしを倒しなさい!」
シャークはそう言うと、持っていた刀を振った。
それは蛇のように動き、タケルたちに向かっていく。
クレナイは、持っていた鉄の棒で応戦する。
「あっ、クレナイ、ずるいぞ!」
「オレンジの坊やは後回しにして、まずはあなたからね」
シャークは、無防備のタケルに狙いを定め、また刀を振った。
「うわぁっ、おっと!」
しかし、タケルは避け続ける。
といっても、ギリギリなのだが。
「ちょっと、なんで当たらないのよ!」
さすがにおかしいと思ったシャークは、焦りながらより一層刀を振った。
だが、タケルに当たることはなかった。
「あれ、刀の流れが、手に取るようにわかる……」
その時、タケルははっとした。
「そうか、あの時!」
★★★
それは、タケルが特訓していた時のことである。
「いってーっ!」
「おいおい、そんなんじゃクレナイにおいていかれるぞ」
「だからって、ムチはないでしょ!」
「これは、君に必要なことなんだよ?」
ボロボロのタケルに、つばさは半笑いで手を叩く。
「ほらほら、しゃべっているとまた当たってしまうぞ?」
「ひぇーっ!」
容赦なく向かってくるムチを、タケルは半泣きで避け続けた。
三時間後、タケルの体力は限界を迎えていた。
「はぁ……はぁ……」
「だいぶ避けれるようになったみたいだが、今はムチだからこれだけですんでいるんだよ?」
「どっ、どういう意味ですか?」
「それは、後でわかると思うよ」
その時のタケルは、つばさの答えに首を傾げた。
しかし、その特訓がシャークとの戦いに役立っているのは、確かだった。
「そうか、刀の動きが、あのムチの動きとまったく同じなんだ!」
ようやく納得したタケルは、自慢げに笑った。
「これなら、余裕で避けられる!」
「甘くみられたものね……」
「だって、一度見ているもんねーっ!」
笑うタケルに、シャークは歯ぎしりをした。
だが、それもすぐやめ、微笑みを作る。
「なら、これでどう?」
「えっ?」
シャークは両手の刀を、タケルに向かって振った。
その行為に、タケルは驚きを隠せなかった。
なぜなら、それは特訓には、なかったことだからである。
だからタケルは、一瞬止まってしまった。
そのスキを、シャークは見逃さなかった。
シャークは不敵に笑い、タケルの首めがけて刀が向かってくる。
「俺を忘れてもらったら困るな」
刀が届く前に、素早くクレナイが間に割って入った。
「クレナイ!」
「しまった、もう一人いたんだったわ!」
「お前の敗因は、俺を仕留め忘れたことだ」
クレナイは、持っていた鉄の棒に、素早く刀を巻きつけた。
「くっ、棒が絡まって元に戻らない!」
「終わりだ」
焦るシャークの元に、クレナイは駆けだす。
それも、目にもとまらぬ速さで。
そして、その手にはスタンガンを持っていた。
「まっ、待って、話し合おうじゃないの!」
「話など聞かん」
クレナイは冷たく言い放ち、勢いよくシャークにあてた。
シャークは白目をむき、その場に倒れる。
「ふぅーっ、なんとか倒せたよ……」
「しかし、よくあれを避けれたな」
「あぁ、つばささんのおかげだよ」
「なるほど、それなら納得だ」
「なんで?」
「あいつは、少し先の未来が視えるらしいんだ」
「あっ、だから俺が狙われるのを知って、特訓したのか」
「まぁ、それが吉として出てよかったな」
「なにも知らなかったらと思うと、ぞっとするよ……」
少し青ざめているタケルを無視して、クレナイはシャークを縛っていく。
「よしっ、次に進むぞ」
「まだ、あんな人がいるのかな……」
「どうなんだ、ミコト」
『次の部屋にも、一人いるみたい』
「だ、そうだ」
「えーっ、僕、もう体がもたないよ……」
「文句言っていないで、さっさと行くぞ」
「まっ、待ってよ、クレナイ!」
先に進むクレナイに、タケルは慌てて後に続いた。
また階段をあがると、明かりがついていることに気づく。
「あれ、今度は明かりがついてる……」
「ミコト、今回爆発物はあるか?」
『それは見当たらないわ』
「了解。なら、相棒に開けさせる」
「ちょっと待て。こんな時だけ、相棒呼ばわりするなよ」
「別に構わないだろ」
クレナイは、言いながらタケルの背中を何度も押していく。
「だから、そんなに押すなっての!」
タケルがドアを開けると同時に、クレナイが強く押した。
そのためタケルは、床にうつ伏せでスライディングすることになった。
当のクレナイは、ゆっくり部屋に入っていく。
「お兄ちゃん、変わった入り方をするのね」
「お前が、この部屋の担当か」
クレナイが睨む先には、小柄で着物を着た少女が立っていた。