05 姉弟
タケルは頭をさすりながら、クレナイとともに家に帰った。
すると、家の前で、ミコトが辺りを見回しているのに気づく。
「姉ちゃん、ただいま!」
タケルの声に、ミコトは振り向く。
その顔は、とても心配している表情だった。
「タケル!」
ミコトはタケルに気づき、笑顔で駆け寄ってくる。
タケルも笑顔で迎える準備をした。
だが、微笑ましかったのは、ここまでである。
ミコトはタケルに近づくと、素早くおたまを取り出した。
そして、タケルの頭に、勢いよく振り下ろす。
カコーンという、軽い音が響き渡った。
「いってーっ!」
先ほど、クレナイから攻撃を受けた所に当たり、タケルは涙目になる。
ミコトはというと、おたまを握りしめ、その表情は怒りに変わっていた。
「説明がまだ途中だったのに、急に家をとびだすんじゃないわよ!」
「だからって、おたまで叩くことないだろ?!」
「これでも、足りないくらいよ。おたまでよかったと思いなさい!」
「おたま以外に、なに持ってくる気だよ!」
「だまらっしゃい!」
ミコトに怒られ、タケルは落ちこんでしまう。
それを見たミコトは、そっとタケルを抱きしめる。
「急にいなくなったら、心配するでしょ?」
「ごめん、姉ちゃん……」
「クレナイ君も、ごめんね。連れ戻してくれて、ありがとう」
「いや、任務のためだ」
「クレナイは、そういう奴だよな……」
「本当にねぇ」
二人が微笑みあっていると、横を黒ずくめの男たちが通り過ぎる。
その手には大きな箱や、機材を持っていた。
そして、なんの迷いもなく、どんどんタケルたちの家に入っていく。
「ねぇ、姉ちゃん」
「タケル、どうしたの?」
「僕たちを連れていった人たちが、ウチに入っていくんだけど……」
「あぁ、タケルたちをサポートするために、必要な機械を手配してくれたの」
「だっ、誰が?」
「もちろん、つばささんよ」
あっさりと答えるミコトに、タケルは口が開いたままになる。
「あの人は、僕らの家を改造するつもりじゃないだろうな……」
「あら、秘密基地みたいで楽しそうね!」
「まさかとは思うけど、リフォーム代とか請求されないよね……」
「それは困るわね……」
「心配するのは、そこなのか?」
タケルとミコトは、こそこそと話し始める。
そんな中でも、男たちは機材を運び続ける。
やがて運び終わると、整列して全員が声を出す。
「作業、終わりました!」
「はーい、ご苦労様でした!」
「では、我々はここで失礼します」
一人の男がそう言うと、全員一礼をした。
そして、車に戻り、走り去っていった。
「僕らの日常が、どんどん普通じゃなくなっていく……」
「まぁ、あきらめることだな」
「こういうことも説明したかったのに、タケル逃げちゃうんだもの」
「あれ、そうだっけ?」
「覚えていないの?」
ミコトが首を傾げると、クレナイがタケルを指さす。
「ミコト、安心しろ。こいつは忘れているだけだ」
「忘れる?」
「……強い衝撃を、脳に与えたからな」
「脳に?!」
ミコトは、慌ててタケルの肩を掴み、前後に揺すった。
それも、激しくである。
「タケル、あなた大丈夫なの!」
「いっ、今は姉ちゃんに揺すられて、大変だよーっ!」
「あっ、ごめんなさい……」
我に返ったミコトは、慌ててタケルの肩から手を離す。
解放されたタケルは、よろけながら家に向かっていく。
「とっ、とにかく中に入ろうよ……」
★★★
「じゃぁ、改めて説明するわね」
ミコトとタケルたちが向かい合っているのはリビングである。
しかし、その周りには、たくさんの機材が置かれていた。
「なんか、落ち着かない……」
「我慢しなさい。それで、敵のアジトなんだけど……」
タケルたちの前に地図を広げたミコトは、ある場所を指さす。
「隣町のこのビルにいることがわかったわ」
「意外と近いんだね」
「俺が潜入した時と、場所がかわっていないな」
「それも、なにかあるのかもね」
ミコトは地図をたたむと、時計に視線を移した。
今の時間は、午前八時である。
「潜入は、今日の夜八時よ」
「えっ、まさかの今日決行?!」
「やるなら、早めがいいのかもね」
「そんな、心の準備が……」
「だからそれもふまえて、各自準備しておくように、ですって」
「つばささん、無茶言うなぁ……」
「あいつは、そういう奴だ」
クレナイはそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。
そして、タケルの肩に手を置いた。
「それまで、俺と鍛練しておくか?」
「それじゃぁ、潜入する前に倒れちゃうよ!」
「あぁ、それもそうか」
「まぁ、時間もそんなに無いから、出かける準備だけしておきなさい」
「はーい……」
返事をしたタケルは、一度自分の部屋に戻るため、階段をあがっていく。
クレナイを追っている、ボスとの戦いが、だんだん近づいていた。