04 相棒、決定!
突然のつばさの発言に、タケルは困惑する。
「あっ、相棒ですか?」
「そうだよ。それに、君は足が速いそうだね」
「なっ、なんでそのことを……」
「私が話したのよ」
タケルが振り向くと、ミコトがのんきにお菓子を食べながら言った。
「しかも、『俊足のタケル君』って、呼ばれていたんですから」
「ねっ、姉ちゃん、それは言わないで!」
「ふむ、それなら任せてもいいかもしれないな」
「任せるって、なにを……」
「たとえば、囮とか、オトリとか、おとりとか……」
「囮だけじゃないですか!」
「仕方ないだろう。クレナイはなんでもできるんだよ」
つばさは、ちらっとクレナイに視線を向ける。
だが、また大げさに額に手を置く。
「しいてあげるとするならば、相手の感情を読み取れないことだけかな」
「……けっこう、致命的じゃないですか?」
「そうなんだよー。おかげでターゲットを怒らせて、自分が追われる身になるとはね」
「俺は悪くないぞ」
「おい、誰がしゃべっていいと言った?」
つばさに睨まれたため、クレナイは無視してお茶を飲み始める。
「あのぉー……」
すると、今度はミコトが少し手を上げる。
「どうしたんだい、ミコトさん」
「タケルはクレナイ君と組むとして、私はなにをしたらいいんですか?」
「君には、二人のサポートを頼むよ」
「でも、私仕事があるんですけど……」
「それなら問題ない。辞職は出しておいたから」
「なっ、なんでそんな勝手に!」
机を強く叩いたミコトに、つばさは無表情で近づく。
そして、耳元で囁いた。
「セクハラ上司に困っていたんだろ。やめるきっかけができて、よかったじゃないか」
図星をつかれたミコトは、なにも言い返せず黙ってしまう。
「姉ちゃん?」
いつも明るいミコトが黙ったのを見て、タケルはゆっくり近づく。
しかし、その空気を断ち切るように、つばさが手を叩いた。
「では、タケル少年。明日から特訓をしてもらうよ?」
「とっ、特訓?!」
「足が速いだけでは、クレナイの相棒はつとまらないからね」
「まっ、まだ了承したわけじゃなーいっ!」
「あきらめろ」
ズルズルと引きずられるタケルへ、クレナイの冷たい一言が放たれた。
それからタケルは、特訓を始めた。
弱音を吐きながらも、必死になって続けたのである。
疲れ果てたタケルに、つばさが近づいてくる。
「おや、意外と頑張っているじゃないかい」
「いっ……一応、頼まれたことですから……」
「これなら、家に戻っても大丈夫だね」
「えっ、家に帰れるんですか?」
「もちろん。だが、クレナイも一緒に住んでもらうことになるが」
「それでも、構いません。ありがとうございます!」
ほっとしたタケルは、クレナイとミコトを呼びに行く。
「あの真面目さが、クレナイにどう影響してくるか……」
つばさはそっと呟いたが、談笑しているタケルたちは気づかなかった。
その後、タケルたちは家に帰り、それぞれの部屋で寝ることにした。
そして、冒頭の朝のシーンに戻ってくる。
クレナイに抱きついていたミコトは、あることを思いだし離れる。
「あっ、そういえば、つばささんから、任務が入っていたわよ?」
「えーっ、僕に任務なんて無理だよ!」
「そんなこと言わないの」
ミコトは、スマホを取り出し、タケルに見せた。
「任務は、クレナイ君を追っている、ボスを倒すことよ」
「ぼっ、ボス?」
「そのアジトがわかったから、連絡してきたんですって」
そう言うと、ミコトはスマホの操作を始める。
その間、タケルの顔は、みるみる青ざめていった。
「そして、場所は……」
「やっぱり、相棒なんて嫌だよーっ!」
「あっ、タケル!」
ミコトが言い終わる前に、タケルは家を飛び出してしまう。
「まだ説明終わっていないのに、困った子なんだから……」
ため息をついて追いかけようとするミコトの肩を、クレナイは強く掴む。
「クレナイ君?」
「ミコト、お前は家にいてつばさの連絡を待て」
クレナイは、無表情のまま歩きだす。
「俺が行く」
★★★
タケルは、全速力で走っていた。
そして、家から少し離れた公園に入っていく。
「はぁっ、はぁ……思わず逃げちゃった……」
タケルは息を整えると、近くのベンチに座った。
「でも、僕にはボスを倒すなんて、無理だよー……」
すると、落ちこんでいるタケルの頭に、強い衝撃が走った。
「いったーいっ!」
「こんな所にいたのか、腰抜けめ」
「くっ、クレナイ?」
タケルが顔を上げると、ヨーヨーを持ったクレナイが立っていた。
少しの間、タケルは考えを巡らせる。
そして、勢いよくクレナイを指さした。
「ヨーヨーを、人に向けて使ったらいけません!」
「なんだ、いきなり……」
「いきなりは、あんただよ。痛かったじゃないか!」
「でも、悩んでいたことが、吹き飛んだだろ」
「あれ、そういえば僕、なんでここに来たんだっけ?」
「とぼけていないで、さっさと戻るぞ」
「わわっ、ちょっと待って!」
クレナイは、無言でタケルの手を引っ張った。
あまりに強く引っ張られたため、タケルはコケそうになる。
「あまり、強く引っ張るなよ」
「……ボスのことは、俺に任せろ」
「えっ?」
「お前が心配することは、なにもない」
クレナイの言葉はそっけなかったが、タケルは安心した気持ちになった。