最終話 僕たちの騒がしい日々
「もう、朝から驚かせないでよね……」
「ごめんよ、姉ちゃん……」
「ごめんなさーい……」
「すまん」
「ちょっと、皆で謝られたら、怒れないじゃない」
しょんぼりしているタケルたちに、ミコトは苦笑した。
「反省しているなら、もういいわよ」
「姉ちゃん、ごめんね……」
「もういいってば。でも、ヒヤッとはしたわね」
タケルは、少し気まずかった。
タケルが撃たれたことは、ミコトには秘密だったのだが、入院の時にバレてしまったのだ。
その後のミコトは、大変だった。
泣いて、怒って、生きていてくれたのにほっとして。
「秘密にされたのは嫌だったけど、タケルが無事でよかった……」
そんなこともあって、タケルたちは気まずかった。
「ほら、皆俯いていないで、朝ご飯食べましょう!」
そして食事が終わり、それぞれのんびり過ごしていた。
すると、ミコトの声が響いた。
「大変、夕飯の食材が足りないわ!」
「じゃぁ、僕が買ってくるよ」
「ダメよ、タケルは病み上がりじゃない」
「ずっと休んでて、体なまってるし、たまには動かさないと!」
「だったら、クレナイ君もついていって!」
「了解した」
そして、タケルとクレナイは買い物に出かけた。
★★★
「ふぅー、いっぱい買ったね!」
「少し買い過ぎな気もするんだが……」
「人数多いから、仕方ないよ」
買い物を終えた二人は、近くの公園の前に来ていた。
「クレナイ、ちょっと休んでいこうよ」
「そうだな。俺は飲み物買ってくるから、お前はここで座っていろ」
「うん、わかった」
ベンチにタケルを残し、クレナイは公園を出ていく。
自動販売機の所までくると、辺りを見回した。
「おい、近くにいるんだろ、出てこい」
「あいかわらず、ぶっきらぼうですね」
少し先の路地から現れたのは、アゲハだった。
「お前、生きていたのか」
「あら、死んだと思いましたか?」
「……スイゲツはどうした」
「スイゲツ様なら、生きていますよ」
アゲハの答えに、クレナイは目を見開く。
それが面白かったのか、アゲハは扇で口元を隠した。
「生きてはいらっしゃるんですが、記憶を失くしているらしくて……」
「記憶を?」
「えぇ、私たちのことはおろか、自分のことさえもわからないのです」
アゲハは口元を隠したままだったが、その目は悲しみに満ちていた。
「バロン様たちとは、あの後合流できたんですが、お二人ともショックを受けられたようで……」
「それで、お前たちはどうするんだ」
「もちろん、スイゲツ様と共に生きていきます」
「記憶を失くしているのにか?」
「たとえ記憶を失くしても、スイゲツ様はスイゲツ様です」
クレナイを見つめたアゲハの目は、決意に満ちていた。
その答えに、クレナイは微笑む。
「もし、お前たちがなにかを企むなら、俺たちが止めるから覚悟しろ」
「その時は、全力でお相手いたしますわ」
そしてアゲハは微笑み、クレナイに背を向けて去っていった。
クレナイも飲み物を買って、タケルの待つ公園に向かった。
★★★
「クレナイ遅いよーっ、なにしてたの?」
「いや、ちょっと並んでいてな」
「えっ、そんなに行列が?」
「それより、怪我の具合はどうだ?」
「すっかり元気……とまではいかないけど、だいぶ楽になったよ」
「そうか……よかった……」
微笑むクレナイを見つめ、タケルも一緒に微笑む。
「クレナイ、ちょっと変わったね」
「そうか?」
首を傾げるクレナイに、タケルは小さく頷いた。
「前は仏頂面で、笑うなんてしなかったもん」
「そうなのか……意識していなかったな」
「クレナイも、普通になってきたってことかな」
「ふむ……しかし、それだと戦う時に困るな」
「どうして?」
「感情を悟られては、戦いに支障が出るだろう」
「普段は、そんなこと考えなくていいの!」
「だが……」
「もう、せっかくクレナイが普通の男子になったと思ったのに!」
すねたタケルは荷物を持ち、クレナイに振り向く。
「ほら、帰るよクレナイ!」
「……あぁ」
クレナイは微笑み、タケルの隣に並んだ。
二人が家の近くまでくると、家の前に人影が見えた。
それは、ミコトとひなドールだった。
「あっ、お兄ちゃんたち帰ってきた!」
「二人とも、おかえりなさーい!」
タケルはミコトたちに気づき、大きく手を振った。
「行こう、クレナイ!」
タケルはクレナイの手を取り、ミコトたちの元に走っていく。
家に入ると、つばさやライラたちが集まっていた。
「どうしたんですか、皆さんお揃いで」
「いやぁ、タケル君の退院祝いをしていないと思ってね」
「つばささん、飲み過ぎですよ!」
「いいじゃないか、ミズキ。かたいこと言うなよぉ」
「つばささん、けっこう酔ってる……」
騒いでいるつばさたちに、タケルは呆れていた。
そしてミコトを見ると、苦笑いを浮かべていた。
「実は、タケルが起きる前に、つばささんから連絡がきてね」
「それで、ここに集合したと……」
「荷物が多かったのは、そのせいか」
「二人とも、買い出しご苦労だったねぇ」
「今回の主役は、お兄さんなのに……」
酔っぱらっている大人を見て、フウカはため息をつく。
タケルはというと、皆が楽しんでいるのがうれしかった。
こんな日が、いつまでも続いたらいいのにと、タケルは微笑みながら思った。
クレナイを見ると、微笑んで皆を見つめている。
クレナイもタケルに気づき、手を取って席に座った。
それからタケルの退院祝いは、次の日の朝になっても終わらなかった。
彼らの騒がしい日々は、これからも続いていく。
「ディープレッド」は、この話をもって、完結となります。
タケルやクレナイの物語にお付き合いいただき、
本当にありがとうございます!
また機会があったら、短編など書けたらいいなぁと思っています。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!




