20 迫りくる敵
「そこまでっ!」
つばさの声が聞こえ、タケルはほっとして胸を撫でおろす。
「やっ、やったー……」
だが、ほっとしたのも束の間、タケルの頭に衝撃が走った。
「ぐへっ!」
その原因は、戻ってきたブーメランが当たったからである。
タケルは奇妙な声を上げ、そのまま倒れ気を失った。
「あっ……ブーメラン、忘れてた……」
「ちょっと、タケルしっかり!」
慌てたミコトは、タケルに近づき体を揺すった。
すると、つばさがやってきて、ミコトの肩に手を置く。
「ミコトさん、大丈夫だよ。とりあえず、医務室に運ぼうか」
「じゃぁ、ライラ兄さんたち、呼んでくるね……」
フウカはそう言うと、まだ戦っているライラたちのところに走っていった。
★★★
「うぅ……ここは?」
しばらくして、タケルは目を覚ました。
「僕、さっきまでグラウンドにいたような……」
「フウカのブーメランが頭に当たって、そのまま倒れたんだよ」
「つばささん……それに、姉ちゃんとひなちゃんも」
「お兄ちゃん、やっと起きたね」
「もう、心配したのよ!」
ミコトは、目に涙を浮かべていた。
「倒れて、三時間も寝たままだから、どうしようかと思ったのよ」
「ごめん、姉ちゃん……」
タケルは体を起こし、ミコトを見つめる。
ミコトも、安心した様子で、タケルの手を握った。
「本当、目が覚めてよかったぁー……」
だが、和やかな雰囲気は、つばさの咳払いで終わった。
「しかし、タケル君よく勝てたな」
「えっ?」
「いろいろあったが、フウカの紙風船を割ったんだから、君の勝ちだよ」
「いや、あれはひなちゃんが、少し手伝ってくれたので」
「あぁ、あのハンマーだね」
「はい……あれがなかったら、僕は負けていました」
「でも、タケル見直しちゃった」
「えっ?」
「だって、おもちゃとはいえハンマーで強く女の子を叩いたら、どうしようかと思ったわ」
「それは、僕も気が引けたんだよね」
「あぁ、そうだった。あのハンマーだけどね……」
つばさが言いよどんだため、タケルは首を傾げる。
しかし、受け取ったハンマーを見て、目を見開いた。
「うわっ、なんだこれ!」
理由は簡単。そこに、小さな針がついていたからである。
「ひなちゃん、これはどういうことかな?」
「風船がちゃんと割れるように、針をしこんでおいたよ」
「こらっ、そんなことしたらダメでしょ!」
「ぶぅー」
タケルに怒られ、ひなドールは口をとがらせ、すねた表情になる。
「だって、そのままだと風船割れないじゃん」
「それは、そうだけど……」
「お兄ちゃん、きっと強く叩かないから、大丈夫だと思って」
「だとしてもさー……」
タケルたちが話していると、大きな音を立ててドアが開く。
入ってきたのは、ライラとフウカだった。
だが、ライラは明らかに怒っており、フウカはじっとタケルを見つめていた。
「強く叩いていたら、俺が容赦しないぜ」
「らっ、ライラさん?」
「しかも、そのハンマーには針がついているらしいじゃねぇか」
ライラは大股で歩き、タケルの近くまでやってくる。
そして、顔を近づけ強く睨んだ。
「それがフウカの頭に刺さったら、どうしてくれるんだぁ?」
「そっ、そう言われましても……」
「ライラ兄さん……」
フウカに呼ばれ、ライラはタケルから視線を移す。
「私は大丈夫だよ……だから、そんな睨まないであげて……」
「フウカがそこまで言うなら、仕方ねぇか」
「その握った拳で、一体なにをしようとしたんですか!」
「こらこら、言い合いはそこまでにしてくれ」
手を叩いたつばさに、全員の視線が向けられる。
「タケル君は倒れてしまったが、特訓はここまでとしようか」
「これも、なにかの役に立つのか?」
クレナイに問われ、つばさは小さく頷いた。
「おそらくとしか、今は言えないな。それと、タケル君」
「はっ、はい!」
「今度戦う相手は、君にとって辛いものになるかもしれない」
「えっ、なぜですか?」
「会えばわかるさ」
視線をそらしたつばさに、タケルは困った顔をして首を傾げた。
★★★
とある廃ビルに、数十人の不良が集まっていた。
不良たちは、飲み食いしながらしゃべっている。
「おやおや、ずいぶん賑やかですねぇ」
そこへ、巨体で筋肉質の男と、細身の男がやってきた。
「すみませんが、クレナイという男を知りませんか?」
「はっ、なんだお前らは」
不良の中の一人が、彼らを強く睨む。
その行動に、細身の男は口角を上げる。
「くくく……どうやら、口の利き方を知らないようですねぇ」
「おい、こいつらやっていいか?」
「えぇ、そうですねぇ」
「ふんっ、どこのどいつか知らねぇが、二人でなにができるんだよ!」
話していた不良が合図すると、他の不良たちが次々と立ち上がる。
その手には、鉄パイプや木刀を持っていた。
「やっちまえーっ!」
向かってくる不良たちを見て、男たちはまた口角を上げる。
「教えてあげましょうか。誰に戦いを挑んだかを……」
その戦いは、長くは続かなかった。
やがて、二人は不良の一人を連れて、廃ビルを後にする。
「まったく、マッスルはもう少し手加減を知りませんかねぇ」
「スリムだって、楽しんでいたじゃねぇか」
「それもそうでしたねぇ」
大笑いをする二人が去った廃ビルには、無残な不良たちの姿があった。