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02 クレナイ

 ビルの屋上から飛び降りてきたクレナイに、タケルは驚いて声を上げる。

「ひっ、人が落ちてきたーっ!」

「えぇ? 人ぉ?」

 タケルの声に、酔ったミコトは振り向く。

 だが、その頭上には、爆発で飛び散ったビルの破片が落ちてきていた。

「姉ちゃん、危ない!」

 慌てて駆け寄ろうとしたタケルだったが、それよりも先にクレナイが動く。

 素早くビルを蹴り、ビルの破片を足で粉砕した。

 それはもう、瞬きする間もなく一瞬、である。

 そして、一回転をしたクレナイは、ミコトの前に着地する。

 その華麗な動きに、タケルは見とれ、ミコトは拍手をした。

 すると、クレナイはミコトを抱え走りだす。

「あらぁ?」

「あっ、おい待て!」

 我に返ったタケルは、慌てて後を追った。

「こら、姉ちゃんをどこに連れていく気だ!」

「どこって、あそこにいたら危険だろ」

「危険なのは、あんただよ!」

「わぁーっ、速い速い!」

「姉ちゃん、喜んでいる場合じゃないよ、抵抗してよ!」

「えーっ、かっこいい殿方に姫抱っこされているのに、なんで抵抗しなきゃいけないのよぉ」

「というより、なんで俺と並走できるんだ、お前は」

「ふふん、足には自信があるんだよ」

 自慢気なタケルに、クレナイは冷めた目で見つめる。

 すると、はしゃいでいたミコトが先を指さす。

「あぁ、そこを右に曲がってちょうだい。そこがうちだから」

「姉ちゃん?!」

「いいじゃない。うちに寄ってもらいましょうよ」

 タケルは文句を言いそうになって、ぐっとこらえた。

 なぜなら、タケルは知っていたのである。

 ミコトが、あまり人の話を聞かないことを。

 クレナイとタケルが通りを走っていると、二階建ての赤い屋根の家が見えた。

 そこが、タケルたちの家である。

「あっ、ここでーす」

 陽気なミコトは、肩を叩いて知らせた。

 それに気づいたクレナイは、急ブレーキをかけて止まる。

 そして、そっとミコトを下ろした。

 ミコトはカバンから鍵を取り出し、ドアを開ける。

「さぁ、中に入って」

 促されたクレナイの肩を、追いついたタケルが強く掴む。

「まっ、待て……なに入ろうとしているんだよ」

「なにって、入れと言われたからだが」

「そうよ、タケル。お客様なんだから」

「姉ちゃん……本当にこいつ、うちに入れるの?」

 全力疾走したタケルは、さすがに息切れをしていた。

 だが、タケルの心配をよそに、ミコトはにっこりと笑う。

「もちろんよ。だって、私を助けてくれた王子様なんだもの」

「そんなぁー……」

「では、お邪魔する」

「こら……まだ、話は終わってないぞ……」

「お前はまず、その息切れをなんとかしろ」

「タケルも、早く中に入りなよぉー」

 マイペースな二人に、タケルはため息をついた。

「今のこの二人に、なにを言っても無駄な気がする……」

 観念したタケルは、仕方なく中に入った。

★★★

「じゃぁ、ちゃんと説明してもらおうか!」

「なんだ、藪から棒に」

「なんだじゃねぇよ。そして、なんでお茶を飲んでいるんだよ!」

「それは、そこの女が出してくれたからだが?」

 クレナイは、ソファーで寝ているミコトを指さす。

 ミコトは寝る前、お茶を用意していた。

 それをクレナイに出すと、糸が切れたように眠ってしまった。

 ため息をついたクレナイは、ソファーにミコトを寝かす。

 そこへ、息を整えたタケルがやってきたのである。

「理由はわかったか?」

「わかったけど、納得がいかない」

「わがままな奴だな」

「あんたが、気に無さすぎなんだよ」

 タケルは少しため息をついて、クレナイと向かい合わせに座った。

「それよりも、さっきは姉ちゃんを助けてくれて、ありがとう」

「はて、なんのことだ?」

「破片から、守ってくれたじゃないか。あそこにいたら、怪我とかしていただろうし……」

「あぁ、そのことか」

「本当に、わかっていなかったのか」

「まったく、気にしていなかったからな。それに……」

「それに?」

「あそこにいれば、俺を追っていた奴らに狙われるかもしれないからな」

「えっ、あんた追われているの?」

 タケルの問いに、クレナイは頷く。

「どうやら俺には、賞金がかかっているらしい」

 思いがけない答えに、タケルはお茶を吹き出す。

 だが、クレナイはそばにあったお盆でガードしたため、かかることはなかった。

「しょっ、賞金?!」

「そんなに驚くことなのか?」

「驚くに決まっているだろ。ゲームとかアニメじゃあるまいし……」

 タケルは顔を引きつらせたが、ふと先ほどのクレナイの動きを思いだす。

「いや、あの身のこなしは、ただ者じゃないなとは思っていたけど」

 静かにお茶を飲んでいるクレナイを、タケルはじっと見つめる。

 しかし、答えが出ないとわかると、手を叩いた。

「そっ、そうだ。まだ自己紹介してなかったな。僕は水島タケル」

 タケルは笑顔で手を伸ばす。

 クレナイは、少しの間動かずにいた。

 だが、ゆっくりと手を握る。

 しかし、次の言葉に、タケルは驚くことになる。

「……俺は、クレナイ。暗殺者だ」

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― 新着の感想 ―
色々と非日常的な事が立て続けに起きているのに、ミコト姉さんは全く動じていませんね。 酔った勢いかも知れませんが、この姉さんもかなりの大物です。
ミコトお姉ちゃんカワ(・∀・)イイ!!
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