13 ミコトのカレー
タケルたちが食堂に入ると、食欲をそそるカレーのにおいがした。
「あっ、いいにおい!」
「もうできますから、皆さん席についてください」
厨房では、ミコトとひなドールが食事の準備をしていた。
ミコトはカレーを、ひなドールはご飯をよそっている。
「おっ、ちゃんとお手伝いできてえらいなぁ、ひなドール」
「ふふっ、ひなはなんでもできるのよ!」
得意気なひなドールは、少し盛ったご飯を見つめ、ミコトを呼んだ。
「お姉ちゃん、これくらいで大丈夫?」
「そうそう、上手よ、ひなちゃん」
「おぉ、今日はカレーか。本当いいにおいだね」
「姉ちゃんのカレーは、すっごくおいしいんですよ!」
「ほぅ、そうかい」
「もう、タケルいいすぎよー」
「お姉ちゃん、なんかうれしそう」
タケルの発言に、ミコトは照れながら体をくねらせる。
しかし、その顔はうれしさでいっぱいという顔であった。
「あっ、黒服の方たちは、先に食べてもらっていますので」
タケルたちが振り向くと、大勢の黒服の男たちがカレーを食べていた。
そして、一斉に声を発する。
「ミコトさん、おいしいでーす!」
「はーい、おかわりありますから、遠慮なく食べてくださいねー!」
ミコトが手を振ると、全員「はーい!」と答えた。
まるで、合宿のようだなぁと、タケルは苦笑した。
「では、私たちもいただこうか」
「はい!」
タケルたちが話している間に、ミコトが人数分のカレーを並べていた。
タケルは席に着き、手を合わせる。
「じゃぁ、いただきまー……」
タケルがふと隣を見ると、クレナイはもう食べ始めていた。
だが、突然動きが止まり、目を見開いた。
「むむっ?!」
すると、クレナイは目にもとまらぬ速さで、カレーをがっつき始める。
それを見ていたタケルは、いつもと違うクレナイに驚いていた。
「あのクレナイが、無心で食べている……」
「ははっ、あたしを倒した男も、このカレーの前じゃ子どもみたいだねぇ」
タケルが声のした方を向くと、クレナイの前の席にシャークが座っていた。
シャークも、ミコト特製のカレーを食べていた。
「あれ、なんでシャークさんもいるんですか?」
「あたしは情報屋もやっていてね、情報を渡す代わりに見逃してくれるってさ」
「なるほど、それは助かりますね」
のんびり雑談をしていたタケルは、ある疑問が浮かんだため、つばさに尋ねた。
「そういえば、ボスを倒したから、クレナイの賞金は無しになったってことですか?」
「いや、あいつはボスではない」
しかし、タケルの疑問に答えたのは、クレナイだった。
タケルが振り向くと、もう皿にはなにもなかったのである。
「はやっ、もう食べたの?!」
「うむ、うまかった」
「あはは……でも、はやてさんは自分でボスって言っていたよ?」
「ボスの顔に変えて、俺たちの前に現れたんだ」
「なら、本物はどこに……」
「それを調べるのも、あたしの役目さ」
「シャークさん、頼もしいですね!」
「あまり相手を信頼しない方がいいぞ」
「えっ?」
シャークと親しく話すタケルだったが、クレナイの言葉に動揺する。
クレナイは腕組みをし、無表情でシャークを見つめる。
「俺たちの世界では、裏切りは日常だからな」
「蛇切りだから、裏切るとでも?」
「違うとは言い切れんだろ」
二人は火花を散らすように、強く睨み合っていた。
明らかに雰囲気が悪い二人に、タケルは慌てて止めに入った。
「ちょっとちょっと、ここで戦いはやめてよね!」
「ふんっ」
「大丈夫だよ、タケル君」
「つばささん?」
「ここは戦闘禁止エリアだからね。クレナイもわかっているよ」
「そっ、そうなんですか」
「あぁ。それと、ミコトさん、ごちそうさま!」
「あれっ、もう皆食べ終わってる?!」
「タケル、早く食べてしまいなさいよ?」
周りが片づけを始めていたので、タケルは慌ててカレーを食べることとなった。
★★★
「ふぅー、なんとか間に合ったぁー……」
「もう、そんなに急いで食べなくてもよかったのに」
「急がせたのは、姉ちゃんだろ!」
「私は知らないもーん」
可愛くそっぽを向くミコトに、タケルは呆れていた。
「じゃぁ姉ちゃん、そろそろ俺たちは家に帰ろうよ」
「そうだね。つばささん、構わないですか?」
「いいよ、君たちの家なんだからね」
「お兄ちゃんたちの家、楽しみ!」
片づけを終えたひなドールは、家に行くことにはしゃいでいた。
その様子に、タケルはほっとして微笑む。
そして、ひなドールの頭を優しく撫でた。
そんなタケルを、クレナイは腕組みをして見つめていた。
しばらくすると、つばさがやってきて、タケルに近づいた。
「家に帰るのはいいが、外に出る時は気をつけるんだよ」
「えっ、どうしてですか?」
「嫌な予感がしているんだよ」
つばさの顔は、いつになく真剣なものだった。
そして、タケルの肩に手を置く。
「もしヤバいと思ったら、逃げることをおすすめするよ」
「僕、またなにか危険な目にあうんですか!」
「大丈夫、一人で行動しなければいいことだ」
はっきり言ってくれればいいのになぁと、タケルは不安でいっぱいだった。




