01 命がけの起床
ある穏やかな朝、外では小鳥たちが楽しく飛び回っていた。
そして、とある家の赤い屋根にとまり、羽の手入れを始める。
その下の部屋の窓にはカーテンがしてあったが、少し開いていた。
その中はうす暗く、カーテンのすき間から朝日がさしこんでいた。
それはまるで、寝ている人物を起こすかのように当たっていた。
「タケルーっ、そろそろ起きなさーいっ!」
「うーん……まだもうちょっと……」
部屋で寝ている彼の名前は、水島タケル。
この家の住人である。
タケルは、寝返りをうって声を無視する。
『ジリリリリーッ』
だが、追い打ちをかけるように目覚ましが鳴り響く。
「うぅ……うるさい……あと五分だけぇ……」
もそもそと、タケルは手を伸ばし、目覚ましを止めた。
「ふぅー……おやすみなさーい……」
二度寝のため、布団を被ってタケルは眠り始める。
しかし、部屋のドアが開く音が聞こえ、うっすらと目を開けた。
「おい、なに止めているんだ。二度寝は許さんぞ」
地の底から聞こえるような低い声に、タケルは驚いて目を見開く。
その視界に、キラリと光る物があった。
それは鉛筆であり、勢いよく布団に突き刺さる。
しかも一本ではなく、何本も。
「ぎゃあぁーっ!」
タケルは突き刺さる瞬間、慌てて布団から抜けだしていた。
そして、ボサボサの頭を振り、今の状況を把握しようとする。
「あっ、危ないだろ、クレナイ……文房具は武器じゃないぞ!」
「お前が、いつまでも起きないからだろう」
タケルを鉛筆で起こそうとした彼は、クレナイ。
小柄で、短髪の髪はオレンジであり、赤い瞳をしている。
「それにしても、もうちょっと優しく起こしてくれない?」
「なんだ、それで起きるのか?」
「いや、起きれる自信はないけども」
無表情のクレナイは、両手に三本ずつ鉛筆をセットする。
「おいおい、一体何本鉛筆持っているんだよ!」
「敵に教えるつもりはない」
「敵じゃねぇよ、この家の住人だし」
タケルは慌てて手を振るが、クレナイは動かない。
ただタケルにわかるのは、クレナイの殺気だけである。
やがて観念したタケルは、両手を上げてお手上げのポーズをとる。
「はいはい、わかりましたよ。起きますよ!」
「ふんっ、つまらんな」
クレナイは、鉛筆を回しながら淡々と話す。
「もっと、試したいことがあったのに」
「こらっ、僕でなにを試す気だ!」
「知りたいか?」
「……いや、やめておくよ」
タケルはため息をつくと、目覚まし時計に目をやった。
「まだ六時半じゃないか。もう少し寝てても……」
「構わんが、もし寝れば、明日はないと思え」
クレナイはそう言うと、両手に先のとがった鉛筆を持ち、戦闘態勢に入る。
「待て待て待て、冗談だから!」
「冗談?」
「そう、だからその物騒な物をまずしまえ」
「ふんっ」
「すねるなよ。自分の命の方が、大事だし」
そして、タケルは伸びとあくびをして、クレナイに振り向く。
「それに、あんたに起こしに向かわせたのは……」
「はーい、あたしでーす!」
「ミコト姉ちゃん……クレナイに頼まないでよ……」
「えーっ、いいじゃない。どうせ暇なんだし」
ドアから顔を覗かせた彼女は、水島ミコト。
彼女はタケルの姉であり、クレナイに起こしに行かせた犯人である。
「ミコト、暇とはなんだ」
「あぁ、ごめん、気を悪くしちゃった?」
「……別に」
「ほらぁ、姉ちゃんがこき使うから、クレナイ怒っちゃったぞ」
「えーっ、クレナイくーん、怒っちゃやーよ!」
「……お前ら、なんで普通にしていられるんだ」
なぜ、彼らが一緒に住んでいるのか。
それは、三日前にさかのぼる。
★★★
その日、タケルとミコトは居酒屋で食事をしていた。
「ありがとうございましたー」
「いやぁ、けっこう食べたわねぇ」
「姉ちゃんは、少し飲みすぎだよ」
「いいじゃーん、今日仕事でむかつくことがあったのよぉー……」
「それは、さっき店でも聞いたよ」
「タケル、つめたーい!」
呆れるタケルに甘えていたミコトだったが、すぐ何かを見つけ離れた。
「あっ、ここ近道だから通ろうよ」
「えっ、でもけっこう暗いよ?」
「大丈夫、お姉ちゃんに任せなさーい!」
「姉ちゃん、かなり酔っぱらってる……」
「さぁ、レッツゴー!」
ふらふらのミコトが先に進んだため、タケルも慌てて後を追った。
そこは街灯も少なく、とてもうす暗かった。
「姉ちゃん、やっぱり明るい所通ろうよ……」
「大丈夫よぉー、ここの通りを抜ければすぐだからぁー」
「ほっ、本当かな……」
タケルが不安に思っていると、隣のビルの屋上から爆発音が聞こえた。
「えっ、なに?」
音に驚いたタケルは、屋上を見上げる。
すると、飛び降りてくる人物と目が合った。
その人物というのが、クレナイである。
これが、クレナイとタケルとミコト、三人の出会いだった。