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召喚系配信者と味方系ヒロイン

 「⋯⋯ごめん、またせた」


 「え? いや、全然待ってないよ」


 俺は1時間前に来たのに、それよりも前に待ち合わせ場所にいた咲夜。

 果たして待っていないのか?

 水色のワンピースに身を包んだ咲夜。

 風がスカートと長い銀色の髪を靡かせる。


 「咲夜⋯⋯」


 「う、うん」


 俺がジロジロと服装を見ていたせいで、目を逸らされる。

 照れている様子だ。

 だが、俺にはそれよりも気になる事がある。


 「どうして待ち合わせなんてしたんだ? 家隣だろ?」


 俺はどうしても気になった事を質問した。

 すると、先程の可愛らしい反応から一転して無の笑みを浮かべた。

 刹那、横腹を軽く小突かれる。


 「他に言う事あるでしょっ!」


 「す、すまん」


 「ほら、言ってみなさい」


 ふんす、と手を腰に持って行く咲夜。

 何を言うべきなのか⋯⋯。


 「⋯⋯俺、最近学校行くようになったんだ」


 「え? そうなの! 言ってよそれ! 心配してたんだから⋯⋯良かった〜」


 自分の事のように喜んでくれる事に嬉しく思う。


 「⋯⋯で、言う事は?」


 違ったか。


 「ほら、デートのテンプレ。オタクなら分かるよね? ほれほれ」


 デートなのか?

 そう言われると変に意識しそうになるから止めて欲しいな。


 「服を褒めろと言われても、咲夜なら何着てもいつでも似合うし可愛いからな⋯⋯難しいぞ?」


 「⋯⋯そう。もう良いや。期待した私が馬鹿でした! ほら行こ!」


 大きな声で早口で捲し立てられ、歩いて行ってしまう。

 耳まで赤くしている。怒ったなこれは⋯⋯もっと他に言い方を考えた方が良かったかも。

 素直に自分の考えを言っちゃいけないな。


 反省しながら俺は咲夜の2歩後ろを歩く。

 すると、ギロっと振り返る咲夜。


 「なぜに隣を歩かない?」


 「並ぶと迷惑かなって」


 「はぁ? 迷惑って思うなら誘う訳無いじゃん。⋯⋯私は隣を歩いて欲しい、ダメ?」


 「ダメ⋯⋯じゃない」


 しかし緊張するんだが⋯⋯。


 そう思っていたが昔を思い出す。

 昔は4人で色んなところに冒険して、遊んだりしたな。

 その時、俺の隣には良く咲夜がいた⋯⋯気がする。


 思い返せば、決して緊張する状況じゃない。

 昔と違って、女の子っぽくなったり良い匂いしたりとか色々と大人になっているけど変わらないのだ。

 ⋯⋯人数以外は。


 「⋯⋯ふぅ」


 心が落ち着いた俺は咲夜の隣を歩く。


 「⋯⋯本当にデートみたいだね」


 「止めろマジで」


 「え〜なんで〜?」


 咲夜はいたずらっ子のニヤニヤ笑みを浮かべて追撃して来る。

 俺は咲夜の視線から逃れるように顔を動かし、言葉にする。


 「意識すると⋯⋯緊張する」


 「⋯⋯ッ! 意識⋯⋯してくれるんだ。ふふ」


 「なぜ笑う」


 「いーや。玖音も男の子だなーって」


 「なんか恥ずいな」


 「えへへ。なーんで?」


 そんな風にからかわれ続けて目的地に到着した。

 ショッピングモールで行われるヒーローショーだ。

 怪人を戦隊ヒーローが倒すお約束のモノ。


 男の子から女の子まで、年少の子供達に人気である。

 怪人とレッドが戦っているシーンで熱くなる会場で一際目立つ少女がいる。


 「うおおお! 頑張れええレッドおお! 負けるなあああ!」


 何を隠そう咲夜である。

 周りの人の視線をヒーローよりも集める。

 ルックスの良さはもちろん⋯⋯ヒーローショーに対する熱量でも目立つ。


 周りにいる子供達も気圧され咲夜を呆然と見上げる事しか出来ていない。

 咲夜は昔からヒーローが好きでヒーローを夢見ている。

 デート感はもう無いな。うん。


 「何やってるの! もっと応援しないとレッド負けちゃうよ! ほら、もっと声出して!」


 JK2年生、少年少女を鼓舞する。

 咲夜に鼓舞された子供達の声援も加わり、ヒーローショーは大盛り上がりだ。


 ヒーローショーが終わると、ハンカチで汗を軽く拭きながら咲夜が戻って来る。

 声援だけで汗をかいたのか⋯⋯凄い熱量だ。


 「いやー熱かったね〜」


 「咲夜は熱くなり過ぎだな」


 ヒーローさんがチラチラと咲夜の方を見てたぞ。

 それだけ目立っていたんだ。

 傍から見たら1番目立っていたのは咲夜だ。


 「えへへ」


 なんで照れてるのさ。

 褒めてる要素あったかな?

 あったなら今後気をつけよう。


 「それで、次はどうする? 帰る?」


 「何、帰りたいの?」


 咲夜の目が鋭くなる。

 俺は慌てて弁明する。


 「そう言う訳じゃない。誤解しないでくれ」


 咲夜と何すれば良いか分からないだけだ。


 「そろそろ新しい服が欲しくてね。一緒に服選んでよ」


 「ん? なんでも似合うんだからなんでも良いだろ」


 「玖音のクーズ」


 「え?」


 酷い。


 「ふふ。半分冗談。玖音がいっちばん良いと思ったのを選んでよ」


 半分本気で俺をクズと言った咲夜に引っ張られ服屋に向かった。

 色々な服を自分に重ねて似合ってるか聞いてくる。

 全てに「似合ってる」と言っていたらジト目をされた。


 似合ってるボットになった俺が服屋から解放されたのは3時間後だ。


 俺は両手を広げて空間の広さを実感する。


 「素晴らしい解放感だ」


 「そんなに私と服屋は窮屈か」


 「最初は楽しかったけど⋯⋯長時間は精神的かつ肉体的に辛い」


 「あ、最初は楽しかったんだ。良かった」


 口角を上げて微笑む咲夜。

 その笑みはこんな俺でもドキッとする程に可愛かった。


 昼ご飯を食べる俺達。

 昼食後はゲーセンやカラオケで遊び、晩御飯を食べた後に家に向かってゆっくり歩いて行く。


 「俺のリアルは充実していた⋯⋯」


 「急にどうしたの?」


 「いや、綺麗な星空を見ているとそう思ってな」


 「はぁ」


 不思議そうに思っているだろうな。

 俺も不思議に思う。


 ゆっくり喋らずに歩くだけでも、時間を共有している気がする。

 それだけで心が落ち着く。


 ゆったりとこの時間を楽しんでいると、咲夜が俺の顔を覗き込んで来る。

 咄嗟の事で驚き、足を止める俺。


 「どうしたの?」


 「玖音さ、今日何かずっと悩んでた?」


 「なんで?」


 「何となく。何かあるなら教えてよ。相談に乗れるかもしれないからさ」


 俺は数秒躊躇った。

 だが、咲夜の言うまで逃がさないと言った鋭い視線に白旗を早々に上がる。


 「俺は⋯⋯確かに悩んでる」


 どう話したものか。


 「大変な状態にいる子がいるんだ。その子は危険に気づいていなくて幸せそうなんだ。俺のエゴで助けるべきかどうか⋯⋯悩んでる」


 咲夜は間を開けずに言い放つ。


 「見捨てても良いんじゃない?」


 「えっ?」


 俺が素で驚いた事がよほどおかしかったのか、腹を抱えて笑う。

 一通り笑った後、深呼吸して真剣な顔になる。


 「玖音が助けたいと思うなら助ければ良い。思わないなら無視すれば良い。玖音の選択でどんな結果を招こうと玖音は悪くない」


 1歩、間を詰めて来る。

 咲夜の瞳に反射する俺が見えるくらい、彼女のほんのり甘い香りが届くくらい、近い距離。


 「世界が玖音の敵になっても、私は味方。私だけは絶対に玖音の味方だから。だから、君の好きにすれば良い」


 「⋯⋯ッ!」


 俺は⋯⋯どうしたいんだろうか。


 ⋯⋯⋯⋯良し。


 俺は決めた。


 覚悟は決まった。


 「ありがとう、咲夜」


 「どういたしまして」


 「でも意外だった。咲夜なら、助けるべきだって即答すると思った」


 なんたって彼女はヒーローに憧れる人だから。

 ヒーローならどんな人でも絶対に助ける。

 その正義の心がある。


 俺は昔から、その心を突き通す咲夜がカッコイイと思っていた。

 だからそんな彼女をバカにした奴らと喧嘩をした事もある。


 本当に⋯⋯意外だった。


 「玖音は私を理解してないね」


 「と、言うと?」


 咲夜は俺から3歩程距離を開ける。

 くるりと振り返り、俺に向ける妖艶な笑み。


 「ヒーローだってね、時には女の子になりたいんだよ」


 「⋯⋯女の子?」


 「うん。普通の女の子みたいに可愛くオシャレしたり、ヒーローに守られたり。時には恋なんてモノに振り回されたり⋯⋯そんな、普通の女の子」


 俺は言いかけた言葉を飲み込み、考え後に言葉を出す。


 「なんだよ、それ」


 「ふふ。ナイショ」


 笑みの真ん中に人差し指を置いて、上目遣い。

 きっとそれは彼女の思う普通の女の子がする行為なのだろう。


 「帰ろ玖音。妹ちゃん2人が待ってるぜ」


 白い歯を見せて笑う咲夜⋯⋯それがきっと、ヒーローの笑み。

 カッコイイ、俺が憧れたヒーローの咲夜。

 ()()()()()()()()ヒーローとしての一面。


 「⋯⋯そうだな。帰ろうか」


 俺にはまだ⋯⋯覚悟が足らない。

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