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召喚系配信者、部活に入る⋯⋯かも

 「俺、学校、行く」


 「まじかー」


 凛に対してカタコトの説明をした俺。

 凛は心の底から驚き、茜は嬉しそうに弁当を差し出して来る。


 「兄貴が学校に行くなんていつ以来? 制服似合ってねぇ」


 お前を助けるために既に行ってんだよ! ⋯⋯とは口が裂けても言えない。茜にも言えない。

 制服が似合わないのは仕方ない。


 「そんな事無いよ。お兄さんの制服姿はとても⋯⋯」


 「茜、良いんだ無理しなくても」


 俺が諭すと、茜は飛び出さないか心配になるくらいに大きく目を見開く。


 「無理なんて⋯⋯」


 早口で弁明しようとするが、俺がそれを手で止めた。

 言わせる必要は無いだろう。


 美人は何を着ても似合うが、俺のような奴はどんなのを着たって誰も興味を示さないのさ。


 俺は茜達を送り出してから、後から学校に向かう。

 俺は2人の兄と言う事を学校に知られたくないのだ。

 恵まれたルックスの持ち主の2人だ。俺がそれを貶しては良くない。


 「マメ、戸締りよろしくな」


 「わん!」


 俺は学校に向かう。


 校門前、俺はそこで楽しそうに会話している男女に意識を向けてしまった。

 バレないように過ぎ去ろうとするが、それは相手が許さなかった。


 「くーくん!」


 涼子が俺の元へとてとてとやって来る。

 その後ろで微笑ましそうに見ているのは海斗だ。

 海斗の本性を知っている俺はいたたまれない気持ちになる。


 「学校来てたんだね!」


 「あ、ああ」


 「⋯⋯この前はごめんなさい! とても失礼な事をした。非常識だって、思う」


 この前⋯⋯この前⋯⋯ああ、あの時か。

 凛の事ですっかり忘れていた。⋯⋯もしかしたら忘れようとしていたのかもしれない。


 「だ、だい、じ、ぶ」


 上手く言葉が出せない。


 「じ、じゃっ」


 俺は走って教室に向かった。

 あのまま居ては心がどうにかなりそうだったからだ。

 微かに見えた海斗の嘲笑う笑みが頭にこべり着いて離れない。

 

 教室に入ると、全員の視線が一度俺に向かってから、すぐに各々の会話が始まる。


 その中でちらほら、「来たんだ」「誰だっけ?」「あんな奴いた?」などの声が聞こえて来る。

 言葉にはしないが、まるでおもちゃを見つけた子供のような視線を向けて来る奴もいた。

 本当は来たくなかった。


 でも、一度来てしまった手前元の生活に戻るのは気が引けた。

 茜の楽しそうに弁当を作る姿を見てしまっては⋯⋯俺に不登校の選択肢は無くなった。

 教室に馴染めなかったらまた特別室での勉強に戻る。


 全く付いて行く事の出来ない授業を終え、学校の終わりを告げるチャイムが鳴る。

 このまますぐに帰っても良いが、涼子と鉢合わせるのは困る。

 あの人なら俺を待ち伏せていても不思議じゃない。


 「適当な場所で時間を潰すか」


 学校に来て早々に問題事は流石に起こしたくなかったのか、俺は平穏な一日を過ごせたと思う。


 さて、時間を潰すと決めたからにはどこでどう潰すか考える必要がある。

 一瞬、マメを呼んでさっさと帰るかと血迷ったが流石に抑えた。

 誰かに見られたくない。


 ぶらぶらと廊下を歩いていると、部活の掲示板を発見した。

 そこに俺が気になる広告を見かけた。

 スポーツとかでは全く無く、その広告は『迷宮部』と言う触れ込みだった。


 「ダンジョン活動する部活とかあるのか」


 俺が1年の時には無かったぞ。多分。

 学校側も良くこれを了承したな。

 ⋯⋯まぁ、他の学校では全然あってうちはかなり古いと言われていたし、これが普通の流れなのかもしれないな。


 俺には関係ないと立ち去ろうとしたら、背後から元気の良い明るい声が響く。


 「先輩! 迷宮部のチラシを見ていた先輩!」


 もしや俺か?

 2年生だし後輩は存在するだろう。

 ⋯⋯面倒そうなので無視する事にしよう。


 俺が歩く速度を上げると、回り込んで両手を広げて来た。

 通せん坊でもしているのだろうか?


 明るい声のイメージに似合うギャルな1年生だ。

 直視する事さえ俺には厳しい陽のオーラを持っている。

 関わりたくない。


 「先輩迷宮部に興味ある? ダンジョン行った事ある? 資格は!」


 「えっと⋯⋯」


 「ある? ねぇ、ある?!」


 グイグイ聞いてくるなこの子。

 俺は顔を上下に動かす事しか出来なかった。

 ⋯⋯あれ? これって素直に答えて良かったのか?


 「マジ?! ちょっと来てよ!」


 「え、待っ」


 強引に俺の腕を引っ張ってどこかに向かう。

 十中八九迷宮部だろうが。


 「アタシの名前は袴田(はかまだ)希空(のあ)。希空って呼んでね。先輩の名前は?」


 「えと⋯⋯さ、西条⋯⋯」


 「おっけ! 自己紹介終わり! これでアタシら友達だかんね。西条パイセン、ようこそ迷宮部へ!」


 早い。

 部室に着くのも早いが俺が入ると思うのも早い。

 そして友達になるのも早いっ! 色々と早いっ!


 ガララとスライドドアを開ける。中には2人の男女が既にいた。

 スポーツが得意そうな男とメガネを掛けた希空とは対象的な女だ。

 男は同級生、女は後輩なので希空と同学年となる。


 「おい希空、強引に連れて来ただろ」


 男が希空に詰め寄る。


 「人聞きの悪いな。ちゃんと承諾は得たって」


 え?

 俺っていつの間にOK出してたの?

 俺ってバカだがら忘れているのかな? ⋯⋯そんなバカな。


 「紹介するよ! さっきチラシを羨ましそうに見ていたパイセン、西条先輩です!」


 そんな風に見てたっけ?


 「⋯⋯あ、ど、どうも」


 ぺこりと頭を下げる。


 「そんでこの人がアタシの彼氏の山田武尊(やまだたける)


 「よろしくな西条」


 呼び捨て!


 「この子はアタシの幼馴染で親友のもっちゃん。もっちゃんって呼んであげてね」


 「え、ええ!」


 もっちゃんはアワアワとし出す。

 距離感バグってるだろ。


 俺は助けを求めるように山田に視線を向ける。

 山田は空気を読む事が出来るのか、説明してくれる。


 「この子は花園百恵(はなぞのももえ)だ。そして俺は剣を使ったスキルを所持しているから一応剣士をやらせて貰っている」


 「アタシはヒーラーね。どんな怪我も治しちゃうよ!」


 「わ、私は⋯⋯えっと⋯⋯その」


 なんか親近感が湧いて来る。


 「もっちゃんはシーフなんだよ! そしてこのチームのリーダーなの! アクロバティックな動き凄いんだからね!」


 「ほ、褒め過ぎだよ⋯⋯」


 照れているもっちゃん⋯⋯じゃなくて花園さん。

 そして3人の視線が俺に向く。


 あ、俺の番っすか。


 「えと⋯⋯しょう」


 「召喚士! もしかして後ろから攻撃してくれる召喚獣いる? アタシらのチーム後衛アタッカーがいなくて困ってたんだよ!」


 早い早い。

 最後まで人の話を聞いてくれギャルっ子よ。


 「うん」


 そして俺、説明を諦めてどうする!


 「⋯⋯希空が無理やり連れて来てないか? 嫌なら嫌だって言ってくれて良いんだぞ? 仲間になってくれたらありがたいが」


 「え、一緒にやってくれないの?」


 希空がうるうるとした視線を向けて来る。

 だが俺にはそんなの通じない。久遠じゃなくても通じない。


 なぜなら⋯⋯失礼ながらぶっちゃけ茜や凛の方が可愛いからだ。

 耐性があるんだよ。


 だから俺が出す答えは。


 「よろしくお願い⋯⋯します」


 「やった!」


 言い訳させてくれ。

 断るのがなんか心苦しいとか思った訳じゃないぞ?

 ただ、誰かと一緒にいれば涼子達から話しかけられる心配が無くなると言う打算的な考えが⋯⋯。


 ⋯⋯それはそれでダサいな。


 「うっし。そんじゃ早速ダンジョンに行くとするか。西条のレベルっていくつだ?」


 レベルを素直に答えたらまずいか⋯⋯猿共のレベルを参考に低めを言えば良いか。


 「51」


 「高っ!」


 え?


 「俺とタメでそんなに高いのか⋯⋯こりゃあバランスが逆に怪しくなって来たな」


 なんか評価がおかしい。


 「ちなみに俺は21、希空が13、花園が15な」


 まじか。

 高校生のレベルってそんな感じなのか。

 全く知識が無くて無駄に高い数字を言ってしまった。


 ギルドにやって来た。

 ダンジョンに入るには受付を通す必要がある。

 最初から久遠として入れていた訳じゃないので、普通に問題は無い。


 ただ⋯⋯少し不安がある。

 俺はダンジョンはゲームの世界と言う感覚を持っていた。

 リアルと切り離し全く違う別の世界だと思って今までダンジョンに入っていた。


 それがいきなり、リアルのままダンジョンに飛び込む。

 最初はそうだったが、慣れとは恐ろしいもので少し恐怖を感じる。

 久遠じゃなきゃ落ち着かない。


 ⋯⋯でも、何かが変わる大きなきっかけになるかもしれない。

 だから俺はこのままこの人達とダンジョンに行く⋯⋯。


 「西条パイセン、よろしくね!」


 「これからよろしく西条」


 「よ、よろしく⋯⋯お願いします」


 変わる最初の1歩。


 「よ、よろしく、おねぎゃい⋯⋯」


 最初の1歩で骨折した。

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