召喚系配信者、人選ミスはお手の物
凛のゴタゴタを片付けて数日後、俺は新たな企画を進行していた。
思いついた理由は何となくで、突発的に『鬼ごっこ企画』がしたいと思ったのだ。
決して、推しのルージュ様が仲間内で鬼ごっこのゲームで遊んでいた事に影響された訳じゃない。
《ルージュ様に影響を受けた久遠ちゃんの壮大な鬼ごっこ楽しみ!》
《逃げ切れば50万とか、抽選当たった人羨ましいんだけど》
《頑張れ! 特に逃げる側頑張れ!》
《ルージュの動画を見たんだね(微笑み)》
何故かコメントで勘違いしている人が続出しているようだ。
実に不愉快だね。
「違うよ。たまたまそんな時期にやりたいと⋯⋯」
《【ルージュ〆公式】え、違うのかい? 少し残念だな》
《まさかのご本人登場w》
《推しに観られる久遠ちゃん》
《やべぇww。神回確定だろww》
「違いません! ルージュ様の楽しそうな会話で私もやりたいと思ったのです!」
俺はカメラの前で土下座した。
外聞なんて気にしない。
推しを悲しませるのは、推す人として有るまじき行為だ。
たとえ、マメに軽蔑の眼差しを向けられても俺はこの土下座を止めない。
「ごほん」
わざとらしく咳払いする。
「ルールの詳細を説明します。まず、この鬼ごっこはダンジョン300階層にて行います」
モンスターの危険性は無いと言って良い。何故ならルミナが率いる精鋭が守るからだ。
モンスターはリスポーンする度に狩られる運命となる。
「制限時間は6時間、逃げる側は100人、鬼はこちらの召喚獣を1名ご用意し、逃げる方は全員視聴者となっております。なお、これはサイトのルーレットを使って抽選させて頂きました! 今回も沢山の応募ありがとうございます! また次のチャンスがあるから、当たらなかった人はめげずに挑戦してね!」
次に俺は大量に積まれた魔石にカメラを向ける。
「今回、逃げる側が1人でも逃げ切れたら、参加者全員に50万円分の魔石をプレゼント致します!」
《総額5000万円!》
《登録者が10万人前後のやる企画じゃねぇ》
《魔石と言う物から考えるに換金するのが面倒くさいと見た》
《流石に壮観だな》
《1つ10万くらいかな?》
《まず、その数をどうやって集めたし》
《魔石ってダンジョンの中で放置していると消えないっけ?》
《今更考えても仕方ないか》
「そして今回、鬼はクルックです!」
瞬足兎と言う種族だ。
見た目は白いウサギだが、下部がやけに発達している。
「今回はマメに弱い召喚獣と言う条件で推薦して貰いました! きっと良い勝負が出来るはずです!」
《凄い! なんて信頼出来ない言葉なんだ!》
《ここまで心に響かない言葉があるとは》
《そっか。マメの推薦か(察し)》
《【ルージュ〆公式】これは2時間も動画は無いかな》
「え! ルージュ様まで?! だ、大丈夫ですよ! ね、マメ!」
「わん!」
見よ、こんなに自信満々のマメの顔を。
クルックも程良く緊張している。
⋯⋯クルックっていつ召喚して育成したんだっけ?
ま、良いか。
「見てくださいよこのマメの顔を! 安心出来るでしょ?」
《だから安心出来ないんだよなぁ》
《何故マメの自信を素直に受け取るんだこの天然TS魔王ちゃんは》
《マメだぞ? 世十だぞ?》
《挑戦者→被害者。はっきり分かったね》
なんだ、このマメに対する信頼の無さは。
仕方ない。
ここは俺がマメに言葉を貰うとしよう。
「俺は弱い奴を頼んだ。だからマメが彼を推薦した。そうだろ?」
「わん!」
そうそう。
弟子の中で1番弱い者⋯⋯うん。安心だ。
「ほら!」
《分からんって!》
《翻訳翻訳》
《どうも翻訳スキル持ちです。家で見てるのでスキル使えません》
《久遠ちゃんなんて言ってるの?》
「マメの弟子の中で1番弱い者だ、そうです!」
刹那、挑戦者の間に不安なオーラが漂い始める。
何故そんなにも絶望した表情になる?
1番弱いんだぞ?
僅かな可能性があるだけでも凄いのに。
《え、マジで久遠ちゃん気づいていない?》
《都合の悪い言葉は聞こえないシステムなの?》
《もう良いよ。始めよ。被害者、頑張って動画時間を伸ばしてくれ》
《久遠ちゃんの実況、沢山聞きたかったな》
「ねぇ! おかしくない? なんで視聴者も挑戦者も諦めムードなの! もっと元気だしてよ!」
《【ルージュ〆公式】どんまい!!》
「ルージュ様?!」
推しに励まされた⋯⋯嬉しい。
そろそろ開始時刻の昼1時。
夜の7時まで誰か1人でも捕まっていなければ逃げる側の勝ちだ。
「10分後に鬼は出発します。さぁ! 逃げてください! ダンジョン鬼ごっこスタートです!」
ちなみに捕まったらマメの影で最初のこの地点に戻される。
さて、俺は事前に準備していたモニターで挑戦者達の行方を確認及び実況でもしよう。
ダンジョンの中は既に仲間達に魔改造されており、配信がしやすい状況になっている。
どうやったかは⋯⋯詳しく知らない。
丸投げしたら完璧にやってくれたから。
「おっと。早速反応があったようでモニターが切り替わりました。なお、鬼は動いていません!」
何故に変わる?
このモニターは面白いところを見逃さないため、見所があると内蔵AIが判断したら切り替わる設計になっている。
AIが判断した見所とは!
「あらぁ」
ルミナが100を超えるモンスターを薙刀を使って瞬殺している光景に呆然としている挑戦者がモニターに映し出されていた。
《絶対に周りと見た目が違う奴レアエネミー。高額な奴!》
《ルミナ様のせ⋯⋯おかげで強さが分からないっ!》
《あ、絶対レアドロップのアイテムを粉々にぶっ壊した》
《まぁ鬼ごっこに邪魔だもんね。どんなにレアアイテムでも壊しちゃうよね》
ルミナめ⋯⋯俺もまだ見た事無かったドロップアイテムを躊躇いなく壊しやがった。
絶対に許さん。説教確定だ。
《死んだ目の久遠ちゃん可愛い》
《マメが久遠ちゃんに向けてカメラを構えているのかな?》
《このAI優秀かよ》
《ルミナ、南無阿弥陀仏》
何故かモニターに俺の顔が映る。
それに気づいた俺はニコニコ笑顔を作った。
《遅い遅い》
時間になったので、クルックを出動させる。
刹那、目にも止まらぬ速さで挑戦者を追いかけ⋯⋯数十秒後には数人の脱落者が影からニョキっと現れた。
「⋯⋯え?」
早すぎてAIが見所と判断する前に⋯⋯挑戦者が戻って来た。
《やっぱりな》
《知ってた》
《だってさ、マメの弟子だもんな》
《南無阿弥陀仏》
「り、リプレイ!」
俺はマメの協力で捕まった場所を特定し確認する。
すると、のんびりと隠れ場所を会話していた人達の背後に白い影が現れ⋯⋯2人が影に飲み込まれた。
その後には何も残っていない。
白い影の正体すら⋯⋯。
「⋯⋯」
俺はここで察した。
俺達の仲間で1番弱いのは当然俺、その次の誰かだと思っていた。
マメは賢い。きちんと意図を汲んで推薦してくれたと思っていた。
そうだよな。弟子の中で弱いだけであって、全体で見たら実は普通に強いんだろうな。
俺が自分の契約している召喚獣の数を把握しておらず、誰が誰に育てられたのかも不明⋯⋯うん。
俺ってば召喚士失格だな。
次々に戻される挑戦者を眺めながら俺はそう思った。
総合的に弱い奴を選出するならルミナに頼るべきだったか。
彼女は召喚獣を統べる立場だから、きっと理解しているはずだ。
「さて、と」
実況する時間、解説する時間⋯⋯そんなのは無かった。
だってモニターが遅いんだもん。
それでもAIくんが優秀過ぎて途中から見所関係無くても挑戦者を映して、その挑戦者が捕まるの繰り返しだ。
「お疲れ様でした!」
挑戦者確保人数100に到達してゲームセット。
生存時間3分!
良かったね! カップ麺が出来るよ!
「⋯⋯何がいけなかったんだ」
「わん!」
「翻訳します⋯⋯逃げる側は最初からスキルを使わずに逃げ切るための温存に回した結果、距離があまり開かなかった。クルックは耳が良く逃げる人の位置をすぐに特定し、スキルを使って最速で捕まえた⋯⋯らしいです」
動画の最後に1番最後に捕まった人の感想を聞いてみようと思う。
「えっと。俺普通にスキル使って全力で逃げたんですけど⋯⋯気づいたらここにいましたね」
「⋯⋯クルックは見えましたか?」
「めっちゃ遠くに白い米粒が見えるなと思った2秒後にはここにいましたね。まるで空間を切り取ったようなスピードでした」
「まともな感想を⋯⋯どうもありがとう」
「あ、いえいえ」
この人のおかげで俺の企画は台無しにならずに済んだと言える。
この人には20万円分、他の人には10万円分の魔石をプレゼントした。
残りは⋯⋯こっちで換金して動物保護団体に寄付でもしよう。
《ま、こうなるよね》
《凄いね! マメの弟子から3分も逃げれたんだよ!》
《3分の間に他のメンバーを捕まえた上に近づかれたのか》
《絶対に気配消してた人も捕まえてるでしょ》
《終わったな。最初の挨拶とか鬼が出る時間とか合わせて30分くらいか》
《サムネの長時間配信! はどうするのよ》
《既にサムネが修正されている》
《おつかれした!》
「ご視聴ありがとうございました! ⋯⋯つ、次こそは人選ミスは絶対にしないので! 次の参加企画も是非! 応募待ってます!」
何か豪華な景品を用意しておかなくては!