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召喚系配信者、妹のために

 鏡の中にいる俺は普段の俺とは違い、学校の制服に身を包んでいる。

 似合う似合わない以前に、見慣れないと言う言葉が頭に浮かぶ。


 「久しぶりの高校か。憂鬱な気分だ」


 それでも凛のために行かなくてはいけない。

 仲間達に護衛などを任せれば良いのだが、⋯⋯命令の出来ない所では何をしでかすか分かったもんじゃない。

 リスクを考えて俺が自分で調べる事にした。


 俺が階段を降りると、リビングから小さなスキップ状態で茜が出て来る。

 胸の前で両手で優しく持たれたのは弁当箱だ。


 「お兄さん。これはお兄さんの分の弁当。良かったら食べて」


 「ああ。ありがたく貰うよ。茜が学校に行ってから家を出る」


 「えっ? い、一緒に行かないの?」


 モジモジしながら聞いて来る。

 一緒に行くのは気まずい。それに周りに茜の兄がこんなのと思われたくない。

 茜は兄の贔屓目無しでも美人だし、こんな兄のマイナス要素は必要無い。

 だから俺は適当な事を言う事にした。


 「今日学校に行く事を先生に伝えたら、9時以降に職員室の方に来て欲しいと言われた。だから遅めで行く」


 「⋯⋯だったら私も!」


 「無遅刻無欠席は進学にも就職にも使える。先に行くんだ」


 「⋯⋯分かった」


 ポンポンと肩に手を置いて窘めてから、茜を見送る。


 「マメ、少しだけ力を貸してくれ」


 「わん!」


 俺の足元にいたマメが鳴いて、嬉しそうに尻尾を左右に激しく動かす。

 俺の役に立てる事を召喚獣として喜んでいるようだ。

 ⋯⋯どうして召喚獣はこんなにも召喚士に懐くのか、少し気になるな。


 「今は良いや。学校に先回りして潜伏場所を探す。マメは家の留守番と鍵を閉じるの、頼む」


 「わん〜」


 ちょっと残念そうだ。

 すまんなマメ。


 俺は茜よりも先に学校へと到着した。

 方法は想像に任せる。


 「さて、まずは職員室に顔を出すか」


 一応学校に来た事を報告しないとな。

 茜に言った事は半分嘘で半分事実。

 俺は担任に報告を終え、別の教室で授業を受ける事となった。

 変な気遣いだ。


 「海斗と涼ちゃんに会うのは気まずいか」


 ならこの判断も決して悪くない。

 だが俺の目的は凛の身辺調査及び、遊んでる連中の捜査だ。

 そのためには授業を受ける暇は無い。


 俺は一旦トイレに向かった。


 「さてと」


 俺は集中する。


 「擬の盟約の元、我の元へ姿を示せ。マネネ」


 マネネの強さはXP100万なので無条件で呼び出せるレベル。

 こいつの種族は擬態化身(ドッペルゲンガー)だ。


 つまり、マネネは俺の姿を完璧にコピー出来る。


 「マネネ、玖音様の盟約に従い顕現致しました」


 「助かる。俺は自由に動きたい。代わりに授業を受けて欲しい。頼めるか」


 嫌そうな顔をする。さすがはコピー人間。


 「心得ました」


 「凄く嫌そうだけど」


 「マネネは相手の能力の八割を完全再現します。性格もある程度反映されてしまい、制御の利かない無意識的と言いますか、反射的と言いますか」


 「ごめんごめん。責めてないから。頼むね」


 「はい」


 マネネは常識的な面がある貴重な逸材だ。

 任せても大丈夫だろう。


 マネネは相手の姿形だけではなくスキルなども八割コピーする。ただし、ユニークスキル以上の能力はコピー出来ない。


 何はともあれ、俺は晴れて自由の身となった。


 「そう言えば、マネネっていつ召喚して仲間になったんだっけ? まずいなー。絆が大切な召喚士が全く絆を深めてない」


 何とかせねば盟約破棄が有り得るな。


 さて、少し不安な種が増えたところで俺は隠れる場所を探し始める。

 教師の目につきながらも、制服だから問題無い。いたたまれない気持ちになるが。


 まずは1年教室を遠くから確認する。凛の教室の場所は把握している。

 ⋯⋯だが、そこに行くには他の教室の前を通る事になる。

 うちの学校の制服はブレザーであり、横側には赤色のラインが入っている。


 このラインの色は学年で分かれており、簡単に2年生だとバレる。

 つまり、あっち側にいけない。


 しゃがんで行くか?

 唐突な事態に対応出来ないだろう。諦めよう。


 アイツらが集まりそうな場所を探してそこに潜伏しよう。

 まず俺が目を付けたのは屋上に入るドアの前だ。大抵この辺に人は集まる。漫画だとそうだから間違いない。

 屋上は鍵が掛かっている。


 「隠れる場所は⋯⋯掃除用具入れか」


 縦細の入れ物の中に入る。そしてアイツらを待つのか。

 ⋯⋯良し。


 「休憩時間になるまではのんびりここでラノベを読みながら待つとしよう」


 ブレザーのポケットはラノベが入る⋯⋯良いよねほんと。

 ラノベを読んでいると、授業中にも関わらず人の気配がする。

 すぐに用具入れに入る。汚いし臭い。

 

 埃っぽいな。帰ったら制服を綺麗にしないと茜に怒られるな。

 綺麗にする事を覚えておこう。


 「たっく、あのジジイダルすぎ」


 「ほんとそれなぁ」


 嫌いな授業でバックれたらしい男が2人⋯⋯その顔には見覚えがあった。

 凛と遊んでた男だ。


 俺は静かに殺意を殺して聞き耳を立てる。


 「昨日の咲夜って女、良い体してたな!」


 「ほんとそれ。凛なんて咲夜と比べたら下だな」


 「ほんとだな!」


 は?

 凛が劣るだと? こいつら絶対に地獄に⋯⋯いかんいかん。

 俺がそう考えちゃうと仲間が実行するから冷静にならないと。


 咲夜と凛⋯⋯考えるのは止めよう。失礼だ。


 それからその2人の下衆を極めた会話で鼓膜を腐らせながら、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 その後、ワラワラと3人の男が現れた。


 「⋯⋯嘘、だろ」


 4人は凛と関わりのある連中だ。全員揃った。

 だが、溢れた1人が俺を驚愕させた。

 幼馴染、涼子の彼氏⋯⋯海斗だ。


 「海斗先輩どうしたんです?」


 「いやさ。お前らが咲夜と知り合ったって聞いたから来たんだよ」


 「知り合いっすか?」


 「あー幼馴染なんだよ。アイツ色々とデカかっただろ」


 「そりゃあもう!」


 海斗⋯⋯お前。嘘だよな?

 そんな奴じゃないよな。お前。


 「咲夜の情報やるよ。アイツはやりようによっては簡単に言いなりにできるぜ。俺は外聞のためにしなかったが」


 「お、聞きたいっす!」


 それから海斗は凛を人質にする計画を語った。

 コイツは⋯⋯前々から考えていたらしい。


 聞く度に、俺の心の中で何かが冷えて行く感覚に落ちる。

 

 もう⋯⋯手遅れなのか。

 俺が知らなかっただけで海斗は元々こんな奴だったのか?

 

 「それでさ。情報提供料って事で、咲夜の初めては俺にくれねぇか? 昔から狙ってたんだよ」


 「俺らは構わないっすけど、彼女は良いんすか?」


 「ああ、アイツ? アイツは元々玖音の野郎を絶望させるために利用しただけだよ。もう飽きたからお前らが好きに使えよ」


 「あざーっす!」


 「乱パには俺も呼べよ〜」


 ケラケラと笑い出す猿共。


 俺は知らなかった。

 海斗のこの一面を。


 俺を絶望させたい理由なんて知らない。興味も無い。

 だけど、こんな奴に涼子が弄ばれているのは気に食わない。


 でも⋯⋯まずは、凛からだ。


 夜、俺は凛達が揃ったタイミングかつ人気の無い場所で前に出た。


 「ん?」


 恐れは無い。昨日の俺とは色々と違う。

 用具入れで握り締めた手は未だに爪が食い込み切れた痕が痛々しく残っている。

 

 いや、怖いよ。怖いし逃げ出したいとも思ってる。

 でもさ。それ以上に怒りと責任感があるんだ。

 俺は兄だから。


 「凛、帰るぞ」


 「はあ? いきなり出て来てなんなのウザイんだけど」


 「だってよ! つーかお前誰? 凛ちゃんのストーカー?」


 「俺は凛の兄だ。凛、コレらとは関わるな。帰ろう」


 「コレ?」


 俺が凛に手を伸ばすと、パチンっと強く弾かれる。

 凛の明確な拒絶の後に追い討ちの睨みが俺を貫く。


 「ウザイって言ってんだろ! きめーんだよ!」


 「だってよ。残念だったなお兄さーん!」


 「うぐっ」


 いきなり腹にパンチを飛ばして来た。

 格闘技経験の無い俺では防御すら出来ない。


 「ゴホゴホ」


 「あははは。なっさけな! やっぱり愚兄ね!」


 ケタケタと笑う凛。


 ⋯⋯良いさ。笑いたければ笑え。

 でも、コレらとは引き剥がす。どんな事をしても⋯⋯。

 こんな脳が下半身に付いてるような猿からは。


 凛が傷つかないために。

 凛が泣かないために。

 そのためなら俺は⋯⋯どんな事だって出来る。


 「なんだ。その目はよ!」


 「うぐっ」


 その後は4人からの暴行を受け続けた。リンチだ。

 ボコボコにされながらも俺は言葉を変えずに、同じ事を繰り返した。まるでそれに取り憑かれているように。


 「凛、帰るぞ」


 「まじでキモイんだけど」


 「そろそろ本気で行くかな!」


 顔面に膝が入り、血が少し飛び出る。

 その後も顔などへ攻撃を受ける。

 痛みは⋯⋯我慢出来る。でも、凛に何かあれば俺は我慢が出来ない。


 鼻血が出ても、口などが切れて血が出ても、俺は立ち上がる。


 「ちょ、さすがにやり過ぎだって」


 凛が猿達を止めに入る。

 猿はその凜をあろう事か鼻で笑う。


 「んだよ楽しんでたじゃん。良いとこだからさ、楽しもうぜ!」


 猟奇的な猿を前に凛は冷や汗を流す。

 焦りのまま言葉を絞り出す。


 「こ、このままじゃ死んじゃう」


 凛の震える声が聞こえる。


 「愚兄なんだろ? 良いだろ死んでもさ」


 「は? 何言ってんの? ばっかじゃないの!」


 「なんだと?」


 ドスの利いた声。

 猿が汚い手で凛の腕を掴み自分の懐に引きずり込む。


 「痛い! 何すんのよ!」


 「お前さ。遊び人の性格や見た目してるくせにガード固いから飽きてたんだよ。⋯⋯だからさ、丁度いいなって」


 「は?」


 猿の片手が凛の胸を掴む。力強く、ギュッと握った。


 「ちょっ! 何すんの⋯⋯痛い! 止めて!」


 「柔けぇ! ホンモンかよ! 盛ってねぇぞ! 絶てぇに人が来ない場所に移動しよーぜ!」


 「ヒュー。さいこー!」


 「やめ、サツ呼ぶぞ!」


 「威勢が良いね。呼ばせねぇけど!」


 俺はそいつの足を掴む。

 そして、地面から顔を離してクソ猿を睨む。


 「凛から、汚い手をどけろ」


 「チッ。こんなに殴っても動けんのかようぜぇな。⋯⋯仕方ねぇな。折角だ。最近手に入ったこれ使うか」


 そう言って猿達が紫色の宝石を嵌めた指輪を取り出す。


 「俺のレベルは64! 高校生では異例だぜ」


 「何の話だ。スキルやレベルはダンジョンの中でしか効果を発揮しない」


 俺の正論に猿達は笑う。

 凛を放り投げ、手をポキポキ鳴らす。

 凛は両手を地面に着けて、痛そうに声を詰まらせる。


 怪我が残ったらどうしてくれんだマジでっ!


 「凛! 今のうちに逃げろ!」


 「逃げんなよ! 逃げたらてめぇも殺すからな! もちろん、壊れるまで遊んだ後にな!」


 「ひっ」


 凛が涙を流した。怖いから、泣いた。

 俺の妹が⋯⋯泣いた。


 「簡単に死ぬなよ? サンドバッグ!」


 指輪を嵌めた猿の今までで1番強い一撃を腹に受ける。


 「ごはっ」


 吹き飛び、コンクリ製の壁に突き刺さる。

 頭から血が流れる。視界が真っ赤に染まる。


 これは確かに、ステータスの力だ。

 人間の力じゃない。


 ⋯⋯だが、そんな事よりも俺の頭を埋め尽くす怒りがある。

 妹が⋯⋯泣いたんだ。


 「さすがは俺のパワー!」


 4人のケラケラとした笑い声が響く。

 ⋯⋯なんで使えるんだ。とか、今はどうでも良い。

 どんな理由であれステータスを使うなら、一線を超えると言うなら⋯⋯俺も使って良いんだよな?


 「なぁ、あんたらさ。こんなにフルボッコにされて普通に立てる俺を不思議に思わないのか?」


 「⋯⋯まさか、お前もコレを」


 「そんなのは知らん。別に教える気も無い」


 この人外の耐久力は盟約の力だ。


 盟約は召喚契約の上位互換。

 盟約相手によっては加護を得られる。

 耐久力が上がったり再生力が上がったりとか色々だ。

 そして⋯⋯召喚制限無く呼び出しが可能だ。


 盟約の一番の特徴は、召喚獣が自ら望まないと結べない契約と言う事だ。

 だからこそ、最大限の絆が必要となる。


 猿共の事情も何も興味無い。

 ただ、凛が泣いてるならすぐに終わらせないといけない。


 「我が血を贄に盟約に応えよ。来い、ルーザ」


 俺の血を媒介に盟約により召喚可能、始祖吸血鬼(オリジンヴァンパイア)


 「世十が一人、世血(せっけつ)のルーザ。ここに」


 眼鏡をカチャっと動かす。

 白髪隻眼、オールバックの髪型にタキシード姿が似合う執事のような男だ。


 「なんだこいつ? つーか召喚士か」


 言葉を出した奴を生ゴミを見る目で睨むルーザ。


 「それで玖音様、このゴミ共を殺せばよろしいので?」


 俺の姿を見て、殺気を隠そうともしない。

 正直殺したい程に憎い⋯⋯凛に痛い思いをさせ無理やり体に触れ、泣かせた。

 だが、俺は必死に理性を働かせる。


 「殺しは許可しない⋯⋯だが、同じような事が二度と出来ないようにしろ。これは⋯⋯命令だ」


 ルーザは恍惚とした瞳とはち切れんばかりの邪悪な笑みを浮かべる。

 召喚獣は俺からの『命令』を何よりも好む変態性癖の持ち主だ。

 そして、命令は完璧に遂行してくれる。俺の望んだ結果以上の成果で。


 「だからどうしたんだよ!」


 スキルにより強化を乗せた攻撃。

 レベル80越えの素の攻撃力はありそうだ。

 ⋯⋯だが、ルーザには1ダメージも入らない。


 「ルーザはレベル40だ」


 XP4000万だが。種族的レベルは40なので間違いではない。


 俺がレベルを言ったのは希望を持たせるためだ。


 「皆で攻めるぞ!」


 「くふふ。愚か者ですね。力量も分からぬとは」


 刹那、ルーザから飛び出た血が刃となって猿共の足を切り飛ばした。


 「追加命令、自由にさせる時は元の見た目にしておくように」


 「仰せのままに」


 俺はすっかり治った体で凛に近寄った。


 「凛、帰ろ。今日ここで見た事は忘れた方が良い。辛い記憶だから」


 「⋯⋯ごめん。ごめんなさい」


 凛は滝のような涙を流し震える手で俺の服を掴む。

 今までの態度、ピンチから助けて貰った恩義⋯⋯彼女の中にある葛藤は如何程か。


 でも今はそんなの関係無い。

 嫌いとか好きとか関係無い。

 兄が妹を助ける⋯⋯至極当然の事をしただけなのだから。

 でも、もしも今回の一件で凛に変化が訪れるなら、俺はそれを歓迎しよう。

 

 俺は凛を優しく立たせ、背後から聞こえる断末魔をBGMに帰路に着いた。


 「もう、何も心配要らないから」


 「ごめん。ごめんなさい」


 震える声。終わった後も残る恐怖。

 簡単には消えないだろう。


 「凛は俺が守るから。だから、いつもみたいにしてくれていたら良い。⋯⋯ただ、茜とはあまり喧嘩しないでくれ。2人の喧嘩は嫌だから」


 「う、うん。うん。⋯⋯怖かった。ごめんなさい。助けてくれて⋯⋯」


 俺は凛の口を塞いだ。


 「感謝されるような事はしてない。ただ、もうこんな生活は止めてくれ。頼む」


 「うん」


 「それで十分だ」


 その後は何も会話はせず、家に着いた。

 服の汚れしか残っていなかった俺は茜にこっぴどく叱られた。

 だけど凛も一緒に叱られてくれた。


 だからだろう。叱られているのに笑顔が崩れなかった。

 

 ⋯⋯そのせいで今後、俺にMのレッテルが貼られる事となる。

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