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前世の記憶と悪夢に押し潰され、今生の生きる意味を失いつつあった俺は逃げることにした。
アルファと分かってから、すり寄ってくる輩はさらに増えた。
興味なんて全くなかったが、オメガのヒートに当てられて沸き起こる欲望をありったけぶつけた。
その間、苦しい現実を忘れることができた。
苦しい現実から逃れるために、俺は性欲に走ったのだ。
さいわい、俺に抱かれたい者は絶え間なくやってきた。
うまい逃げ場が出来たもんだ、そう思った。
それでも、悪夢から逃れる術はない。
夢は更に酷くなった。
転がったまま虚無の目だけを俺に向けていた5つの首。
そのうちの一つが段々俺に近づいてくる。
その首は娘のものに似ているようにも見えた。
いや、誰の首であったかなんてどうでもいい。
ひたすらに、その場から逃れたかった。