17ー魔女の末裔(下)
父から聞かされた話と自分の記憶とを合わせた、一族の歴史を振り返っていた俺は、慌ただしい足音にふっと現実に引き戻された。
王宮から届いた伝令によって、屋敷中が冷たく重々しい空気に包まれた。
旦那様や叔父に続いて俺も馬車に乗り込んで、急いで王宮へ向かう。
お嬢様がお妃に選ばれたとき、俺は一抹の不安を抱いた。
自尊心の高いお嬢様が王の愛人を受け入れるだろうか、と。
この国の王には、王子時代から囲っている男の愛人がいた。
5年前、その男を傍に置くことを条件に王となった。
当時は深刻に受け止められていなかったが、4年経っても妃を迎えようとしない王に対して、周囲は焦りを見せ始めていた。
何とか王を説得し、妃に決まったのが、まだ成人前のお嬢様であった。
成人と同時に妃として王宮に上がったのが、半年前。
お嬢様は天真爛漫で愛らしいが、貴族特有の傲慢や我が儘なところがある。
あのときの不安が現実のものとなったのである。
眼前の光景に、身体が燃えるように熱く、世界が真っ赤に染まった。
俺の命である、大切な愛おしい妹を殺された。
己の愛人を襲うよう命じた妃に対し、王の逆鱗は妃一人の首だけでは収まらず、妃に仕える侍女までに及んだのだ。
俺の決断は早かった。
王よ、今すぐ愛人と共に死んでくれ。そして転生した先で、運命のごとく、愛人と再会するがよい。暗闇を照らす希望として愛人は現れるだろう。しかし、おまえが幸福になることはない。
俺の命を代償に呪いをかけた。
ところが、呪いが発動する気配はない。
代償として俺の命だけでは足りないのか。
ならば、一族全てをかけよう。
叔父さん、ごめん。俺のせいで一族の歴史が終わる。
呪いが発動した。
最後に、殺された侍女の一人が恋人だという偽りの記憶を、王の愛人に植え付けた。