16ー魔女の末裔(中)
父と叔父は、以後10年を不安の中で過ごした。
呪いの力を持つがゆえに、酷いいじめに遭うかもしれない。
しかも自分たちを守ってくれる大人はいない。
しかし、皮肉にも呪いの力によって兄弟は守られていた。
呪いを恐れた人々が、二人に近寄らなかったのである。
兄弟が29歳の年、転機が訪れる。
叔父は、当時30歳で外交官として隣国訪問していた今の旦那様と出会う。魔女の末裔に強い興味を抱いていた旦那様の要望があったのだ。
国を出る決心をして方法を模索していた叔父にとってはまたとない機会だった。
父は一人の娘と恋に落ちる。
見目麗しい兄弟は非常に目立っていたが、若い娘たちは遠くから眺めるだけだった。
恋に落ちた娘は孤児で反対する親もいなかったので、二人は結婚した。
それから1年後、叔父は国を出た。
一緒に行こうと誘われたが、父は愛する人と共に故郷に残った。
夫婦には、結婚7年目にして痣を持つ男児が生まれた。俺だ。
さらに4年後、難産のすえ、一族はじめての女児が生まれたが、母親は命を落とした。女児に痣はなかった。
母が死んで悲しみに暮れながらも、俺たち3人は、裕福とはいえないが平穏な日々を過ごしていた。
小さい妹はすごく可愛くて、俺は夢中になった。
ところが、平穏な日々は長く続かなかった。
俺が9歳の年、農作物の収穫が目に見えて減ったのだ。
あの光景が甦った父は、隣国にいる叔父に密かに連絡をとり、国を出る準備をした。
不作が続いた翌年、俺と妹は一足先に国を離れ、叔父の所に身を寄せた。
後から来るはずだった父には、二度と会うことは出来なかった。
不作が長く続くかもと不安に駆られた人々が押し寄せ、中に父を監禁したまま家ごと火をつけた。
しかし、父が殺されても恵みの雨は降らなかったし、不作はさらに1年続いた後徐々に解消された。
この話を叔父から聞いたとき、腹の底からフツフツと沸き起こる怒りと憎しみに任せて、あの国まるごと呪いをかけようかと本気で思った。
でも、代償がどれぐらいかわからないし、妹を守らなければならない。
やるせない気持ちを無理あり押し殺して、叔父のもとで必死に学んだ。
5年まえからは、旦那様に書類仕事を任せられている。
お嬢様の侍女になった妹は、半年前、お妃となったお嬢様に付いて王宮に上がった。