13ー佐々木れい(下)
はじめて目が合ったとき、男ー紀里谷まさきーの表情が歓喜に変わった。
俺が運命であると、男にもわかったのだ。
殺したい。しかし剣の一振りで終わらせるのは、味気ない。
幸福へと伸ばされる男の手を振り払って、永遠に満たされない苦しみを味わわせてやりたい。
マスクを少しずらして男のフェロモンを嗅いでみた。
なるほどこれが運命の番同士の引力というものか。
アルファやオメガのフェロモンに対して不快感を抱く俺でも、抗いがたい欲を感じずにはいられなかった。
しかし、抵抗できない程ではない。
俺は、他人のフェロモンに過剰反応するオメガだった。
少し気持ち悪いときもあれば、酷い吐き気を催すときもあるし、最悪嘔吐したこともあった。
医者が言うには、病気あるいは欠陥らしい。
以来、フェロモンを遮断する特殊なマスクをつけるようになった。
が、俺は<超能力>だと思っている。
誰にも明かしていないが、この症状にはちゃんとした理由があった。
不快に思うフェロモンには、微かに違うフェロモンのにおいがするのだ。
それが抱いた(抱かれた)相手のものだとわかるまで、それほど時間はかからなかった。
自分なりに検証した結果、相手が多ければ多い程、不快感も比例して酷くなることがわかった。
俺を前にしては、童貞も処女もヤリチンもビッチも丸裸にされるのである。
笑っちゃうよね。
おかげで、オメガでありながらフェロモンに惑わされることはなかった。
紀里谷まさきはヤリチンだった。
運命の引力がどれほど強力であっても、俺の超能力には届かない。
絶対に、番にはなってやらない。
他のアルファと親密なところを見せつけるのもいいかもしれない。
屈辱と嫉妬で苦しみながら死ね!